8月1日 その④
──池本冴恵香。
俺及び俺の父親である池本朗と同じ苗字を持つ少女が、円卓を囲んだ椅子に座っている。
ということは、彼女も俺と同じで生徒会長に選ばれたのだろう。最低でも生徒会長の25%が池本姓であることが確定した。「佐藤」や「田中」であれば増えるのもわからなくないが、多くも無い「池本」で被ることがあるだろうか。
しかも、冴恵香だ。俺は栄だ。「さかえ」と「さえか」。二文字違い──というか、「か」と「え」を入れ替えただけのアナグラムである。
──絶対に、俺と何かつながりがある。
それが生き別れの姉だか妹だか双子だかは知らないけれど、絶対に何かあることは間違いないだろう。
「──冴恵香……さん、よろしく」
「冴恵香でいいよ。皆からもそう呼ばれてるし」
そう口にして、彼女は座り直しながら後ろにいる男子陣に視線を向ける。男でもイケメンだと思うような人物を4人侍らせている俺に似た美少女。なんだか複雑な気持ちだ。
「じゃあ、俺も栄で構わない。それで、そっちの君は?」
俺は、もう一方の青年──円卓に靴のまま足を置いている男性の方に声をかける。だけど、目を瞑っている彼に無視されてしまう。寝ているわけではないだろうが、あまり心象は良くない。
「──ワタシが訊いても教えてくれなかったし、何の話題を出しても話してくれないの」
「そうなのか……」
会話する能力がない──というよりは、会話する意思が無いのだろう。愛香と似たようなタイプかもしれない。とりあえず、愛香はドラゴンタイプだから話合わせたとしても相性最悪だろう。
──と、冴恵香は俺達には聞こえない声で後ろにいる男性とコソコソ何かを話しているようだった。
俺も、視線を後ろにずらして4人に声をかける。
「皆は冴恵香のことはどう思う?」
「とりあえず、余達が会ったロンとは別人だ。栄と似ている以上、警戒が必要かもしれないけどな」
この中でロンと邂逅したことがあるのは、皇斗と愛香だけだ。だから、どうしても2人に判断を任せることしかできない。
「──どうしよう、私達も自己紹介しておいた方がいいかな?」
智恵が他の皆の顔色を窺うようにしながらそう問いかける。
「まだいいや。全員揃ってないしさ」
「そもそも、余達に発言権が回ってくるとは思えない。多分、栄に助言をするのと用心棒のような形なのだろう」
純介と皇斗はそう言うし、愛香は喋る素振りを見せないしで自己紹介はなさそうだ。向こうも名乗ろうとする素振りを見せないし、必要ないだろう。
「──それで。栄もデスゲームを生き延びたんでしょう?どんなゲームをやったの?」
沈黙により気まずさが出る前に、俺の方に話題を出してくれる冴恵香。俺も、その話題に乗ることにした。
「とりあえず、一番直近にやったデスゲームは異世界を冒険するって趣旨のやつだった」
七不思議について話していいのか迷ったから、俺は第八ゲームのことを話すことにした。俺は牢屋に閉じ込められていただけだが、映像は見ていたからとりあえずはでっち上げできそうだ。後で愛香からどう弄られるかはわからないけど、それに関してはとりあえず目を瞑ることにする。
「一緒だ!もしかして、ドラコル王国?」
「──そう!クラスは違くてもデスゲームの内容は一緒なのかな」
マスコット大先生に問いかけても答えてもらえないだろうし、冴恵香と擦り合わせるしかないだろう。
「じゃあさ、最初のデスゲームはなんだった?ワタシは『クエスチョンジェンガ』だったんだけど──」
ドンッ。
彼女が話していると、視界の端でそんな大きな音がする。見ると、円卓に載せていた足を力強く叩きつけていた青年の姿があった。
「──お前ら、うるせぇ。少しは黙って待つくらいできねぇのかよ」
軽蔑するような視線を俺と冴恵香の2人に向ける名前すら名乗らぬ青年。
「──でも」
「黙れ、クソビッチ」
「──ッ!」
冴恵香が果敢に反論しようとするけれども、その青年は彼女のことを一蹴する。俺もその発言には許せない部分があったけれども、それよりも早く怒りを覚えたのは冴恵香の後ろに立っていた男の中の1人。
金髪に染め上げ、派手なネックレスと服に身を包んだ如何にもチャラそうな男だった。
「お前、調子乗ってんじゃねぇぞ。一匹狼がカッコいいと思ってんのか知らねぇが、舐めるような態度取るってェなら俺がお前をぶっ殺す」
「それ、魁亜が言う?でもまぁ、黙らせるのは賛成かなー。黙ってた方がカッコよさそうだし」
魁亜と呼ばれた金髪の横から顔を出した白髪の狐目男性がそうやって口を挟む。魁亜にグッと頭を押さえつけられて冴恵香の影に隠れた白髪の男をよそに、相変わらず円卓に足を乗せたままの青年はこう返した──。
「ピーピーうるせぇな、チンカス。やってみろよ、温室育ちのお前にやれるもんならな」
「──宣戦布告と受け取った!今、ここでお前をぶち殺す!」
魁亜がそう宣言して冴恵香の前に出ようとするけれど、当の冴恵香がその動きを止める。
「──やめて。喧嘩、しないで」
泣きそうな声でそう訴える冴恵香に腕を掴まれて、魁亜は困ったようにしている。そして、反対の手で頭を掻きながら──
「──あぁ、クソ。そんな顔されちゃ殴ってもスッキリしねぇぜ、冴恵香の優しさに感謝しろよ、クソ野郎」
「お前こそ、だ。俺に返り討ちにされる前に止めてくれたクソアマにありがたがってろ」
舌打ちだけが会議室に響く。完全に凍りついた雰囲気の中、会議室にいる付き添いの教師陣3人だけが含みを持った笑みを浮かべていた。





