8月1日 その③
──11時20分。
約束の時間はあっという間にやってきていた。
「──そろそろだね」
俺に寄りかかるようにしてソファに座っている智恵が、不安そうな声で俺に抱きついて来る。
「緊張してるの?」
「うん。向こうもデスゲームを生き延びてきた猛者ってことでしょ?どんな人なのかわからなくて緊張するよ……」
智恵の緊張もわからなくはない。
自分達も理不尽なデスゲームを生き延びてきたという自負があるが、他の人達がどんなゲームをさせられたのかはわからないのだ。同じゲームだとしても、人が違うだけで展開や難易度は大きく変わるだろう。
「大丈夫だよ。智恵は修行をして強くなったんだし、皇斗達だっている。あ、撫子が助けてくれてありがとうって言ってたよ」
「──本当?」
智恵が俺の肩に沿わせるようにして首を傾げると同時、リビングの扉が開かれる。
「栄の言葉に嘘がないことは妾が保証しよう」
そんなことを口にしながら入ってきたのは、愛香であった。その後ろには、皇斗の姿もある。
会長会議の参加者が、全員揃った。
「それじゃ、出発か」
俺は智恵の手を握りながら立ち上がる。智恵も俺に倣って立ち上がり、両腕を上に伸ばした。
「じゅんじゅん、もう言っちゃうの?」
視界の中では、遊びに来ていた紬が同じく立ち上がった純介にそう声をかける。
「うん。つむは待ってて。僕達は必ず帰ってくるから」
「勿論。じゅんじゅんが帰ってこないんじゃないかなんて、最初から考えてないよ」
純介と紬は、ハイタッチをしてから抱き合う。
「感動の最終回だな」
「ちょっと、縁起悪いこと言わないでよ」
腕を組みながら2人のことを見ていた愛香がそんなことを口にするから、智恵は思わず口を挟む。
「ごめんね、待たせて。行こう」
純介は愛香の発言を無視して、紬の方に小さく手を振る。皇斗を先頭に俺達は寮のリビングを出て行って、そのまま健吾や紬に見送られながらマスコット大先生の待っている校門の方へと向かっていく。
──足取りは然程重くない。
緊張は少しあるが、仲間がいるから俺は進めた。
「池本栄君。そして、有象無象の皆さんが今回の会長会議に参加するということでよろしいですね?」
「おい。折角他クラスからの襲撃を退けてやったというのになんだその態度は」
「これはこれは、鏡の世界で四肢を無くしてみっともなく東堂真胡君に抱っこされていた森愛香さん、大変失礼いたしました」
「殺す!」
煽り合いが始まり、愛香がマスコット大先生を一回殺したところで一度話を落ち着ける。
「愛香は代わりがいるからってすぐにマスコット大先生を殺そうとするな。マスコット大先生も不必要に挑発しないでください」
「ふん」
当たり前のように新たな個体が現れたマスコット大先生と、腕を組んでそっぽを向いた愛香の両方に俺は一喝する。両者の性格は元来だから、直ることはないだろうけど停戦には持ち込めた。マスコット大先生が残機-1で終了だ。
「──くだらない話はおいておいて。会長会議の会場の方へと早速向かいましょうか」
新たに派遣されたマスコット大先生がいつもの口調でそんなことを言う。くだらない話を始めたのは誰だ、と言いたくなるけれどそんなことを気にしている暇はない。
「こっちです。ついてきてください」
先陣を切って歩き出すマスコット大先生の後ろをついていく俺達5人。緊張からか、会話はない。
誰もがマスコット大先生に従って校舎の中に入って蒸し暑い階段を登っていく。
「先生、どこに向かっているんですか?会場への入り口はどこにあるんですか?」
マスコット大先生のことだから、どこかの教室に映像を投影して「これが会場です」などと口走っても何もおかしくなさそうだった。だけど、そうじゃないのか少し自信があるような声で上を指差す。
だが、ここは4階。これより上に立ち入れる場所はない。
「──屋上って行けるんですか?」
俺よりも早くそんな質問を投げかけたのは純介だった。これまでのデスゲームで、屋上に立ち入ることはできなかったはずだ。だから、てっきり屋上には辿り着くことができないと思っていたのだが──、
「はい。屋上に行くことはできますよ」
マスコット大先生はそう口にすると、4階から屋上へと続く階段へと登る。そして、懐から鍵を取り出して解除した。
「──これは救護室に続く2つ目の新マップ。会議室です」
マスコット大先生が扉を開く。そこに広がっていたのは、クリーム色の壁をした空間。
そこの真ん中には白い円卓がある。全部で8つの椅子を均等に置けそうな感覚で椅子が並べられているが、その一つは椅子が置かれておらず空白だった。なので、全部で7つの椅子が用意されている感じだ。
そして、円卓に座っているのは今のところ2人。
1人はツインテールの黒髪の女性で、緊張したように俺の方へと視線を送る。その後ろには4人の個性の強そうな男とマスコット大先生に似た被り物をした人が立っていた。
もう一方には、円卓に足を置いて座っている目つきの悪い男性。こっちに睨みを利かせている彼は、今すぐにでも殴ってきそうだった。
「──池本栄君。それでは、こちらに」
マスコット大先生に一つの席を案内される俺。椅子に座っているのは会長なのだろう。そんなことを思いながら着席すると──
「──アナタ、池本栄って言うの!?」
座った俺とは裏腹に、ガバリと立ち上がって身を乗り出したのは智恵と同じツインテールをした彼女。
俺が頷くよりも先に、彼女はその名を名乗る。
「ワタシ、池本冴恵香って言うの!名前、似てるね!」
そう口にして微笑む彼女からは、鏡に映る自分とどこか似た雰囲気を感じられた。





