7月31日 その㉜
──七不思議其の参『マン・イン・ザ・ミラー』の顛末を話そう。
「──やはり、四肢はあるに限るな」
右手をグーパーさせながら、血溜まりの真ん中をそんなことを口にするのは、先程まで鏡の世界に閉じ込められていた愛香。その左右には、皇斗と真胡という第5回デスゲーム参加者の中で男子のツートップに位置する2人を侍らせながら、自分の四肢が返ってきたことを安堵する。
──実際、憂慮はあった。
鏡の世界から抜け出しても、四肢は返ってこずに鏡面のようになっていた傷口から出血して死ぬかもしれないという憂慮が。
だが、その心配は杞憂で愛香の体はそんな負傷など無かったかのように元通りだ。
──と、どうして3人が戻ってこれたかという話をする必要があるだろう。
3人が現実世界に戻ってこれたのは、七不思議其の参が終了したからではない。逆に、もし脱出する前にゲームが終了していたら四次元から助けが来るまでは永遠に閉じ込められていただろう。
では、どうして現実世界に帰ってこれたのか。答えとしては、愛香達が立っている血の池にある。
そう、彼女達は現実世界にできた血溜まりを「一つの大きな鏡」だと解釈した。いくら血であっても大量に溜まってかつ凪いでいれば、自分自身を映すのだ。
戦闘が行われている間は猫又一心不乱や他のデスゲーム参加者が攻防を続けていたり、智恵が校舎の方へ走っていたりしていたため中々凪ぐタイミングを見つけられなかったから、戦闘が終結した今こうして出てきたのだ。
「この様子だと、余が助太刀に行く戦闘は残っていなさそうだな」
「そうだね。問題は、犠牲者がいるかいないか──だね」
真胡が不安になるのももっともだろう。何せ、こんなに血溜まりが広がっているのだから。心配しない方がどうかしている。戦闘が終わった次に必要なのは、どれだけの死傷者がいるかだ。
──そんなことを話していると、稜が校門の方へと走っていく姿が見える。
その腕には何かしらの応急処置が為されているようだった。きっと、戦闘を終えてマス美先生にしてもらったものだろう。
──そして、彼が最後の鍵を差して七不思議其の参は終了する。
***
「──で、だ。これが最終結果か」
怪我人の数が多く、保健室がいっぱいになったため処置が必要な人は全員校舎の外にある救護室に移動させられていた。
現状のすり合わせをするために、ほぼ全員がその部屋に集まっていたのだ。そこには、過去の生徒会メンバーである撫子と紫陽花の姿がある一方で、最大の貢献人である猫又一心不乱の姿はなかった。
とりあえず、欠けたものはいない。だが、怪我人は大勢いた。
「それぞれ、一言で何をしていたかの報告をしよう。とりあえず、質疑応答はその後だ」
皇斗が場を取り仕切ってくれる。そして、報告が開始した。
「まずは余からだ。鏡の世界に閉じ込められたが、紆余曲折を経て李徴を倒した。色々と省略するが、彼は死んだ。そして、池本ロンを名乗る人物と邂逅した」
「「「──ッ!」」」
その名を聞いて、俺を含めた多くの人が驚きのあまり喉を鳴らす。俺と同じ苗字を持つ者だ。
マスコット大先生──俺の父である池本朗のことだからきっと偶然ではないだろう。
「今回の襲撃の首謀者は彼だ。飄々としていると思えば、仲間については敏感な掴みどころの無いやつだった。芽を摘んでおくことも考えたが、阻まれて逃がしてしまった。きっと、自分達の会場に帰っていったのだろう」
会長会議。そこに、俺に似た人物が最低一人参加する──そう考えると、少し緊張してくる。
目下、俺達の敵になることは間違いないだろう。
「じゃあ、次は俺だな。俺と秋元は、2人で一人の刺客を退けた。所謂ギャルのような喋り方をしてくる奴だったが、血で汚れたことを口実に撤退していった。以上だ」
「オレ達も似たような感じで刺客と戦った。周囲に合わせて撤退したみたいだけどな」
誠に続いて、健吾もそう報告する。そして、マイクは美緒に渡された。
「私は寮で刺された蒼を保健室に運んだあとで、相生葵を名乗る女性の刺客と戦ったわ。稜が助けに来てくれて、戦闘終了後に応急処置を受けて鍵を差しに行った。それでゲームは終了したって形ね」
梨央と稜を介して、俺に発言権が回ってくる。
「俺達は歌穂の相手にしていた。智恵が来てくれたから、誰一人失うことなく歌穂を人に戻せた」
そして、俺は右隣にいる智恵の方を見て話すように促す。
「私はチームHの寮で『七つの大罪』の修行をしていたら、外でいざこざが起こった。2人は待っててって言われたけど心配で家を飛び出しちゃった。それで、栄のところまで行って身に着けた『七つの大罪』で白虎を寝かせたって感じ、です」
撫子が智恵のことを睨んでいるけれども、口をはさむ様子はなさそうだった。
「次は俺か。蒼を保健室に運ぶために校舎内に入って、一人の男と戦った。発言が過激過ぎて、俺も言いたくないくらいだ。奴も帰っていった」
そして、数人を飛ばして発言権が蓮也に回ってくる。
「ぼ、僕は家で閉じこもってました……」
「僕も」
蓮也と陽斗がそう口にする。大群に恐れ戦くのも無理はない。下手すれば、死んでいた可能性があるのだ。そして、紫陽花に話が回ってくる。
「──では、次は妾だな。ココロと呼ばれていた女児と戦った。彼女が撤退する際、妾もロンを名乗る男と出会った。栄と容姿が似ていたが、気味の悪さがあった」
そして、次は撫子に渡される。
「──寮を飛び出したはいいものの、負けかけていたわ。正直、智恵が助けてくれなかったら危なかった。だから、今回のことは不問にするわ」
そう口にして一周分の方向が終わる。撫子のそんな発言を聞いて、智恵は心底安堵したような顔をしていた。
俺じゃない俺──池本ロンなる人物の登場により更なる謎が増えていく中で、簡単な質疑応答をして今日は解散になる。
池本ロンについては誰も特に情報を手に入れられていないようで、有益な何かを手に入れることはできなかった。
──明日から8月が始まる。
──会長会議はすぐそこに迫っていた。





