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7月31日 その㉔

 

 ──栄に会いたい。

 窓の外を見ながら、智恵の栄に対するは燃え上がっていく。

 きっと、師匠──撫子は智恵が栄と会ったら激怒するだろう。


「──ううん、違う。栄に会いに行きたいって気持ちは、師匠にだって止められない」

 智恵はそう口にして、1人で頷く。智恵の気持ちが固まった今、目下問題になりそうなのは一つ──、


「・・-・・ ・・ ・・- --・-・ -・ ・・--」

 智恵に対してモールス信号を使って話しかけてくるのは、智恵の師である撫子やその同居人である紫陽花と同じ第3回生徒会メンバーである深海ケ原牡丹であった。現状、智恵の唯一の障壁である牡丹の対処を智恵は考える。


「ねぇ、牡丹。私、ここを抜け出したいんだけど。見逃してくれない?」

「-・ ・・ -・・・-」

「お願い。今回だけでいいからさ」

「・-・ ・-・-- ・・ --・-・ ---- ・・-・・ ・-- ・・・- ---・ ・・・- --・-・ -・ ・-・・ ・・・」

 智恵のお願いを聞き入れてくれない牡丹を見て、智恵は唇を尖らせる。

 そもそも、牡丹には智恵に肩入れする理由などない。智恵の背負っている凄惨な過去を知っているが、それは牡丹の持つ敗北の歴史に比べればまだまだ軽い。


「じゃあさ、私と勝負しようよ。殴り合いとかは痛いから嫌だし、牡丹の得意な言葉に関するゲームでいいよ」

「・- ・--  -・・- -・-- -・--・ ・-・・ ・・・」

 牡丹の持つ圧倒的な敗北力を知っている智恵は、勝負を挑もうとするけどそれさえ牡丹に断られてしまう。


「・-・・ ・--・ -・ ・・・ ・・-・- ・・-- ・-・・ ・・ --・-・ ・-・-- ・・-・・ ・-・・ ・- ・・- ・-・-・ -・ ・・ ・-・- ・・- -・-- ・・-・・ ・・ ・-・-・- -・・- -・-- -・--・ ・--・ ・-・-- -・- ・-・・ ・--・ ・-・-- -・--・ ---- ・・-・・ ・--- ---・- -・--・ -・- -・-- ・-・ ・- -- --・-」

「ぐぬぬ……」

 中々勝負に乗ってくれない牡丹に、智恵は頭を悩ませる。智恵はモールス信号に慣れていないから、理解するのに時間がかかる。その間に、どんどん先に進んでしまって正確に聴き取ることが難しい。

 こんな時に栄はどうするだろうか。智恵はそう考えて──。


「あ」

 いいことを思いついて、智恵は思わずニヤッとする。牡丹が不審がるように目を細めるけれども、智恵はそんなこと気にせずに牡丹へと声をかける。


「戦わないなら、いいよ。その代わり、牡丹の不戦敗ね」

 彼女はそう口にして、部屋の中を飛び出す。

 1人残された部屋の中で、屁理屈のような形で連敗伝説をまた1つ更新させられた牡丹はこう呟いた。


「--・-・ ・--・- ・・・ ・-・-・ ・ ・・--・」


 ***


 ──急いで靴を履いて、私はチームHの寮を飛び出す。

 前髪は変じゃないかな。お洋服は似合ってるかな。

 数日ぶりの再会ってだけなのに、何故だか心配になってくる。


 だけど、不思議と私の足は止まらなかった。

 前髪のことも、洋服のことも、忘れちゃうくらいに栄に会いたいって気持ちが先行していた。


 外にはまだ、体力の偽マスコット大先生がいた。そのほとんどが2m近くあって、なんだか怖い。

 だけど私は、その隙間をなんとか通り抜けて校門の方へと走っていく。


 邪魔になるかもしれない──そんな不安は、もうない。

 私は、この数日の修行で強くなった。七つの大罪を正しく扱えるようになったし、暴走の可能性も減った。だから、大丈夫──。


「──智恵ッ!?」

 校門の方へと走っていると、師匠の驚いたような声が聴こえてくる。憤怒を覚醒させた師匠は、オーラを漏らすことなくその権能を行使していた。


 私は、その呼び止めに動きを止めそうになったけれど体を本能のままに突き動かした。栄。


「ちょっと、智恵!どこに行くつもり!」

 師匠が声を張り上げるけれども、追いかけてくるような素振りは見えない。チラリと横目でそちらを見ると、師匠がその場にへばりつくようにしながら1人の偽マスコット大先生に屈服している。


 ──師匠が負けてしまうのか。

 失望ではなく、心配があった。私の師匠は、私の知る限りでも指折りの実力者だ。流石に龍種には勝てないだろうけど。そんな師匠が負けそうだなんて──。


「助けてあげるから、見逃して!」

 私はそう口にして、少しだけ七つの大罪を覚醒させる。手を伸ばして、標的を決める。

 名前も知らない偽マスコット大先生に向けて、バン。


 ドサリ──そんな音がして、偽マスコット大先生がその場に倒れる。血は流れていない。そもそも、これは血が流れるような権能じゃない。

 師匠が目を見開いてこちらを見ていたけれど、私はそれを無視して栄のいるであろう校庭の中に突入していった。


 ──だから、私は知らなかった。

 撫子を苦戦させていた偽マスコット大先生を救出するために、他のデスゲームに参加している池本栄──池本ロンが、師匠の目の前に現れることを。


 ──私は、栄に会うために校舎の方へと走る。

 この権能があれば、私は栄を助けられるはずだ。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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