7月31日 その㉓
土日、更新できなくてごめんね。
──白虎を背にして、稜は走る。
廊下を駆け抜けて、A棟の3階から階段を二番飛ばしに下って急いで学校の校門へと駆け出した。
──ゲームをクリアすれば、会長会議の参加権を手に入れることができるため、今日までの命ではなくなる。
だが、ゲームをクリアした場合の憂慮や杞憂は大量に存在していた。
まず第一に、ゲームをクリアしても歌穂が白虎のまま戻らない可能性があることだ。虎化が七不思議其の参の中のみでのイベントなのか、それとも李徴らが仕組んだ策謀なのかは判明していない。前者であれば人型に戻る可能性があるが、後者だった場合はゲームが終わっても虎のままだ。
第二に、鏡の世界がどうなるかも問題だ。現在、皇斗と愛香・真胡、そして李徴の4人が閉じ込められている。この分李徴に関しては目を瞑って妥協することができるかもしれないが、皇斗達3人がどうなるかはわからない。要するに、デスゲームが終わった時に鏡の世界から追い出されるのかそのまま一生閉じ込められるのかが不明なのだ。前者ならそのまま現実で怒ってる危機的な状況が一転するが、後者なら大切な仲間であり戦力でもある3人を失うことになってしまう。会長会議が後に控えている今、聡明な3人を失うのは辛い。
そして、第三に一心不乱の問題もある。現在進行形で出現し続けている偽物のマスコット大先生を蹴散らして血の雨を降らせているのは第二回生徒会メンバーの猫又一心不乱であった。彼女の協力がなければ、白虎と化した歌穂との戦いだけに集中することなどできなかっただろう。別に一心不乱の存在と七不思議其の参のクリアに対して憂慮はないと思うかもしれないが、実は違う。一心不乱は、あくまで「七不思議其の参の新たな刺客」と言う形で今回助太刀に来てくれているのだ。そのため、七不思議其の参をクリアしてしまうと、彼女は四次元に帰ってしまう可能性が考えられる。七不思議が終わってもそのまま継続して戦闘してくれればいいのだが、彼女の性格を考えても「もう知らんにゃあ」とか言って二度と手伝ってくれない可能性もある。そうなった場合、大量の偽マスコット大先生の相手を引き受ける必要が出てくるのだ。純介と健吾の2人にそんな無理強いをすることはできない。
そんな諸々の問題が重なって、稜は本当に鍵を差してゲームをクリアしていいのかと迷っている。
そんな彼がA棟の1階まで降りて、上履きのまま昇降口を飛び立とうしたその時だった。
「──」
稜は、何か物音を感じて足を止める。昇降口から皇帝を眺めると、一心不乱が縦横無尽に暴れているのだろう、次から次へと偽マスコット大先生がふきとばされている現状が繰り広げられていた。
そんな騒がしい校庭であったが、稜の耳に入ったのは小さな物音。些細なものであり、本来であれば気にも留めないようなものだったのに今は異常なまでに気になっている。
「──誰かいる?」
赤い鍵をポケットの中にしまって、稜はB棟の方へと動き出す。七不思議のクリアよりも、その音の解明の方が稜にとっては大事に思えたのだ。
B棟1階にあるのは保健室。
愛香と栄が回復した今、そこには誰もいないはずなのにそこに誰かいる気がした。明確な違和が、稜の中に生まれる。
急がなければ。
そう思って、稜が保健室に駆け込むとそこには──。
「──稜!」
「──梨央!」
そこにいたのは、梨央と美緒の2人。そして、その2人の前に君臨しているのは偽マスコット大先生の1人だった。胸のところで大きく黒いマントが盛り上がっているのを見る限り、その正体は女性だろか──などと稜は考える。
──と、梨央と美緒の奥には誰かを治療しているマス美先生の姿が見えた。もしかしたら怪我をした誰か──メンバーから察するに紬が怪我をしたから、七不思議の会場に入ってきて治療を受けているのかもしれない。
「蒼が怪我をしたから運んできたの!そしたら、マスコット大先生の偽物に……!」
梨央が、稜に状況を説明する。稜が偽マスコット大先生の方を向くと、被り物の奥の瞳と視線が交錯したような気がした。
「──お前、名前は」
「相生葵」
少し低いが明確に女性とわかる理知的な声で、偽マスコット大先生はそう口にする。とりあえず訊いてみたが、名乗られるとは思っていなかったので稜は少しビックリした。
「稜、この人はなんでか母音しか喋らないの」
美緒がそう補足してくれる。そうなると、「相生葵」と言うのも正確な名前ではないのかもしれない。
「蒼と葵、同じだから見分けがつきにくいし、呼ぶことはないか」
稜はそんなことを口にしながら、梨央と葵の間に割って入る。
「それで、お前は何の用だ。怪我人を狙おうとするような卑怯なことは俺が許さない。相手をしてやるよ」
「ああいああおっあああ、あああをあおうえいえあ?(私が名乗ったなら、アナタも名乗るべきでは?)」
そんな葵の発言も、全ては母音だけなので稜にその意味は汲まれない。だが、彼は指摘されなくても名乗っていたようで──
「──俺の名前は山田稜。梨央達を傷つけさせたいのなら、俺を倒してから行け」
鍵のことは後回しで、稜は梨央達を守ることを選択する。
非戦闘員のみの危機的な状況は打開されたが、相生葵の実力は一体──。





