7月31日 その㉒
──鏡の世界で、愛香と皇斗・真胡の3人が李徴の相手をし、「ロン」を名乗る他のデスゲームの参加者と接触したのと同刻。
こっちのデスゲームの栄は、同じくデスゲーム参加者である歌穂と睨み合いをしていた──。
「──やっぱ、数の差があるから圧勝って考えは甘かったな」
栄──俺の周囲には、稜と美玲、奏汰の3人がいる。
第8ゲームではそれぞれ大きな戦果を挙げた3人であったけれど、それでも白虎と化した歌穂を倒す決定打にはならない。
「じゃあ、作戦を実行する?」
「あぁ、そうだな」
「タイミングは?」
「歌穂がだれかにできる限り接近したタイミングにしよう」
「「了解」」
稜と作戦を共有しながら、俺は奏汰とも目を合わせる。そして、2人で頷いて再度李徴の方を見る。
「──」
白虎となった歌穂は、凛々しい目で俺達のことを捉えるばかりで動く様子を見せない。いや、きっと狙っているのだろう。俺達が油断する一瞬を。
「──」
睨み合いが、続く。
双方、お互いが油断する瞬間を狙っているのだ。
どちらも油断を見せない以上、下手に動けずに睨み合うことしかできない。
5秒。
両者、動く素振りは見せない。
10秒。
今いる廊下が沈黙に包まれ、瞬きする音が、心臓の鼓動が聴こえてきそうだった。
20秒──。
ドンッ
俺達の後方にある窓に、何かがぶつかるような音がすると同時、歌穂が俺たちの方へと迫ってくる。
「──来たっ!」
その合図ともとに、俺と稜は同時に左側へと飛ぶ。一方で、奏汰と美玲は横に飛んだので、二手に分断された形だ。
──これは、俺が求めていた理想的な別れ方。
だって、どっちか一方に頭を向ければもう片方にはお尻──すなわち、尻尾を向けることになる。
そうすれば、一方が囮になっている間にもう一方がその尻尾を引き抜いて人に戻してしまえばいいのだ。
「囮は俺たちがする!そっちは任せた!」
「「勿論!」」
俺の声掛けに、奏汰と美玲の2人が返事をしてくれる。チラリと、先ほどまで俺たちの後方を見ると、教室の奥の窓に赤黒い何かがへばりついているように見える。きっと、外で一心不乱が暴れているからその残骸がここまで飛んできたのだろう。偽マスコット大先生が血の雨に変わってしまうのではないかとも思ってしまう。まぁ、偽マスコット大先生も流石にそれだけの数はいないか。
──と、俺は視界の端で歌穂が体をこっちに向けたからすぐに白虎の方へと戻す。
歌穂は、壁にぶつからずに軽快なステップで方向を変えて俺たちの方へと迫っていた。
「──稜!」
「譲渡!」
俺は、左手を後方にの伸ばして稜から鍵を受け取る。その瞬間だった。
「──ッ!」
俺の体を襲うのは、強烈な雷撃。先ほど、学校内を散策してかき集めた鍵の全てが電撃を放って俺の体を焦がそうとする。
痛い。痛い。痛い。
何も考えられなくなる。白虎はどうなった。視界が明滅する。意識が──
「──まだッ!」
俺は、自分の体に爪を立てるようにして奪われていきそうになった自分の意識をなんとかして保つ。
自分の心臓の鼓動が耳元で大きくなっている。全身が燃えるように熱く、まるで、オーブントースターの中に放りこまれたようだった。
「任せてっ!」
美玲が咄嗟に歌穂の尻尾へと手を伸ばし、それを引っ張ろうとする。
「──ッ!」
美玲の手にも電撃が来たのだろうか、彼女は目を見開いて息を詰まらせた。だけど、負けず嫌いさだけでは誰にも負けない美玲が電撃程度で手を離すことはない。
「この、ままーッ!」
美玲は踏ん張って尻尾を引き抜こうとする。これで──
「グラルルル!」
その時、歌穂は大きく体を震わせる。水も電撃も跳ねることはなかったが、カンカラカンと軽快な音を鳴らして地面に鍵を落としていた。
「──ゲームクリアの鍵」
全員の視線が、落とされた赤色の鍵へと向いたその時だった。電撃から解放された歌穂が、美玲に尻尾を掴まれたままで駆け出す。美玲は、地面を引き摺られるようにして運ばれるけど、尻尾から手は外さない。
俺は、手から5つの鍵を放り出して地面に落とす。
歌穂が鍵を落とした以上、もう俺が鍵を持っている必要はない。それに、俺も電撃に耐えられないほどに体が痺れていた。
「美玲!」
「折角掴めた尻尾、離してたまるかー!」
美緒は、地面を引き摺られながらもそう叫ぶ。
「稜は鍵を持って出口の方へ走って!白虎は僕達で何とかする!」
奏汰は咄嗟にそう指示を出すと、稜は地面に落ちた赤い鍵を拾って走っていく。
「じゃあ、出口の解放は俺に任せて!」
そう口にすると稜は歌穂が走り去っていた方向とは反対側に、奏汰は歌穂の走り去っていった方に走っていく。体が痺れて動けない俺は、右にも左にも動くことはできなかった。
──すると、俺の視界の奥にいる歌穂が後ろ蹴りを放つ。
「──ッ!」
「──美玲!」
内臓が破裂してしまいそうなほど強烈な蹴りが美玲の腹に直撃する。美玲は、そのまま弧を描くように廊下の外を吹き飛んで、奏汰の上を飛び越え俺の方へと降ってくる。
「危ないッ!」
俺は、美玲をキャッチしようと試みるけれども上手くは行かず、美玲と衝突してそのまま後ろに倒れる。
尻餅をつくような形になってしまったけど、なんとか一回転は避けられた。
「美玲、大丈夫か?」
「──問題、ないわ」
そう口にして美玲は立ち上がる。それを見て、俺も勇気を貰った。
「じゃあ、行こう。歌穂を助けてあげないと」
俺たちの作戦は失敗した。だが、それは諦める理由にはならない。





