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7月31日 その⑰

 

「──マス美先生、いませんか!」

 誠が、梨花が、純介が、健吾が、紬が、康太が道を拓いてくれたから梨央と美緒の2人は蒼を保健室に連れて行くことに成功する。

 別に、蒼は今回のゲームで大事な役割を持っているわけでも、何か大切な特殊能力を持っているわけでもない。

 だが、こうして皆が力を合わせて彼の命を繋ぎ止めようとしたのは、彼が既にクラスメイトから仲間として認められていたからだ。

 そこには勝算も打算もない。仲間を助けたいと言う友情だけが存在していた。


 そんな仲間を想い合う彼らの友情は実を結んで、保健室に到着する。

 奥の方からマス美先生が出てきて、すぐにベッドに寝かすように指示した。


「全く、次から次に怪我人が運ばれてきて、学校医は大変ね」

「──え、他に誰か来てたんですか?」

 蒼をベッドに仰向けに寝かせながら、梨央はそう質問する。


「えぇ。今はもう復活したけど、栄も愛香もここで治療を受けていたわ。ま、私の完璧な治療でもう復活したけどね」

 マス美先生は、もう復活したことを強調させる。きっと、蒼を運んできた2人を安心させるためであろう。


「蒼を寝かせてくれてありがとう。すぐ治しちゃうから、安心して」

 マス美先生はそう口にして、被り物を付けたまま微笑む。赤い口紅が装飾として付けられているから、マス美先生と侵略してきたマスコット大先生の偽物を見極めるのは簡単だった。

 マス美先生は、手慣れた手つきで蒼に処置を施していく。腹に刺さったままの刃物を、出血が酷くならないように処置しながら引き抜く。


 赤黒く染まったその先っぽを見て不快感を覚えた梨央は、バッと体を逸らす。口元を抑えて、見たものを忘れようと目を強く瞑る。

 デスゲームに参加して早くも4ヶ月が経とうしているが、まだ梨央にグロ耐性がつく様子はない。第8ゲームは死んだ敵は霧消していったからグロい何かが存在しなかったが、今回は違う。これは現実だ。


「──梨央は無理しなくていいよ」

「ごめん、ありがとう」

 梨央が目を逸らしたことに気が付いた美緒は気を利かせて梨央の背中を撫でる。美緒も特別グロいものに耐性があるわけではないが、梨央ほど拒絶反応があるわけでもない。結果的に蒼とマス美先生から視線を外したわけだが、今回はその行為が功を奏して──、


「──ぁ」

 梨央の口から、息が漏れる。そこにいたのは、外にいた大量の侵入者と同様に被り物と黒いマントに実を包んだ人物であった。他と違うのは、胸の辺りから黒マントが大きく盛り上がっていることだろうか。そこに何かが隠されているのか、それとも単に中にいる人の胸が信じられないほどに大きいのかはわからない。2人は、その真実を知る由もなく現れた侵入者と距離を取る。


「──康太が相手にしてる人とは、違う?」

 梨央がそのセクシーな侵入者を見ながら、そんな疑問を持つ。康太が足止めした人とも、蒼を刺した人とも違う侵入者がこの保健室にやってきたことを理解した、蒼をここまで執拗に狙うのは、やはり彼が手負いの人物だからだろうか。それとも、何か重大な秘密を握っているからだろうか。蒼のことについて詳しくない2人は見当も付かない。


「マス美先生、どうしよ──」

 梨央がマス美先生に助けを求めて指示を仰ごうとするが、言葉が遮られるようにしてマス美先生の少し高い女性の声が保健室に響く。


「ソイツをこっちに近付かないで!今、治療が中断か妨害されたら蒼は助からない!」

「──じゃあ」

「私達でなんとかするしかない、という事でしょうね」

 梨央と美緒は、どちらも非戦闘員だ。第8ゲームでこそ戦うことができたが、それも全ては異世界での話。

 現実で魔法を使うことはできないし、弓も矢も手元にない。だから、2人は戦えない──。


「──戦えないって言い訳してる場合じゃない」

「ワタシ達が戦わないとダメな今、戦う理由はないよ!」

 梨央と美緒の2人は、そう口にして慣れないながらも戦闘態勢を取る。


「あっお、あああういいあっあおえうえ。あんあんあおおういええうっえいあいおういあいあいあ。いあおあいあいおあいあああああいおおおおおおえああうえう(やっと、戦う気になったのですね。判断が遅すぎて眠ってしまいそうになりました。今の間に、5回はアナタ達の事を殺せたはずです)」

「──え?」

 目の前にいる侵入者が唐突に口を開いたかと思うと、母音だけで何かを語りかけてくる。勿論、母音だけじゃその真意を掴むことのできない2人は顔を見合わせた。


「美緒、なんて言ってるかわかる?」

「大丈夫、私もわかってない」

「よかった、ワタシがおかしくなっちゃったのかと思った」

 これまで、梨央が常識から外れたことはなかったけれども、自分自身を疑っているようだ。


「いおおおおおいいあいあうあいううあんえ、いうえいああうえうえ。おいいおえいんえうあ?(人のことをキチガイ扱いするなんて、失礼なやつですね。トリキの店員ですか?)」

 やはり、その侵入者が話している内容は2人にとって理解できない。


「会話が通用しないなら、追い出すしかないね」

「力技になっちゃうけど、頑張ろう!」

 2人が戦闘に対しての覚悟を決めたことで、全てのカードが出揃う。


 ──これから始まるのは、正体不明の侵入者達と栄達が繰り広げる会長会議の前哨戦。

 夏休みの始まりを象徴するその戦いの幕が切って落とされた。

母音しか喋れないから巨乳(ボイン)なの、過去一くだらないかも

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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