7月31日 その⑯
校門の中で複数の戦線が広がり、一心不乱が校内に入り込もうとするマスコット大先生とは少し違った被り物をした人物を殲滅・蹂躙する一方で、校門の外では2人の女傑が動いていた。
──九条撫子と柊紫陽花。
第3回デスゲームの生徒会にして、チームHにて居候している2人は、大量の偽マスコット大先生を蹴散らしながら進んでいく。
「いくら倒しても減らないな。撫子、どう見る?」
「止まない雨は無いわ。根気よく潰していきましょう」
「止まない雨が無いのも、病まない姉がいないのも知っている。妾は傘が特効薬が欲しいんだ」
「そんなもの……」
「持っているだろう、貴様は」
「──」
紫陽花に透徹した目で見られ、撫子は一瞬呼吸を止める。紫陽花が何のことを言っているのか、撫子にはわかっていた。分かりきっていた。
「──わかったわ。でも、これは傘じゃなくて雨雲さえも吹き飛ばす突風。飛ばされないようにしてよ」
「心配不要だ。妾は雨ニモ風ニモ負けない」
紫陽花がそう口にすると、撫子は「ふぅ」と大きく息を吐く。
──これは、撫子が『七つの大罪 第参冠 憤怒者』になるためのルーティン。
6秒かけて、自分の腹の底から湧いてくる怒りを掴む、一種のアンガーマネジメント。
「どいつもこいつも、好き勝手にやりやがって……ッ!」
目の前にいる数え切れないほどの偽マスコット大先生に対して怒りをぶつける撫子。だが、きっとその怒りの一部には智恵のことも含まれているのだろう。修行によって力の制限を大分できるようになったけれども、それでもまだ地球滅亡の可能性は否めない。どうして私がそんなことで肝を冷やさなければならないのか。おかしい。許せない。許せない──。
「ざっけん、なッ!」
叫ぶようにしてそう腕を一振りすると、大気が吹き飛び周囲にいた偽マスコット大先生を巻き込んで飛んでいく。それは、『七つの大罪』を完全に手玉に取った撫子の本気であった。
智恵のように色の付いたオーラを外に漏らすような未熟さ──智恵に関しては未熟以前に『七つの大罪』の保有量の絶対値が大きすぎることも原因ではあるが──とにかく、オーラという目に見える形で力を逃すことはない。
「とっとと消えろ」
撫子は俊敏に動き、次々に偽マスコット大先生の被り物を破壊していく。数個壊しても、そこに頭部が収められていないことが確認できたので、次からは胸部を狙う。すると、人の頭を潰したような感覚を覚えた。
「──正体を隠すような真似をしやがって」
怒りのままに撫子は動き、増殖し続ける偽マスコット大先生の数を大きく減らす。そこに、紫陽花も華奢だが強靭で華麗な脚技で殲滅に貢献していた。だが──
「「──ッ!」」
それぞれ別の場所で戦っていた2人の体が、同じタイミングで止められる。撫子は腕を受け止められ、紫陽花は脚をぶつけられ止められたのだ。
予想だにしなかった展開に、2人は驚きを見せる。
「キャハハハハ!おばさん、何驚いた顔してんの?まさか、自分が最強だと思ってたの?頭よわ〜笑」
紫陽花の脚を脚で受け止めた偽マスコット大先生の中から、そんな声が聴こえてくる。他の偽物と比べると、頭ひとつ小さいその声の主は余程背が低いのだろう。もしかしたら、背の低い紫陽花よりも低いかもしれない。
「随分と威勢がいいな、クソガキ。ママが心配しているから早う帰ったらどうだ?」
おばさんと呼ばれても尚、紫陽花は怒ることなく余裕を見せる。
「あれ〜、皆はおばさんって言われたら怒るけど、おばさんはおばさんって呼ばれても怒らないんですね〜?もしかして、もうおばさんの自覚があるから何も触れないんですか〜?笑」
「ガキの相手をする必要性が感じられないだけだ。貴様の周りの人は貴様の遊び相手をしてくれていたようだが、妾はそうはいかない。誰かを傷つける発言でしか自分を強く見せれないのは、虚しいな」
「──今、なんつった?」
「貴様のアイデンティティは周囲を傷つけることでしか確保できない、自分自身には個性がないと言ったんだ」
「そんなわけねぇだろ、ワタシはメスガキなんだッ!」
自認メスガキはの彼女は、怒りを露わにして紫陽花にぶつける。どうやら、煽り耐性や自分より余裕のある人間に対しての耐性はなかったようだ。
──大人の余裕を持つ者と、子供の情動を持つ者の激突が開始する。
「私の拳を止めるなんて。ムシャクシャするわ」
一方で、「七つの大罪」を器用に操り覚醒させて、高い攻撃力を手に入れた撫子であったが、あるマスコット大先生の偽物に攻撃を受け止められる。
だが、それは真っ向から受け止められたものともどこかに流されたとも違う、経験したことのない変な感覚であった。
「アンタ、何者?」
撫子は、腕を受け止めた謎の人物に無駄だと思いながらもそう問いかける。マスコット大先生の偽物がわざわざ口を開いて正体に直結する声を上げるとは思えなかったが──。
「 、アナ
にも タは
な はな な
も 由 に に
者 る の も も
何 知 もな 気
。 い に
い なし
いてく」
「──随分と、面倒くさそうなのが現れたわね」
撫子は、唾棄すべきものだと言わんばかりにそう吐き捨てたのだった。





