表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

878/931

7月31日 その⑩

 

「──外が、騒がしいわね」

 こちらは、栄の心配先である智恵がいるチームHの寮。本来の住人である愛香と歌穂の2人はおらず、代わりに第3回生徒会メンバーである九条撫子と柊紫陽花、そしてチームFの住人である村田智恵の3人であった。


 現在、智恵は撫子によって半強制的に「七つの大罪」を暴走させないように修業を行っている。

 その修業も大詰めを迎えているところで、外で異変が起こっているのに撫子が気付く。


「──何かあったんですかね?」

「智恵は気にしないでいい。紫陽花、見て来て」

「やれやれ。撫子は人使いが荒くて敵わんわ」

 紫陽花はそう言いながらも、座っていた椅子から立ち上がって窓の外を眺めてくれる。

 そして、彼女の目が途端に真面目なものに変わり、緊張感のある沈黙が流れる。


「──紫陽花?」

 紫陽花のその反応に対して、撫子は何かしらの問題があることを察した。

 撫子と智恵も緊迫そうな表情で窓際まで移動し、外を眺める。そこには──


「──大量の、マスコット大先生……」

 智恵がそう口にして、寮の外で起こっている異変を言葉にする。だが──、


「いや、違う。マスコット大先生じゃない」

 智恵の発言を頭ごなしに否定するのは、撫子。

「えっ」と言葉を漏らして、智恵は撫子の方を見る。師匠の奥では、紫陽花も首を縦に振っていた。


「マスコット大先生とは目の形が違う。表情が変わったり変なパーツが付けられることはあるけど、顔の形が変わることはない」

 撫子が智恵に向けてそう説明する。確かに、謎の技術で口角が上がったらマスコット代先生などと言って変なメイクがされたりすることはあったけど、これまでにマスコット大先生のしている被り物の顔の形そのものが変わることはなかった。変なメイクも、被り物を基準に上から貼り付けたようなものだったこと智恵は記憶している。


「じゃあ……」

 智恵は頭が悪いと言ったって、ここまでヒントを与えられても尚理解できないほどバカなわけではない。

 智恵は、目の前にいる大量のマスコット大先生がマスコット大先生でないことを理解する。

 偽マスコット大先生は、デスゲーム会場になんらかの理由を持って襲撃してきたのだ。目的が何かはわからないし、話が通じそうな様子もしない。


「生徒会?」

「いや、違うと思う。もし中身が生徒会だとしても、マスコット大先生が生徒会の人をここまで用意するとは思えない」

「じゃあ、誰?」

「──わからない。こんなこと、私の知る限りでは初めてよ」

 撫子と紫陽花の2人がこれまで見せたことのない真剣な表情で外を眺めているから、智恵は不安に思う。

 すると──


「-・・- ---・- ---- ・--・ ・・-・・ -・ ・・ ・- ・---・ ・-・-・ ・---・ ・- ・-・・ ・・・ ・-・-- ・・ ・-・-・ ---- ・・ ・-・-・」

「──牡丹!」

 音もなくチームHの寮に姿を現したのは、『敗北の女神』深海ケ原牡丹。過去に参加したデスゲームで言葉を奪われ、モールス信号で話すことを余儀なくさせられた彼女はこうして2人に伝来を伝えにやってきた。


「内容はなんだ?」

「--・-・ ・・ ・-- -・・- -・・-・ ・・-- ・--- ・-・・・ ・- ・-・・ -・--- ・---・」

 牡丹からの伝言を聞いて、撫子と紫陽花は顔を見合わせて頷く。


「ありがとう、牡丹。わかってると思うけど、アンタがうっかり戦いに参加なんてしたら負けるのは目に見えてるんだから、安全なここで智恵と一緒に残ってて」

「-・- ・-・・ ・--・ -・  ・-・・ ・・ ・-・-・ -・・・ ・・ ・--・ ・-・--」

 牡丹はフリフリと手を振って、2人を応援する。

 そして、2人が家の外に出ようとするがモールス信号のわからぬ智恵は1人取り残されている。


「え、え、私はどうしたらいいの?」

「智恵は牡丹と一緒にお留守番してて。絶対外にでちゃダメだからね!」

 撫子と紫陽花の2人はそう口にして、外に出ていく。

 2階へ繋がる階段を駆け上ったかと思うと、すぐに窓の外に2人の姿が浮かぶ。頭上から降ってきた2人は、増え続ける偽物のマスコット大先生を蹴散らし始めた。


「あ、えっと……」

 2人、部屋に残された智恵は同じ部屋に残る深海ケ原牡丹との空気に気まずさを覚える。

 2人が前回出会ったのは、撫子が押しかけてきた時に行われたEXゲーム『仮名奪取(かなとり)クイズ』の時だった。その時、智恵は撫子に大敗して、牡丹は純介に惨敗した。結果は引き分けで終わったから、両者共に生きているけれども、一つでもボタンが掛け違えていれば今智恵は生きていなかっただろう。


「えっと、よろしくお願いします?」

 自分でも訳のわからないまま、牡丹なそう頭を下げる智恵。牡丹は、「・」と「-」で構成される智恵にはイマイチよくわからないことを喋っている。

 きっと、栄なら意味を理解できたのだろうか──、


「──栄、大丈夫かな」

 意識しちゃうと頭の中が栄で埋め尽くされて「七つの大罪」の修行に集中できないから、無理して考えないでいた栄のことをふと思い出してしまう。

 そして、一度不安に思うと栄のことで埋め尽くされていく。

 栄は、有事の時に無理をする性格だ。もしかしたら、この偽マスコット大先生の大群の中に飛び込んで、もしかしたら──。


「──うぅ、栄……」

 智恵の頭に浮かぶのは、最悪の想像。栄を信じる気持ちはあっても、それでも心配なものは心配だった。


 ──栄を助けに行きたい。

 修行を経て「七つの大罪」の手綱を握ることができている私は、栄の役に立てるかもしれない。

 栄に会いたい。


 智恵の栄に対する想いは、密かに爆発する。

 そして、智恵はもう一度牡丹の方を見た。


「──?」

 いつの間にか、キッチンからコップを取り出してオレンジジュースを飲んでいる彼女は智恵からの視線に気付いて首を傾げる。


 深海ケ原牡丹をどうにかして欺けば、栄に会いに行けるかもしれない──智恵はそう、考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨城蝶尾様が作ってくださいました。
hpx9a4r797mubp5h8ts3s8sdlk8_18vk_tn_go_1gqpt.gif
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ