7月31日 その⑧
七不思議其の参『マン・イン・ザ・ミラー』のルール
1.誰か一人が出口の外に辿り着いたらゲーム終了。
2.出口を開くためには、3種類の鍵を5つずつ出口の前にある鍵穴に差し込まなければならない。
3.3種類の鍵は、会場のどこかにバラバラになって置かれている。
4.一度に保持できる鍵の量は、1つのチームにつき5つまで。
5.鍵を鍵穴に挿した場合は、鍵を保持している状態から解放される。
6.鍵は他チームに譲渡することも可能。
7.譲渡する側が譲渡する意思を持って相手の身体または着用している衣服に触れた場合に、鍵は譲渡される。
8.保持できる量を超えて鍵を持つと、全ての鍵から電流が流れて全ての鍵の保持状態が解除される。
──皇斗の用意した作戦。
そこには俺が含まれていなかったけれども、急遽修正されて俺にも役割が与えられた。
「と言っても、俺の役割は鍵集め──か」
俺達が、一度目に鏡の世界に突入した際に手に入れていた4つの赤い鍵は、既に校門前の鍵穴に刺さっていた。鍵を保持しているグループでなくても、無断で鍵を持ち出して鍵穴に差すことは可能なようだった。
「──俺達の欲しい鍵は、残り1個。その鍵を手に入れるためには、現状白虎を歌穂に戻すことが最善策」
「そうなるね」
「そのために、俺は今鍵を集めているのか」
「正解」
俺は、赤い鍵以外の先に見つけていた教室を純介と一緒に回りながら作戦の確認をする。
歌穂を救出することと、もう必要ない赤い鍵を探すこと──両者に、何の関連性もないと思ってしまうけれど、皇斗曰く理由があるらしい。
今回注目したのはルールの「8.保持できる量を超えて鍵を持つと、全ての鍵から電流が流れて全ての鍵の保持状態が解除される」という部分であった。
この電流によって、歌穂の動きを止める。その間に、歌穂と戦闘を行っている皇斗と愛香のどちらかが背中の尻尾を引き抜く──という作戦だった。
どうやら、電流は6個目の鍵を保持してる時間は流れ続けるようだ。だから、俺がどれだけ鍵を持てるかに勝負はかかっているらしい。
「ついさっきまで意識を失ってた俺に、そんな仕事を任せるなんて酷いよな」
「じゃあ、栄は今から頼み込んで愛香に役割を代わってもらったら?その場合、栄が李徴と歌穂の相手をすることになるけど」
「──やっぱ、前言撤回ね」
電流に耐えるのと虎2頭と戦うのであれば、まだ前者の方が勝ち目がありそうだった。きっと、虎と戦ったら俺の敗北の再放送になるような気がしてならない。
「俺が復活しなかったら、愛香が鍵を拾ってたわけだろ?そしたら、皇斗は1人で2頭を相手にするつもりだったのか?」
「一応、真胡がバックアップにいる予定だったけど結局は皇斗1人でなんとかしてたんじゃないかな?」
「うへぇ……」
俺は、皇斗の強さに半ば呆れるように驚きながら校舎中に散らばっている鍵を拾っていく。
今、手元には3つの鍵が集まっていた。後1つは俺が拾って、もう1つを純介が拾ってそれを譲渡して貰えば問題ない。
「──そう言えば、稜と健吾は何してるんだ?」
「2人に加えて美玲と奏汰はそれぞれ所定の場所で待機してる。今回の戦闘の中核は皇斗と愛香の2人──それと、バックアップの真胡だけだからね」
純介とそんな話をしながら歩いていると、俺は自分が持つだけの鍵を集め終えた。後は、純介が持ってベストタイミングで俺に譲渡する必要がある鍵を集めれば問題ない。
皇斗と愛香・真胡の3人はもう鏡の世界に突入しているし、早く鍵を回収して情報伝達をしやすい鏡の前に行かないと──
──と、その時だった。
俺の後ろを何かが横切っていく。その圧倒的な存在感は、俺と純介を同時に振り向かせるには十分すぎるものだった。
その視界に映るのは、白き怪物。
ゆらゆらと長い尻尾を揺らしながら、一歩ずつ俺たち2人の方へ迫ってくるのは、本来ここにいないはずの存在。
「──白虎」
「歌穂が、どうしてここに……」
現在、歌穂を救出するために皇斗と愛香が鏡の世界に行ってるはずだ。それなのに、当の本人──本虎がここにいては問題だ。
歌穂の鋭い双眸に睨まれて、俺と純介は動くことができない。背中を向けて逃げたら、直ちに飛びかかってくるだろう。
「純介、どうする……?」
「そうだな。音を立てずにこのまま少しずつ下がろう。それで、他の誰かと合流を図る」
純介の頭の中にも、戦うという選択肢は存在していないようだ。俺は一度縦に首を振ると、歌穂からは目を離さずにゆっくりと後ろに下がっていく。
歌穂が、こちらを睨んでいる。
いつその牙の餌食にきてやろうかと言わんばかりに、宝石のような双眸でこちらを見ていた。心臓が口から吐き出そうになる恐怖心に耐えながら、俺は一歩ずつ後退する。誰かと合流しなければ、誰かと合流しなければ──。
──と、俺達がジリジリと下がっていくと、歌穂は俺たちに興味を無くしたかのように尻尾を向けてその場を去っていく。
白虎となっても歌穂であることに変わりはないから、もしかしたら強者を求めて皇斗と愛香を探し求めているのかもしれない。
「よかった。どこかに行ったみたいだ……」
「栄、外見て!」
俺が安堵していると、純介はさっきよりも真っ青にした顔で外を指差す。俺も、純介と同じ方向を向くと、そこには──、
──デスゲーム会場の外に、人の大群があった。
体は黒で覆われており、頭にはマスコット大先生と同様のものと思わしき被り物をしている人物の大群が大量に姿を現している。そして、それは現在進行形で増え続けていた。
「おいおい、なんだよあれ!」
俺と純介は、窓に張り付くようにして外を見る。
智恵は大丈夫だろうか──そんな疑問が思考を覆い尽くす。
皇斗の立てた完璧ない作戦が、完璧だったはずの作戦に変わっていく感覚がした。
***
一方、こちらは鏡の世界。
皇斗と愛香・真胡の3人は、もう既に戦闘を終えて人の姿に戻った李徴と対面する。皇斗の一撃と愛香の連撃を喰らった李徴の口の端には血が滲んでいる。
「まさか、貴様にそこまで理性が残っているとは思わなかったな。最初から妾達を誘き寄せるのか作戦だったとは」
周囲に撒き散らされたガラスの破片から自分たちが鏡の世界に閉じ込められたことを3人は悟る。
「へへっ。残念だったな、お前らが鏡の世界から抜け出せない以上、己達の勝ちだ」
「お前達は誰の味方だ、吐け」
「言わずもがな、己はずっとロンの味方だ。お前らの味方じゃない」
李徴は、頬を赤く濡らしながらもそう口にする。そして──。
「──俺はこの役割を全うする必要がある。だから、すまないが死んでくれ」
李徴の体は、再び虎のものへと変化する。
彼の企みを何一つ理解できていないが、どちらかが果てるまで殺し合う必要があるのは紛れもない事実だろう。
──虎となった李徴は、皇斗と愛香に、勝てない勝負を挑むのであった。
なんか全員プロットにはない動きしててどうしよう





