7月31日 その⑥
部屋に現れた蒼と康太の2人に、5人は複雑な表情を向ける。少なくとも、そこに快い感情が含まれていないことに気がついた康太は少し目を細めた。
「皆して、そんな疑うような顔してどうしたんだよ」
「そうだピョン。状況を説明して欲しいピョン」
ズカズカと部屋の中に入って来て、誠の肩に手を回す蒼。そして、誠の耳元でこう囁く。
「僕と誠きゅんの仲だピョン。それとも、同じチームの僕に説明できないことがあるピョン?」
含みを持った笑みを浮かべ、誠のすぐ隣で蒼は舌なめずりをする。
誠は、生徒会と疑っているか話すべきか迷っていた。
だが、ここで鎌をかけることができればもしかしたら炙り出すことができるかもしれない。そんなことを考えて、誠は他の4人に目配せをする。
他の4人はその視線の意図を即座に察して、頷き返す。康太はそれを見てさらに目を細めた。
「間違いなく隠し事をしてるね。それで、俺達が疑われてる。ってことは、何かがこの家で起こったんだ」
「違うかい?」と、確かめるように誠の顔を康太は見る。他の4人は駆け引きに応じてくれないことにらもう既に気付いているようだった。
「正解だ。今、康太も蒼も疑われている」
「そんな!ひどいピョン!何もしてないし、事情も説明されてないのに勝手に疑われるて嫌われるなんて不服だピョン!」
説明しろー!と言わんばかりに誠の肩をゆっさゆっさと揺らす蒼を無視して、誠と康太の睨み合いは続く。
「──疑われているのは、俺達2人だけか?それとも、ここにいない蓮也や陽斗・智恵もか?」
「そうだ。智恵は省いているがな」
「ここに智恵の友達が多いから、忖度か?」
「いや、実績だ」
「──成程ね」
康太は、顎に手を当てて少し考えるような素振りを見せる。そして──
「──生徒会に襲われた。違うか?」
誠は何も返事をしない。康太も、誠の反応など見ていない。康太は、梨央や紬を見ていた。
「──どうやら、正解のようだね」
正解に辿り着いたことによって、梨央と紬は驚いたように顔を少し強張らせた。鎌をかけた康太は小さく息を吐く。
「ちょっと!僕、生徒会だって疑われてるのかピョン!?すごく不愉快だピョン!」
そう口にする蒼ではあるけど、その顔に真剣さはない。その内心を掴みづらい彼らしい。
「──それで、何があったんだ?いや──」
康太は、諦めたようにそこで話を止める。きっと、何かあったかを教えてくれないのも疑われていて、生徒会だった場合墓穴を掘るか探られているのだろう。
「見た感じ、誠が助けに入ったことは想像できる。誠が来たから、生徒会は退散したわけだ。そうなると、生徒会の狙いはチームFを狙うこと──いや、違うか。生徒会は最初、梨花を狙ったな?」
「──どうしてそう思う?」
「それは──」
「梨花ちゃんはこれまで引きこもってたのに、ここにいるし疑われてもないピョン。そう考えると、逆算的に最初に梨花ちゃんが狙われてここに逃げ出して来たってのが考えられることだピョン。僕の予想、どうだピョン?」
康太のセリフを奪った蒼が、梨花に対してそう問いかける。だが、梨花は二重の目を伏せるばかりで返事をしない。すると、蒼は誠の肩から梨花の肩の方へと移動し、バックハグをするような形で──、
「あれれー?僕のことを無視するのかピョン?それじゃあ、すっぽんぽんで外を走ってたのは、梨花ちゃんの変態趣味なのかピョン?」
「──ッ!」
蒼の口から出た思いがけない発言に、梨花は思わず目を見開いて立ち上がる。そして、蒼のことを押し除けた。蒼は数歩よろける。
「──最低ッ!アタシに近付かないでッ!」
半ば叫び声に近い声をあげて、梨花は蒼を糾弾する。
「あれー?怒っちゃったピョン。図星だピョン?」
「──お前が生徒会だな!殺す!ぶっ殺す!」
梨花は、乱暴に立ち上がって蒼の方へと押しかける。
「さっきは近付かないでって言ったのに、今度は梨花ちゃんの方から近付いてくるなんて、ダブルスタンダードだピョン。あ!これはもしかして、露出狂だってことも肯定してくれるのかピョン?」
「蒼、やめろ」
誠が声で蒼を静止させても、決死の覚悟を馬鹿にされた梨花は蒼に飛びつこうとする手を止めない。
「おーおー、怖いピョン。康太きゅん、助けて欲しいピョン」
「──この状況で、誰がお前の味方をするかよ……」
康太も一歩引いたところで、軽蔑するような目で蒼のことを見る。
「ひどい!生徒会の康太きゅんにも嫌われちゃ、僕はここに居場所がないピョン!」
「俺は生徒会じゃねぇよ」
「──待て!逃すかッ!」
康太のツッコミにも弁明にもならない発言を無視して、蒼は開いてる窓から逃げようとする。侮辱された梨花は、蒼は殴ろうと彼のことを追いかけようとする。しかし──
「逃げるんだ──ぁ?」
サク。
そんな音が聴こえた後で、じんわり蒼の着ている服が赤く染まっていく。
「──なッ」
そこに現れた人影を見て、梨花は限界まで目を見開いた。その瞳は揺れて、恐怖とも憤怒とも付かない色を見せる。
そこに現れたのは──
「──生徒会」
長身痩躯の人型。マスコット大先生と同じ被り物をして、体を黒いマントで身を包んだ人物がそこには立っていた。
その影から、もう1人。2人。3人──。
「──なによ、これ……」
一匹いたら三十匹いると思え。
まるでそう言わんばかりに、無数の生徒会が姿を現す。それは、現在残っている生徒の数をゆうに超えている量だった。
──7人は、窮地に立たされていることを静かに自覚する。





