7月31日 その④
寮の廊下を全裸で疾走する梨花。
階段を駆け上がり、部屋に戻ろうか。
梨花は一瞬、そう考える。
そうすれば、洗面所の棚の中にしまっている下着は手に入らなくとも、何も着ていないままの状態で生徒会と相対することは避けられるだろう。
だけど、一度部屋に籠ってしまうと再度生徒会に扉の前で待たれてしまう。鍵を閉めれば、他の誰も開けれなくなるとは言え、マスコット先生から鍵を受け取っていたら話は別だった。着替えている間に、マスターキーで開けられてしまっては折角逃げられたのに、それを無駄にしてしまう。
「──でも」
梨花は、自分の一糸纏わぬ体を見て葛藤を示す。
今の自分は、人前に見られないような体をしていた。
1ヶ月。そう、1か月だ。
1か月、梨花はムダ毛の処理をしていない。
7月が始まってからは第8ゲームに追われ、それが終わってからは死んだように生きていた。
だから、自分の美容に関して全くのノータッチだったのだ。
整えられていないこの体で、少なくとも拓人の前には立てない。
「──それでも、命には換えられない!」
梨花はそう口にして、恥を忍んで外へと飛び出る。
陰毛が水滴によりキラキラと輝くのを気にせず、濡れた体のまま校門前を駆け抜ける。
体裁を気にしているようじゃ、生徒会には勝てない。
全てを投げ捨ててでも、我武者羅に動かないと勝つことはない。
梨花はそう覚悟を決めて、他の寮に助けを求める。
誠に──いや、それは流石に恥ずかしい。せめて女子。ならば──
「頼るべきはチームF!」
一瞬、梨花の頭には愛香と歌穂の2人がいるチームHが選択肢に上がったけれども、生憎2人は七不思議に参加している。
だから、頼れる女子はもう梨央や美緒・紬しかいないのだ。
彼女達も戦力とは言い難いけれど、助けを呼びに動いてくれることが確信できる。
梨花は、全裸でチームFの扉を開く。横目で生徒会の方を見てみると、少し距離があった。2mの巨体は、身長で誰かをバレることを防ぐことができても動きにくいのだろう。
「──誰かッ!助けてッ!」
半分絶叫するように、そう声を張り上げる梨花。
「梨花ちゃん?どうしたの──って、裸!?」
一糸纏わぬ梨花の姿に、声を聞いて駆けつけた紬が驚いたような声をあげる。
「生徒会に追われてるの!シャワー中を狙われたから、なんとか逃げてきた!」
「せ、生徒会!?」
「とりあえず梨花は私の部屋に。服を貸してあげる」
紬が焦る中で、美緒は冷静に判断をする。
「梨央は助けを呼んで。私達じゃなんとかできない」
「わかった。康太君達を呼んでくる!」
「誠はすぐ協力してくれるから、誠がいい!」
美緒が支持を飛ばす中で、美緒に手を引かれて階段を上る梨花が誠を呼ぶようにお願いする。
梨央はそれに頷き、リビングの窓から外を確認してそのまま家の外に飛び出す。
──その時だった。
ガチャリと緊張が走る音がして、チームFの寮の扉が開かれる。
「──生徒会」
その、死神のような格好をしたマスコット大先生と同じ被り物をした人物を一目見て紬は直感でそう理解する。
両手に包丁を持ったその人物は、扉を開けて何も言わずに家の中に入ってくる。
一歩。
一歩。一歩。
走ることはせず、生徒会である人物は少しずつ紬の方へと歩みを進める。
皇斗とタメを張れるほどの身長だが、実際に皇斗であれば暗殺など見事にやってのけるだろうからこんな格好をする必要はなさそうだ。そうなると、皇斗以外の誰かが犯人であることに間違いなさそうだ。
ジリジリと後ろに下がりながら、紬はリビングの方へ向かう。
リビングにある窓からなら、外から逃げられるはずだ。
美緒と梨花に向けられていたヘイトを請け負いながら、逃げる。それが、紬に与えられていた仕事だった。
怖い──。
生徒会と同じ距離を保ちながら後退していく紬の表情は、恐怖で覆われている。
だけど、叫んでその場にしゃがみ込まなかったのは純介が絶えず頭の中にいてくれたからだった。
純介なら、きっとこう指示を出してくれる。
つむを守りながら、戦わずに逃げ切る方法を教えてくれる──そんなことを考えていたから、思考停止を回避できた。
紬の体は、リビングにまで突入する。
それと同時にバッと振り向き、そのまま全力疾走をして窓の方は向かい──、
「──え」
数歩、駆けたところで紬は足を止める。
そこにいたのは、生徒会の人物。先程まで後ろにいたはずの生徒会が、いつの間にか紬に残された唯一の活路に立っていた。
ワープ。瞬間移動。いや、違う。これは知っている。これは──。
「──生徒会は、2人いる!」
七不思議其ノ参が行われている今、第3ゲームのデジャヴを多く感じるのは何の因果だろうか。
第3ゲーム『パートナーガター』でオニが2人いたように、生徒会は2人いたのだ。咄嗟にそう判断できた紬は、リビングと廊下を繋ぐ扉の影に隠れていた1人目の生徒会の餌食になる未来は避けられた。
──が、それすらも不幸中の幸いだった。
紬が、挟み撃ちになっている危機的な状況は何も変わっていない。
梨花に代わって命を狙われることになった彼女は考える。この窮地を抜け出す方法を。
「──助けて、純介」
紬は純介になりきって考えてみるけれど、純介ではない。答えを見つけられなかった彼女は、そう弱音を吐く。その時だった。
「西森じゃなくてすまないな。俺は西村だ」
そう口にして、リビングの窓に立っていた2人目の生徒会の被り物を強烈な一撃で蹴り飛ばしたのは、梨央のSOSによって駆けつけた誠であった。





