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7月31日 その②

 

「──秋元、少し話がしたい。入ってもいいか」

 梨花しかいないチームAの寮にやってくるのは、恋人と親友を殺された彼女を理解してくれるであろう一番の人物──誠。


「──わかった、ちょっと待ってて」

 梨花はそう口にすると、誠を寮の外に待たせる。きっと、家の中を片付けているのだろう。

 数分してから、彼女は誠を寮の中にあげた。


「突然押しかけてすまない」

「いや、いいの。どうせスマホとか見てなかったから連絡しても気付かなかったと思う」

「──そうか」

 梨花の発言を耳にしても、誠は表情一つ変えない。良くも悪くも彼らしい、感情の感じられない彼の返事がチームAの寮に木霊した。


 第8ゲームが終わり、戦闘時の興奮が冷めてからは梨花の心は沈む一方だった。

 外出もせず、誰と言葉を交わすわけでもないまま電気のつかないリビングでただ息をしていた。

 時折、全てを失った虚しさに涙を流しては疲れ果てて失神するように寝落ちる。そんな数日を過ごしていた。


「ごめんね、こんなんで」

 前回風呂に入ったのはいつだろうか、前回着替えたのはいつだろうか。何をする気力もない彼女にとって、その全てが日常から剥がれていた。


「いや、いい。秋元の心中は察することができる」

「──嘘だ。恋人も親友もいないくせに」

 誠の気遣いに対して、梨花はそう噛み付く。誠は「そうだな」とだけ相槌を打って目を伏せた。

 梨花は、その哀しそうな返事を耳にして、初めて自分の失言に気が付く。


「──ごめん、言い過ぎた」

「承知の上だ。俺のことは気にしなくていい」

 2人はそんな会話をしながら、電気のついていないリビングの中に入っていく。

 先ほどの間に片づけたのだろうか。部屋の中には家具以外のものは置かれていない。2人は、部屋に置かれているソファに腰を下ろす。


「──それで、話って?」

 暗い部屋の中で、梨花の暗い声がする。



「──秋元を殺す」

「──」

「──ような人──具体的に言えば、生徒会が家に押しかけてくるかもしれない。だから、寮の統廃合を提案したいと思っているんだが、秋元の意見を訊きたい」

 誠が梨花を殺す──そう言っても、彼女は特に反応を示さなかった。

 しかし、生徒会と誠が口にしたら目を見開いて反応を示す。まだ、梨花の中には生徒会に対する恨みがあるようだった。


「──生徒会に殺されるのだけは絶対にイヤ。アタシは、拓人の……美沙の仇をとるの!」

 拓人を殺した鈴華は栄によって、美沙を殺した茉裕は智恵によって殺されている。だから、梨花が実際の仇をとることはできない。だが、鈴華は茉裕に操られており、茉裕は生徒会に属していた。だから、梨花は生徒会に対して恨みを持っているのだ。


「一人で家にいたら、生徒会に殺されてしまう可能性が大きい。実際、俺が生徒会ならば秋元は既に殺されいるだろう」

「誠は生徒会だと思っていないから家に呼んだのよ。少しでも疑ってたらいれてない」

「そうか。秋元は秋元なりに考えがあったのだな」

 梨花の発言が、誠に対する負け惜しみか、誠を信頼していることについての証かはわからないが、誠は言葉をそのままの意味で受け取った。


「──でも、誠のその提案には賛成する。1人だと、こんなだからね」

 そう口にして、梨花は自虐的に笑う。外出も人間らしい生活もせずに、ただ部屋で茫然自失している自分のままではいけない自覚があったのだろう。


「では、梨花は他の女子と同じ部屋になるだろう」

「うん。そっちのほうがありがたい。アタシが他の男子と同じ寮で生活してると拓人に悪いから」

 梨花は、どこまでも拓人のことを考えていきている。それが、愛というものなのだろうか。誠は、自分が考えてもわからないものだから、と深くは考えないことにした。もしかしたら、誠が弟達を想う気持ちも愛なのかもしれない。そして、この学校に行くよう薦めた弟達も誠を愛してくれていたのかもしれない。


「──では、早速話を付けに行こう。マスコット大先生に相談すれば聞き入れてくれるはずだ」

「うん。──あ、でも待って。シャワーだけ浴びさせて」

「承知した。では、ここで待っている」

「ここで待ってなくていいよ。準備が出来たら誠の寮に行くから帰ってて。──もしかして、お風呂上がりのアタシが見たいの?エッチ……」

「もしそうだったら、天国の拓人に顔向けできないな。では、ここは一度帰らせていただくよ」


 誠はそう口にすると、ソファから立ち上がって玄関の方へと歩いて行く。梨花も、その後ろをついて行って誠を見送った。


「ありがとう、誠。ここまでアタシを気遣ってくれて」

「感謝されるほどのことはしていない。俺は俺のしたいことをしただけだ」

 誠は靴を履いて、無表情のままそう口にする。そして、一度梨花の方を振り向いてチームAの寮を出て行った。

 それはきっと、傷心で家に引きこもった梨花を外に出そうする父親のようで──。


「──ちょっとは元気出たかな。まだ、アタシは一人じゃない」

 梨花は、優しい目でそう呟いた。誠が来る前は虚ろな目をしていた彼女が、生気を取り戻したように思える。


「よし、シャワーでも浴びようかな」

 そして、彼女は浴室へと向かう。デスゲームが終わって着替えたのを最後にしばらく着替えていなかった服を全て洗濯機の中に突っ込んで、用意しておいた替えの服を棚の上に置く。


 彼女は、浴室の中に入りシャワーを浴びていると──。


 ──ドン。

 乱暴に扉が開かれる音を耳にして、彼女は不信感を覚える。彼女がシャワーを止めたその時、擦りガラスのように加工された扉の奥には黒い人影が見える。

 そして、擦りガラス加工越しでもわかる特徴的な被り物──マスコット大先生の被り物をしていた。


「──生徒会」

 梨花は身の毛がよだつ不快感を覚えて、即座にそう判断したのだった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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