7月26日 その⑨
──同刻。
三人の人間が、一つの机を囲んでいる。
会話どころか、雑音さえ一つも無い。ただ、3人はある一点を見つめながら口を噤んでいた。
その一点とは──
──生徒会の紅一点、園田茉裕。その死体。
首と胴体が泣き別れたその悲惨な死体を前にして、残された3人の男が黙祷もせずにただ見下していた。
「──皆さん、勢揃いですね。生徒会の姫が殺されてご傷心ですか?」
重い沈黙をいとも簡単に破り、その空間に現れたのは一人の道化師──池本栄との面談を終えたマスコット大先生であった。
3人はその被り物をした男の方には視線を向けず、机の上に転がっている園田茉裕を見下ろすばかりだった。
「初めてですよ。生徒会メンバーが死亡したのは」
マスコット大先生はそう口にした後に、「実際には2例目ですが、最初は例外のようなものですし」と追加する。
第2回デスゲームから第4回デスゲームは、生徒会側が一人も欠けずに生き残り勝利を掴んでいた。
そして、生徒会側から一人の死亡者が出た第1回デスゲームも結局は生徒会側の勝利で終わっている。
「それだと言うのに、君達はこんな序盤に味方を一人失って。今年は不作でしたかねぇ」
マスコット大先生は被り物の口角を上げながらそんなことを口にする。そんなマスコット大先生に触発されたのか、1人の青年は茉裕の死体から視線を剥がしてマスコット大先生の方へと視線を移す。
「うるさいですね。マスコット大先生は栄にも肩入れしてるじゃないですか」
「別に私は過去のデスゲームにおいても生徒会に肩入れしたつもりはないですけどね」
「俺が言いたいのはそういう事じゃないです。生徒会に肩入れして欲しいのではなく、栄に肩入れするなって言いたいんです」
「無理を言いますね。自分の息子ですよ?そりゃ忖度しますって」
「デスゲームの主催としてどうかと思いますけどね、それは……」
青年の一人に乗じて、もう一人の青年もマスコット大先生の口論に参加する。
「まだ子供の皆さんには、親の気持なんかわかりませんよ」
「ってか、漫画のデスゲーム作品で親が子供を贔屓する作品なんてないですよ!中立で平等なのがデスゲームの運営のあるべき姿なんじゃないですか?」
「正論ですね。怒鳴れば黙りますか?」
マスコット大先生は軽口を叩きながらそう口にする。
実際、デスゲームを運営するにおいて大切なのは平等さだ。
自分の息子であるからと言って、栄を忖度することは許されない。
「──現実を申すならば、私が池本栄君を忖度しているのは池本栄君が私の息子だからではありません。池本栄君が、クラス会長だからです」
マスコット大先生は、いつの間にか真顔に戻っていた。
「これは皆さんが生徒会のメンバーであるからお話しますが、私達の目標は知っての通り真の天才を作り出すこと。だがしかし、その前に池本朗の中にある7つの派閥のどれが正しいか決める必要があります」
「──7つの派閥?結局、マスコット大先生達は何で争っているんですか?」
「真の天才について──です」
「──は?」
マスコット大先生のその答えに納得がいかない一人が、喉の奥から疑問符を漏らす。
「真の天才について。その厳格な意味合いが、私達の中で7つに分かれています。要するに、皆さんが紹介した以外に6つの意味があるのです」
「──要するに、イエスキリストが人か神かで言い争っている、みたいな?」
「はい。そんな感じです。三位一体説のような丁度いい着地点を見つけたいのですが、すると問題が出てくる。実際、イエスキリストは周囲に持ち上げられただけの人間でした。そんな感じで、妥協案を見つけるだけでは致命的な部分が現実とズレてしまいましてね。そこで、折角ならデスゲームを行って決めようということになったのです。そのため、宗教冷戦です」
マスコット大先生の口から、一つの宗教がひっくり返るような発言が飛び出たが、3人はそれを気にしないことにした。
「俺はマスコット大先生の争いに巻き込まれる──と」
「そういうことです。デスゲームなんか、巻き込まれ系の典型例なんですから我慢してください。そもそも入学を希望したのはアナタ達ですし」
マスコット大先生の我儘は今に始まったことではないし、言い返す手札も彼らにはない。
「──ということで、皆さんはこれまでと同様にデスゲームの妨害をしてください。勿論、私に対する遠慮はいりません。ですので、七不思議其の参で妨害をし尽くして会長会議に参加できない──という形になっても構いません。勿論、会長会議に参加できずとも皆さんの命は保証させていただきます」
マスコット大先生がそう口にすると、これまで茉裕の死体に対して嘲笑の視線を浴びせていた青年が顔をあげる。そして──
「心配はいりませんよ、マスコット大先生。僕達は命を保証をされずとも七不思議其の参の裏で暗躍するつもりでしたから」
「──それは、園田茉裕さんを殺されたことへの恨みですか?」
「恨み?それは少し違いますね。そうだな、言うなれば……」
彼は考えるような間を少しをおいて、そして──
「鎮魂歌」
いつになくそうカッコつけ、その後で「なんちゃって」と付け加える。
その声を聴いて、他の2人も覚悟を決めたようで真面目な表情を浮かべていた。
「──そうですか。では、君達3人の可能性を楽しみにしています。私は、アナタ達に期待していますよ」
マスコット大先生は、そんな3人の姿を見て再度被り物の口角を上げる。
──残る生徒会と、デスゲーム参加者がぶつかる日は近い。





