7月26日 その⑧
栄がマスコット大先生との二者面談を終えて教室に帰った時、他の場所では既に2つの三者面談──が行われていた。
話し手同士の対等さを重んじるならニュアンス的には「三者会談」の方が正しいようにも思えるが、公的か私的な違いを重要視するなら「三者面談」で良さそうだった。
だからこそ、栄が教室に帰って皇斗や愛香と三帝会議を行う際には全部で三つの三者面談が行われていた──ということだ。
三者三様。
各々が過去を振り返り、各々が未来を覗く──。
***
マスコット大先生との話し合いを終えて、俺は教室に帰ってくる。
そこにはもう既に、皇斗と愛香以外の生徒の姿はなかった。
「他の皆はもう帰ったのか?」
「そうだ」
「妾が邪魔者は全て帰らせた」
「邪魔者って……」
教室には智恵の姿も見えない。愛香が半ば強制的に帰らせたのだろうか。
「──それで、話ってのは?」
「第8ゲームのことと、今後のことについてだ。とりあえず、座れ」
俺はそれに従って、皇斗と愛香の近くの席に座る。上から見れば、俺達3人は三角を描くようにして座っているだろう。
「まず、栄は第8ゲームのことについてどのくらい知っている?」
「どのくらいって……まぁ、智恵からザっと話は聞いたから智恵の見聞きしたものくらいは」
「そうか。では、妾の活躍は知らぬのだな?」
「あれだろ、三苗の足止めしたやつ」
「──智恵の奴め、栄に話していたのか」
一人だけ机の上に座っている愛香が少し悔しそうな顔を滲ませるのが見える。
これは智恵から聞いた話ではないけれど、俺が映像で見ていた話だ。智恵の口から聞いたわけではないので、詮索されたら映像で皆のことを見えたことがバレてしまうだろうか。
別にバレて困るものではないが、智恵は自分が知っていることを一晩中喋ってしまったことに対して申し訳なく思ってしまうだろう。
「智恵に当たるなよ?」
「栄。貴様が妾のことを些事で人に八つ当たりをするような人間だと解釈しているのなら、貴様は根本的に間違っていることになる。お前が信じている太陽が沈んでいく方法も嘘だ」
「じゃあ、俺が愛香が可愛いって思っていたのも嘘だったかな」
「──」
俺がおどけてそう言って見せると、愛香は喉を詰まらせる。
軽口か手刀が飛んでくると思って挑発してはみたはいいけれど、まさか言い淀むとは思っていなかった。
「冗談はおいておいて、だ。第8ゲームについての情報共有は然程必要なさそうだな」
俺と愛香のくだらないやりとりに痺れを切らしたのか、皇斗は口を開く。
「あぁ。だが、誰が怪しい行動をしてた──とかは聞いてない。智恵は思い出を振り返るみたいな感じだったからな」
「成程。だが、余の目から見ても怪しい動きをしていた人は多くない」
「──多くないってことは」
「いる。だが、その全てが戦闘中の咄嗟の行動だと判断した。誰もが命を賭けていた戦場で、その機転が悪意のあるものかそれとも、誰かを想った行動の空回りかは余にも判別つかない」
「貴様も読心術を持ち合わせているわけではないからな」
「読唇術は持っているがな」
愛香の軽口に出てくる読心術は超能力だし、読唇術を持っていることを平然と口にする皇斗は超人だ。
日が経つにつれて皇斗の格が上がっているような気がする。
「じゃあ、完全に黒って人はいないってこと?」
「そういうことだ。だが、生徒会も今後はそうはいかないだろう」
皇斗が腕を組み目を伏せながら静かにそう考察する。
「茉裕が死んだからか」
「そうだ。これまでは、茉裕に表でかき乱す役を任せてそれ以外のメンバーは裏で暗躍する──という形を取っていたけれどこれからは別だろう。茉裕が生徒会だとバレる前──要するに、6月以前の状態に戻ったと言うことだ」
「それなら、裏でコソコソ動くってことか」
「端的に言えばそうだが、6月以前とは大きく異なる部分がある」
「なんだ?」
「皆が、これまで以上に生徒会は誰かと疑心暗鬼になることだ」
皇斗の言いたいことが理解できた。
茉裕がカミングアウトするまでは、生徒会の存在を知っておきながらも誰かと言う議論は然程活発なものではなかった。
それこそ、平塚ここあが殺された4月の初旬が生徒会探しのピークだっただろう。
だけど、茉裕という脅威を知って以降は、俺達の中での生徒会への重要さが高まっている。
「それに、生徒会側もこれまで以上に活発に暗躍する可能性もある。余の予測では、動きが縮小することはないだろうな」
「──成程。それはどういう理由で?」
「簡単な話だ。疑心暗鬼になってボロが生じるより先に、できる限り多くの人を減らしたい。何も動かないでバレるよりかは、1人でも多く犠牲にしてバレた方がいいだろう?それに、生徒会はマスコット大先生の命令で動かないと行けないだろうからな」
「そういうことか……」
「では、今後の課題は生徒会が動くより先に生徒会が誰か見つけること、だな?」
愛香がそう口にして、皇斗の方を一瞥する。皇斗は、静かに頷いた。
「では、早速生徒会を炙りだすための行動に移そう──」
「待て」
愛香が立ち上がり、動こうとするその時だった。皇斗は愛香を止める。
「どうして止める?時間は刻一刻を争うんじゃ──」
「生徒会が次に動き出すのは8月だ。少なくとも、七不思議其の参では動かない」
「──どうしてだ」
「七不思議其の参がクリアできなければ生徒会側も全滅するからだ。自分が生き延びることを理由に生徒会に入った彼らなら、自分たちが死ぬ可能性のある動きはしないだろう」
「悔しいが、納得してしまった。では、8月まではこちらも警戒しなくていいのだな」
「あぁ、そうだ。余からの話は一先ずこれで終わりだ。時間を取ってくれて感謝する」
皇斗がそう口にして、会議は終わる。
生徒会が動き出すのは8月。会長会議では注意が必要だな──俺はそう思った。





