7月26日 その⑤
俺と智恵の2人が教室に入ると、教室にいたほぼ全員が俺達2人の方へと視線を向ける。
歓迎された──というより、待ちくたびれたという感じだ。
「どうかしたのか?何か問題でもあったか?」
俺が誰か特定の個人に問いかけるわけでもなく、教室にいる全員に声をかけてみる。
愛香が嘆息をついて何かを口にしようとすると同時、俺の肩に後方から誰かが触れ──
「待ちくたびれましたよ。池本栄君」
俺の耳元に息を吹きかけるようにしてそう口にするのは、マスコット大先生であった。
こそばゆくて肩を震わせた俺は、すぐに振り向いてマスコット大先生の方へと向く。
「何するんですか」
「お仕置きです」
「何の」
「遅刻のです」
「稜から連絡が行ってませんか?」
「来ています。でも、池本栄君はクラス会長。クラスの中心的人物なんですよ。品行方正で公明正大じゃなきゃ他の生徒に示しがつきません」
マスコット大先生は、俺の肩にポンと手を置きゆっくりと横に首を振るいながらそんなことを口にする。
売り言葉に買い言葉。
俺が何を訊いても、暖簾に腕押しと言わんばかりにこちらの納得できる回答を返してこないのはいつも通りだった。
こんな時のマスコット大先生と議論をしても無駄であることは、この数カ月の間で学んだことだ。
「──すみませんでした。それで、俺は何をすれば?」
俺は素直に謝罪をする。こっちが何かを問いかけても無駄なのであれば、相手の発言をこっちが受け止めて言葉のキャッチボールを終わりにしてしまえばいい。
これも、この数カ月で学んだマスコット大先生──厳密に言えば、池本朗という人間の対処法だ。
「自分の席に座ってください。村田智恵さんもです。停滞していたホームルームをこれで進めることができます」
マスコット大先生がそう言ったところで初めて、俺と智恵がいなくてホームルームが進んでいなかったことに気が付いた。
だから、皆は俺達のことを待ちくたびれたような表情で見ていたのだ。
「──遅刻してごめん」
俺は、皆に対して深く頭を下げる。
智恵と仲良く眠っていた間は、皆を待たせていた──だなんて考えもしなかった。
皆は疲れているのにもかかわらずいつも通りの時間に起きて学校に来たのに、俺が遅刻したせいで待たされたのだ。そう考えると、罪悪感に苛まれる。
「反省する演技などしなくていい。妾達が栄に求めているのは、早く栄自身の席に座ってホームルームを進めることだ。反省していると言うのであれば早うその頭を上げ、直ちに自らの席に座れ」
愛香がドンと自分の机の上に足を乗っけて、そう口にする。俺と智恵は、それに従ってそれぞれの席に移動した。
「──さて。クラス会長である池本栄君が来たことにより、会長会議の説明を進めることができますね」
俺が自らの席に着席すると同時に、マスコット先生は語り始める。
会長会議。
第8ゲームの最中にマスコット大先生の口から伝えられたイベントの名を再度耳にする。
あの時はほとんど概要を話してもらえなかったが、今回は話してもらえるのだろうか。
「会長会議とは。その名の通りではありますが、それぞれのクラスの会長とその補佐達が一堂に会して話し合う会議のことです。私達のクラス──3年Α組の場合、クラス会長は池本栄君となりますね」
「それぞれのクラスの会長って、3年Α組以外にもクラスはあるんですか?」
そう問いかけるのは、康太だった。
「会長会議」と呼ばれる以上、他のクラスの会長もいる──そう考えるのは何一つおかしいことではない。
そして、問題はその「他のクラス」という存在で──。
「はい。私達のクラス以外にもデスゲームを行っているクラスは計7クラスあります。私達を含めると、8クラスが会長会議に参加することになりますね」
「私達以外に7クラスも!?」
真胡が驚く声をあげる。俺も、開いた口が塞がらなかった。
だって、考えたことなど無かったのだから。俺達以外にも現在進行形でデスゲームに参加している人達がいたなんて。
そもそも、過去にもデスゲームが行われたことでもビックリしていたのだ。だから、同時で別の場所でも行われているかも──だなんて考えることはしなかった。
だけど、他の場所でも行われてると考えることはできたはずだった。自分の視点でばかり物事を捉えすぎているな──と、自己反省する。
俺は、視線を皆の方に向ける。
その反応の多くは驚きに満ちていたが、愛香は感心したような表情を浮かべており、皇斗や誠は眉一つ動かしていなかった。
「そんな会長会議に参加する権利を、アナタ達は持っています。しかし、会長会議の会場に入る扉がどこにあるかは、アナタ達は知りません」
「──どうすれば教えてくれるんですか?」
俺は、マスコット大先生にドアを見つけるカギを乞う。すると、マスコット大先生は思ったよりも簡単に答えを出してくれる。
「七不思議其の参」
マスコット大先生は、右手の人差し指をピンと胸の前で伸ばしてそう口にする。そして、こう続けた。
「七不思議其の参をクリアすることで、会長会議の会場へと続く扉の場所がわかります。あ、会長会議に参加しないクラスは、会長としての義務不履行で、クラス全員が連帯責任で死亡するので注意してください」
いつもの表情で、悪魔のようなことを口にするマスコット大先生。
第8ゲームが終わって少し気の緩んだ教室に、緊張感が戻ってきた音がした。





