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7月26日 その②

 

「皆さん、おはようございます──って、あれ。皆さん、なんだか疲れたような暗い顔をしていますね。まるで異世界を救ってきたような感じです。何かあったんですか?」

 定刻通り教室に入って来たマスコット大先生は、疲労感を漂わせている生徒を見ながらそんなことを口にする。


「異世界を救ってきたんですよ、俺達は」

 少し投げやりにそう返答するのは、康太であった。『無敗列伝』が死に、ショックを受けていた彼であったけどある程度は回復したようだった。


「成程。ゲームのし過ぎで現実と非現実の違いもつかなくなっちゃったんですか?全く、これだから最近の若者は」

 マスコット大先生は、康太の話を信じない──正確には、信じないフリをする。マスコット大先生は、苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「中村康太君。ゲームに没入するのもいいですが、しっかり現実にも目を向けましょうね」

 マスコット大先生は、そう口にして被り物の口角を上げる。いつ誰が見ても、その原理はわからない。

 康太は、マスコット大先生と睨み合うけれども被り物をしている彼とは相性が悪いと言わんばかりに視線を逸らす。


「──俺は最初からずっと現実しか見てませんよ」

 負け惜しみを言うように、康太はそう口にしたのだった。


「と、今日はいつもより人が少ないようですね。秋元梨花さんと池本栄君、村田智恵さんの姿が見えません」

 康太の興味を失くしたのか、マスコット大先生は出血を取り始める。そして、3人がいないことを指摘する。朝、遅刻しそうだと騒いでいた健吾であったが、美緒の準備の良さを理由に遅刻を回避していた。


「あ、栄と智恵は今日遅刻するみたいです」

「2人揃って遅刻ですか?久々に再会したからやることしっぽりやってるんですかね」

 稜も純介も、思っても口に出さなかったことをマスコット大先生は真っ先に触れる。なんとも彼らしいが、親としても教師としても最悪だった。


「問題は秋元梨花さんですか。チームAの寮はもう彼女しか残っていませんから、彼女が家から一歩も出ていないと言うのなら連絡を請け負った人がいるわけでは無さそうですね」

 マスコット大先生は被り物の顎に当たる部分を右手で撫でながら梨花の出欠について悩んでいる。


「現在、大切なお友達を失くして傷心中なのでしょう。夏休み前最後の投稿日にはなりますが、欠席ですかね」

 マスコット大先生はそう判断すると、付けているのかわからない出席簿を閉じた。


「それでは、ホームルームを始めましょう。今日は皆さんに伝えることが多いですのでテキパキいきますよ。まず、明日から夏休みが始まります」



 夏休み。

 もっと言うのであれば、高校最後の夏休み。

 受験生にとって、一番大事な時期であるのだろうけれど稜達はこの1年を生き残ればいいから受験勉強に没頭する必要はない。

 受験競争とデスゲーム。勝ち抜くならどっちの方が難しいのかを考えれば確実に後者であるから、受験勉強をしなくてもいい──そんな楽観的な考えを持つことはできなかった。


 文字通り命を賭けた受験勉強とも言えるこのデスゲームの夏休みは一体何があるのだろうか。

 きっと、マスコット大先生のことだから「何もない」などと言うことはないだろう。もしかしたら、第8ゲーム以上の対策が待ち受けているかもしれなかった。そう考えると少し億劫になる。


「皆さん、夏休みだと言うのに嬉しくなさそうですね。皆さんは受験勉強をする必要がないから今年の夏休みは自由なんですよ?」

「受験勉強は無くてもデスゲームはあるじゃないですか。マスコット大先生が考えそうなことはもう大体わかるんですよ」

 健吾が呆れたようにそう口にするが、マスコット大先生の返答は彼らの思っていたものとは違う。


「いえ、夏休みの間私からは皆さんにデスゲームを強いるようなことをするつもりはありません」

 平然とそう告げるマスコット大先生に対し、皆は「冗談を言うな」と言わんばかりの呆れたような表情を浮かべる。


「皆さん、そんな顔で私を見て失礼しちゃいますね。私は皆さんの担任ですよ?皆さんに危険な真似をさせるわけないじゃないですか。少なくとも夏休みの間は、私が皆さんにデスゲームを強制することはありません」

 七不思議は別ですが、などとそう補足するマスコット大先生を横に生徒の面々はざわめきを見せる。


 デスゲームが行われない。

 禁止行為という縛りがあるため完全に羽目を外すことはできないが、定期的に開催されるデスゲームが無いならば相当楽ができる。

 そうやって、教室のテンションが次第に高揚し始めたその時だった。


「デスゲームを強制しません。その代わりと言ってはアレですが、皆さん──面倒なことに今はこの教室にいない池本栄君には特に参加していただきたいものがあります」

 マスコット大先生がそう口にすることで、教室の空気が一気に静まり返る。

 4月1日を思い出すその張り詰めたような空気。


「会長会議。そう呼ばれる集会に、君達は参加して欲しいのです」

 マスコット大先生は、長いようで短い一夏のお供となるそのイベントの名を告げる。


 ──会長会議。

 ──それが、第5回デスゲームとその参加者に大きな変革をもたらす舞台の名前だった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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