7月25日 その④
マスコット大先生に教室を追い出された後の俺達は、一度それぞれの寮に戻って一息つくことになった。
夜の8時からは、第8ゲームで忙しかったので何も準備できていない状況であったけれど智恵の誕生会を開くことになっている。
それまでの2時間で、各々がシャワーを浴びて誕生会に備えていた。
主役の恋人である──として、第8ゲームではほとんど何もしていないのに一番のシャワーに入る権利を譲ってもらった俺は、シャワーを浴びた後でリビングに戻ってくる。
「誕生日プレゼントとか用意できてないけど、大丈夫かな」
健吾がシャワーを浴びている現在、ソファに腰を下ろした俺は隣にいる稜にそんな不安をぶつけてみる。
「まぁ、プレゼントが無くても仕方ないと思うよ。第8ゲームで色々バタバタしてて忙しかったんだしさ。それに、今は栄が智恵の近くにいてやることが一番のプレゼントだ」
第8ゲームの影響で俺はしばらく智恵と会うことができなかった。俺の側からは勇者一行のことを常時観察することができたのだけれど、智恵の側からは別だろう。
きっと俺に見られていたことさえ知らないだろうし、それどころか俺の安否をずっと心配していたはずだ。
俺の居場所が判明するまでは、きっと気が気じゃなかっただろう。第4ゲームの時、智恵が誘拐されて俺も似たような気持ちを覚えたのを今でも克明に覚えている。
「栄はそんな不安に思う必要はないと思うよ。プレゼントなんかなくたって、智恵は栄に幻滅したりしないから」
クッションに体を委ねている純介も俺の心配を除去しようとアドバイスをくれる。
「幻滅されない自信はあるけど、やっぱり何かあげた方がいいんじゃないかって……」
「出た、バカップル」
「バカップルじゃないよ」
純介に「バカップル」だと揶揄されるから俺は瞬間的にそれを否定する。
「プレゼントじゃなくて大事なのは気持ちだから。栄が智恵を想う気持ちさえあれば問題ないよ」
「じゃあ、俺は永遠に智恵にプレゼントをあげる必要はないな」
「やっぱりバカップルだ」
純介がそう呟く。「バカップルじゃないよ」──と突発的に否定しようと思ったけど、バカップルでもいいなと思ったから何も口にせず、この話はここで一区切りがついた。
***
──そんな会話からあっという間に時間が経って、時計の短針は8を指し示している。
俺達4人は、チームFの寮に足を運んだ。
そして、寮のチャイムを鳴らすと梨央が出迎えてくれる。
「あ、来た来た。もう準備できてるから、中に入っていいよ」
梨央が俺達をこまねいていくれるから、俺達はチームFの寮の中に入る。俺達の寮と同じ作りをしたその建物のリビングに行くと、そこには大きなホールケーキが置かれていた。他にも、誕生日に相応しい豪華な食事が用意されていた。
そして、その奥の誕生日席に智恵が目を輝かせて座っている。俺と目が合うと、智恵は立ち上がって俺の方に駆け寄ってくる。
「栄!見て、ケーキ!」
智恵は、好物のケーキがあるからいつもよりテンションが高い。
「これだけの食事にケーキなんてよく用意できたね。作ったの?」
「まさか。流石にこんな短時間でケーキは作れないよ」
「じゃあ、どうして?」
「誕生日の日だけ、ショップでケーキが無料で貰えるの」
「そうだったのか」
俺は誕生日がまだだったから知らなかった。
「ワタシが誕生日の時にも同じ特典でケーキを食べたから、それで思い出したんだ」
「そう言えばそうだったな」
ケーキの出処と着想の元を教えてもらうと、稜が思い出したような反応を示す。
「何?稜、一回食べたことあったのか?」
「まぁね。その時栄達はいなかったから、女子4人と俺だけで」
第4ゲームが終わった後で忙しかったから、梨央の誕生日のことなど頭の中から抜けていたが俺の知らないところで誕生会が行われていたようだった。
「──と、ワタシの誕生会の話はいいからさ。今日の主役は智恵ちゃんだよ」
梨央が俺達に座ることを勧めるから、俺達は席に着く。4人用の机だから、8人で囲むとなると少し狭い。だけど、それも楽しいから問題なしだ。
俺達は、冷蔵庫に常時完備されている炭酸の蓋を開けてそれぞれのコップに注ぐ。そして──
「じゃあ、乾杯しよっか」
美緒がそう提案すると、全員が頷き智恵の方へと視線を向ける。智恵は一瞬困ったようにしつつも、自分のグラスを持ち上げ──、
「今日は誕生会を開いてくれてありがとう。乾杯~」
「「「乾杯~!」」」
幾重ものグラスが重なり合い、軽快な音が鳴る。
第8ゲームで色々な大変なことや辛いことがあったが、今だけは忘れてもいいだろう。
──その後、俺達は8人で食事を楽しんだ。
誰一人欠けることなく、この8人で笑い合うことができる喜びを俺は心の底から噛み締める。
ケーキを食べ終えた後も誕生会は続き、あっという間に智恵の誕生日は終わりを迎えようとしていた。
23時57分。
夜も遅いからと解散になった後、俺は智恵に手を引かれて彼女の部屋に案内される。
そして、部屋の扉が閉じられた後で智恵は俺に強く抱きついた。
「──寂しかった」
智恵が溶けるような声でそう甘えてくるから、俺は強く抱きしめることで応える。
するのは、謝罪じゃない──。
「俺も。寂しかったよ」
寂しさを埋めるように、俺は智恵と熱烈なキスをする。そして、俺は智恵をベッドに連れて行った。
2人は暑い夏の布団の中へと潜っていく。その熱さえ愛せると言わんばかりに、智恵はこれまでで一番楽しそうな顔を浮かべて──
「──栄。私の話、聞いて!」
俺は、夜通し腕の中にいる智恵の楽しそうな冒険譚を聴き続けた。
眠ることより、智恵と夜通し語り明かすことの方が今の俺の体には薬であった。
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