7月25日 その③
皇斗を皮切りに解散になった後、俺を救ってくれた皆が待ってましたと言わんばかりに俺を囲おうとする。
「栄、大丈夫だったの?」
「捕らえられたって言ってたけど、檻とかに捕まってたの?」
皆、俺のことを心配してくれていたのだ。その優しさに胸が詰まる。
「牢屋みたいなところにプラム姫と一緒に入れられてた。でも、こっちは苦痛なことはなかったから冒険した皆の方が波乱万丈で大変だったと思う」
率直な意見だった。最後のプラム姫──あえて違いを付けて呼ぶのなら『羅刹女』との戦い以外では、俺は何一つとして活躍を遺していない。
強いて言えば、第二回試験と称した俺の意思確認だろうが、そんなものを皆に伝えるつもりなど毛頭もなかった。裏切る可能性があった──と思われることすら嫌なのだ。
「僕は何度も睡眠妨害されてるから、そろそろちゃんと寝たいピョン」
蒼がそう口にして、ヒラヒラと俺の方に手を振りながら教室を出ていく。その後を、康太が神妙な顔して続く。
「皆が王国戦争で誰と戦った──みたいな話を聞きたいのは山々なんだけど、俺も皆も疲れてると思うからさ、旅路の話は明日にしないか?」
俺がそう提案すると、俺を囲う皆が顔を見合わせた後でそれに了承してくれる。
「わかった。じゃあ、明日。覚悟しててよね」
「覚悟しててって……」
歌穂らしい言い方に困惑しながらも、俺を囲う集団が散り散りになって教室の人口密度を減らしていく。
最後に出て行った美玲が、気を利かせて教室の電気を消してくれた。
──最後まで残っていたのは、俺を含めた8人。
「──お疲れ様、皆」
窓の外から、夕陽が射す。
教室の半分に影が生まれ、皆の顔を黒く染める。
美緒のそんな声が教室の中に溶けて、第8ゲームが終わったことを実感する。
「長かったな、今回のゲームは」
「ワタシ、ヘトヘトだよぉ……」
稜に相槌を打つようにして、梨央が肩を下げてそう口にした。
「俺のため──って考えるのは少し自意識過剰かもしれないけど、ありがとう」
俺は、ゆっくりと立ち上がりながら皆に感謝のことを述べる。その言葉に嘘はない。
そんな俺の言葉に対し、皆は夕陽の陰で隠れていながらもわかるような優しい微笑みを浮かべていた。
「自意識過剰なんかじゃないよ。少なくともオレは──ここにいるオレ達は皆、栄のためにドラコル王国を生き抜いてきた」
健吾の言葉に、皆が頷く。
そのことに、どうしようもなく胸の中が白く熱くなっていった。
思うように言葉が紡げない。
目の淵が熱くなってくる。涙が零れそうだった。
俺は、上を向いて両の目頭を右手でつまむ。そして、涙のピークを乗り越えた後に顔を戻す。
「──ありがとう。皆が友達でよかった」
「ありがとう」…それしか言う言葉がみつからない……──だなんて、そんな言葉が適した状況が自分の人生が来るとは思わなかった。
だけど、確かに今の俺からは「ありがとう」以外の言葉が出ないのだった。
──夕陽が沈もうとしている。
皆の冒険が終わる。本格的に皆の顔に影がかかり、一目では誰が誰だかわからなくなってくる。
俺は、そんな中で一人の少女の方に顔を向けていた。
最愛の彼女。そして、第8ゲーム最大の功労者。俺にとっての一番。
「──智恵」
彼女の名前を呼ぶ。口の動かし方も、発音の舌触りも全てが愛らしい。
「なぁに」
優しく、智恵が返す。
『羅刹女』との戦いの最中は、忙しなくて再会の感動に浸ることもできなかった。
解放されてからの数分でなんか、物足りない。だから、伝えたいことを伝えるまでだ。
「お誕生日、おめでとう」
「──誕生日?あ……」
智恵は、陰のかかった黒板を細目で見て初めて今日が自分の誕生日であることを理解したようだった。
「そっか、今日。誕生日だったんだ。疲れて覚えてなかった」
智恵が少し恥ずかしそうに笑う。そのはにかみが愛おしい。
ゆっくりと、智恵の方へと歩みを進める。沈みかけた夕陽の光が俺の顔にかかる。
キラキラと、智恵が光り輝いているように感じた。
「ありがとう、栄。私、高校に入ってお誕生日おめでとうなんて言われるの初めて」
陰に包まれていても、智恵の目から涙がこぼれたことには気付けた。
俺は、智恵の目の前まで歩みを進めて彼女を優しく抱きしめる。
智恵の過去を俺は知っている。だから、その言葉の重みも知っている。
「強くなったな」
俺は抱きしめた智恵の頭を撫でながらそんなことを口にした。
智恵が俺にその重すぎる過去を話してくれた時、智恵は胃の中が空っぽになっても吐きながら話してくれたのを覚えている。
「ううん、強くなんかなってないよ。栄がいてくれるから耐えられてるだけ」
智恵が俺の胸に顔を埋めながらそう口にする。俺がゆっくりと智恵の頭を撫でる時間が続く。
他の6人は、俺達に気を利かせているのか静かに見ているだけだった。
夕陽が沈む。そして──
「皆さーん。教室から早く出ていてください。下校時刻はとっくに過ぎていますよ。それとも、七不思議に参加したいんですか?」
俺達の空間に入り込んでくるのは、マスコット大先生。
第8ゲームに参加した直後に七不思議に参加することは厳しいから、俺達はマスコット大先生の言葉通り寮に戻ったのだった。
栄を一番廊下側に配置し続けていたのは、皆の後ろに夕陽を置きたかったから。





