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7月25日 その②

 

 ──7月25日。

 王国戦争が起こり、美沙と茉裕の2人が命を散らした日。

 そんな悲喜交々の一日は、俺の最愛の恋人である村田智恵の誕生日だった。


 お通夜のような重い空気がのしかかる教室の中、俺は智恵の誕生日のことに思考を移しそうになる。

 だが、ここでどうしても頭を過ってしまうのは美沙のことだった。


 茉裕は遅かれ早かれ俺達の手で制裁を受けていただろうから、それがたまたま今日だっただけ──であるし、数々の悪事を行ってきた生徒会である彼女の訃報は、悲しみどころか少し小躍りしてしまような内容だった。

 だけど、美沙に対しては違う。王国戦争がなければ美沙はまだ死亡していなかっただろうし、美沙は俺を助けるために死んだのだ。


 これまでにもこのデスゲームの中で多くの犠牲者が出たが、俺を助けるために死んだ人は初めてだった。

 だから、それを忘れるようにして智恵の誕生日を祝って喜んでもいいのだろうか──とも思ってしまう。


 俺の中では、智恵を祝いたい気持ちと美沙の死を悼みたい気持ちが両立する。

 この相反する2つの気持ちにどう向き合えばいいのか、俺はよくわかっていない。

 だが、きっと先に向き合うべきなのはこっちの方で──。


「──あの、いいか?」

 美沙の死に向き合うと決めた俺は、躊躇いがちに手を挙げた。すると、全員の視線が俺の方に向けられる。沈黙に刃を突き刺している感覚があった。


「まずは、第8ゲームで俺を助けてくれたことに関して皆に感謝を言いたい。俺を助けてくれてありがとう」

 俺は、頭を深く下げて皆に感謝の気持ちを伝える。

 この気持ちは嘘じゃない。皆が王国戦争に巻き込まれた時はヒヤヒヤしたけれど、助けて来てくれること自体はとても嬉しかった。


「美沙のことは残念に思うし、少し責任も感じている。皆が王国戦争に巻き込まれたのは俺を助けるためだったからだ。もし俺が捕まっていなければ、王国戦争は回避できたかもしれない」

 俺が頭を上げてから美沙の件に触れると、智恵の後ろに座る愛香が自らの机の上で足を組みながら声をあげる。


「自惚れるな。話を聞くに、美沙を殺したのは茉裕なのだろう?ならば、王国戦争など関係なく美沙は殺されていたはずだ」

「茉裕は誰でもいいからデスゲーム参加者を減らしたかったんだと思う。だから、美沙が選ばれたのは偶々──というよりかは、戦略の一つであって、もしも立場や立ち位置が違ったならオレが殺されたかもしれない」

 梨花の他に、美沙の死に居合わせた健吾が真面目に分析をしてくれる。


 ──健吾の言うことは間違っていないだろう。

 生徒会である茉裕は、とにかく一人でもデスゲーム参加者を減らしたかったはずだ。

 それが彼女に与えられた役目であり、生きる理由だった。慶太と沙紀に鈴華──と、次々に手札を減らしていった彼女にとってこのゲームが最後のチャンスであったと考えるのは容易だ。


「だからそう言っているだろう。栄が捕まっていようといなかろうと、美沙が──デスゲーム参加者である誰かが殺される未来は避けられなかった。美沙の死は、美沙の不手際であって栄が考えすぎることはない」

「美沙の不手際ってことにはあんましたくないけどな……言ってることは間違ってない。オレも愛香に大体は賛同だよ」

 俺は、愛香と健吾の2人から塞ぎ込まないように言って貰える。

 美沙の死に区切りをつけて智恵の誕生日を祝うために、こうして「赦し」を第三者から貰いたかったのかもしれない。

 美沙が今の俺を見たら、汚いと罵るかもしれないが、それに反論することはできなかった。

 いや、きっと彼女も「ミサが命を賭けたのは栄を助けることじゃなくて、親友の仇である茉裕を殺すことだよ」と言うかもしれない。


「ありがとう。すぐに切り替える──ってのは無理だけど、あまり塞ぎ込まないようにするよ」

 俺はそう口にする。

 美沙の死は、他の皆の死と同様に心を痛ませる。俺のせいで死んでしまったわけではないが、誰の死であろうと俺の心は痛むのだ。


 ──と、俺がゆっくりと椅子に腰を下ろした時。表情を変えずに座っていた皇斗が、口を開く。

「──それよりもっと、考えるべきことがあるんじゃないか?余達は全員が各地で力を合わせることで茉裕の殺害に成功したが、逆に言えばまだ茉裕一人だけだ。生徒会は、最低でも残り2人はいる」


 ──皇斗は、残りの生徒会のことを口に出す。

 これまで茉裕に集中することで良くも悪くも目を逸らしていた問題に、目を合わせなければいけない時が来たのだ。


 正直に言えば、茉裕以外にも最低2人の生徒会がいることを疑うのは辛い。

 少なくとも皆に助けられた俺は発言権などないだろう。それどころか、この中に裏切り者がいる──などとは考えられることはできない。


「──もちろん、余もこの状況で誰が怪しいかなど話し合えることなど承知だ。故に、今生徒会探しをしようとは思わない。だが、心に留めておくべきだ」

 皇斗はそう口にすると、一人立ち上がり教室から出ていく。


 ──その日は、そのままこれで解散になった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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