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7月25日 その①

 

 ──第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』が終了し、俺達は帝国大学附属高校へと帰還する。

 何カ月もいたような気もするドラコル王国だったが、俺達が滞在したのは3週間とちょっとのようだった。


「──久々だ」

 久しぶりに降り立つ教室を眺めながら、俺はそんなことを口にする。

 自分が今立つフローリングの床を眺めて、教室前方の白板に視線を移す。綺麗にされてている白板は少しキラキラと光り、俺達の顔を淡く映し出していた。


「──皆さん、第8ゲームお疲れさまでした。皆さんの活躍はキチンと見させていただきましたよ」

「マスコット大先生だ、懐かしい」

「もう死んでたかと思ったピョン」

 俺は第8ゲームの最中でも何度かその姿を見ていたが、俺を助けてに来てくれた皆の前には一度もマスコット大先生は現れなかったはずだ。マスコット大先生の姿に、美玲や蒼が懐かしさを覚えている。


「勝手に私を過去の人にしないでください。と、そんなことよりですね。皆さん自分の席に座ってください。そうすれば、誰がいて誰がいないかは一目瞭然ですからね」

 マスコット大先生が手を叩きながらそう言うので、俺達はゲーム終了の感動を後回しにして各々の席に移動する。皆と色々話したいことがあったけれど、それも今は一旦後だ。

 俺の知らないところで犠牲者がいるかもしれないし、その確認は大切だった。


 俺が知っているのは、智恵が決着をつけた生徒会メンバーの茉裕のことだけだ。

 他に誰も死んでほしくない──そう思いながら、俺は一番廊下側の前から4番目の自分の席に座る。前と横は時尚と鈴華なため空席だが、後ろの康太と左斜め後ろ愛香の姿はある。左斜め前の蒼の声も確認できた。


 そう思いながら各々が座った教室を見渡すと、第8ゲーム開始より前と比べて2つの空席が増えていた。

 1つは一番左の一番前。そこは茉裕の席だ。そして、その右隣の席。その席の主は──


「──美沙」

 俺は、その犠牲になった少女の名前を口にする。

 佐倉美沙。誰と戦って、どこで死んでしまったのかは俺にはわからない。

 だけど、王国戦争で命を落としたのは間違いなかった。


「はい。全員着席ありがとうございます。第8ゲームで死んでしまったのは佐倉美沙さんと園田茉裕さんの2人ですね」

 俺は、マスコット大先生による淡々とした死亡報告を耳にして奥歯を強く噛み締める。

 美沙の死について、俺は言葉での反応を示すことができない。決して、悲しんでいないわけではない。美沙が命を落としたのは、俺を救出するために戦ったからだ。俺の救出は唯一の第8ゲームのクリア条件だったとしても、罪悪感が胸を締め付ける。


「──皆さん、本当にお疲れさまでした。本日は日曜日ですので、これ以上は特に何かあるわけではありません。夏休みのことについては、また明日お話します。それでは、解散にしましょう」

 マスコット大先生は、お通夜状態のクラスにそんな言葉を残して前方の扉から出ていく。


 ──沈黙が続く。

 生徒会である茉裕を倒すことができたのは喜ばしいことなのかもしれないが、美沙の犠牲は大きかった。

 できることなら全員が生きて欲しかった──そう考えるのは、傲慢だろうか。


 そんなことを考えていると、茉裕や美沙の席の近くに座っていた梨花がゆっくりと立ち上がる。

 そして、俺達皆の方を向いた。


「──アタシは、美沙と健吾と一緒に茉裕と戦った。美沙は、自分を犠牲にしてでも茉裕を倒そうと頑張ってくれた。だから、アタシは茉裕を倒せたことが嬉しい」

 沈黙を破った梨花の言葉が終わると同時、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっていき大粒の涙がこぼれていく。


 ──梨花は強がりだから嬉しいと言ったものの、きっと悲しくて悔しくて辛いのだろう。

 彼女は、茉裕に恋人と親友を殺された。梨花の情を奪い取ったのだ。


 彼女は、頬を伝う涙を両手で拭いながら口元を震わせる。

「──ごめん。一人にさせて」

 そう口にして彼女は、大声で泣きだす。わなわなと体を震わせながら、梨花はその場にへたり込んでしまった。


 その姿を見て、ゆっくりと立ち上がるのは誠だった。

「──秋元を1人にしてやろう」


 いつもと変わらぬ口調でそう口にする誠の一声で、俺達は1年Α組の教室から席を外す。

 梨花以外の俺達は隣の空き教室に移動して、王国戦争に関する情報交換を行った。


 智恵が茉裕のトドメを刺したことや、百鬼夜行も無事に討伐できたこと。そして、『無敗列伝』が命を散らしたこと。

 茉裕と百鬼夜行の討伐は、どちらかと言えば喜ばしい内容ではあったが『無敗列伝』の訃報は関りが無い俺でも聴いてて少し辛かった。


 ──第8ゲームは、生徒会一人を減らすことができたものの多くの命を失った。

 だから、ゲームが終わった後もこうやって割り切ることのできない雰囲気が続いている。


 そんな中で、いつの間にか俺の手元に帰ってきていたスマホを覗き見るとそこに浮かび上がったのは「7月25日」という日付だった。

 そして、俺は今日と言う日が特別な日であることを思い出す。


 ──7月25日は、最愛の彼女である智恵の誕生日だ。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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