冒険の終わり その②
『羅刹女』の消滅と同刻。
先代『古龍の王』討伐の熱狂の余韻が漂い続ける城内都市パットゥの第一層で勇者の体が光に包まれ消えゆこうとしていた。
コンによる説明こそ無いが、勘のいい皇斗は「残り5分と言ったところか……」などと口にして、長い時間を過ごしたドラコル王国から学校に帰ることを察している素振りを見せた。
勇者一行は、このまま大団円を迎えて学校に戻る──わけにはいかず、戦闘ではないもののまだ一悶着起こる。
その第一声になったのは、美玲のパットゥ中に響き渡る大声だった。
「まだ、帰れないッ!」
使命を抱える美玲は、その体一つで〈鋼鉄の巨人〉の体を登っていく。
彼女の行動理由が理解できない他の皆は、それを止めることも追いかけることもしなかった。
「──騒がしい。早く消えてくれ」
メイは、〈鋼鉄の巨人〉を登ってくる美玲のことを鋼鉄の巨腕で彼女のことをつまむ。地面で見ていた歌穂が万が一に備えてその斧を構えたけれども、それは杞憂だった。
美玲は抵抗せず、メイもつまむ以上の危害を加えることはなく彼女を自分の乗る肩の前まで連れて行った。
「優生人種のアナタが私に何か用──ッ!」
儚げにそう口にしていたメイは、美玲の腰に刺さっている見覚えのある剣を見て喉を震わせる。
その剣の持ち主は、メイの所属している『親の七陰り』の前衛エレーヌ・ダニエラ・レオミュールのもので──
「待って。話を聞いて」
命を握られていながらも、美玲は真剣な眼差しでメイに訴える。
メイが先走って美玲を殺そうとしたなら、もう既に命はなかったはずだ。それなのに今美玲が生きていることに理由があるとすれば、美玲が敵意を向けずに真摯な気持ちでメイの前にいたからだろう。
「話を聞いて?バカみたいなこと言わないで!だって、その剣は!」
「そう。エレーヌの剣」
「──ッ!」
エレーヌの剣だけが出された現状が指し示しているのは、エレーヌの死だ。
実際、美玲はエレーヌに勝利をしている。そして、仲間を想う彼女を救うために美玲はその遺志を継いだ。
「この剣はアナタに帰そうと思う。ワタシはもう消えちゃうし、エレーヌのメイが持っていた方が嬉しいと思うから」
「──」
メイの表情は歪んだまま時が止まったかのようだった。言葉を失った彼女は、ただ顔を蒼白させることしかできない。
「エレーヌの剣、受け取って」
腰から鞘ごと抜いた剣を、メイの方へと向ける。
メイは一体、何を考えただろう。
死んだ仲間の遺品を前に、死んだ仲間を殺した相手を前に、何を思っただろう。
メイの表情から読み取るに、読み取ることさえ悍ましいような禍々しい感情をその腹の底に宿したのかもしれない。
「──よくも平気な顔をしていられるな。お前がエレーヌを殺したくせに!」
腹の底から声を絞り出して、メイは彼女自身が投げかけられる最大の怨みを口にする。
「──ワタシがエレーヌを殺した。それは間違いない。でもね、エレーヌはメイ達を守るために死んだんだよ」
美玲は、エレーヌの死に際を──否、生き様を語る。
「エレーヌは、もし王国戦争で自分たちが負けてもいいように振舞ったの。自分を犠牲にしてでも『親の七陰り』」を守るために。ワタシは、ワタシがエレーヌを殺したことを綺麗事にはしたくないけど、それよりもっとエレーヌの生き様を知って欲しいの」
真っ直ぐな瞳でそう述べる美玲に嘘はない。
彼女は、わざわざ自分が死ぬかもしれないという危険を冒してまでエレーヌの剣をメイに託そうとしているのだ。
美玲が送る、エレーヌへの賞賛。それを無碍にするようなことはメイにはできない。
「──これだから優生人種はッ!」
そう口にして、メイは剥ぎ取るようにして美玲からエレーヌの剣を受け取った。
手から離れていく剣を見て、美玲は柔らかな笑みを浮かべて──
「──ありがとう」
ただそう口にして、光の中に霧消していったのだった。
──死亡者2名を除いた全員が高校に帰り、第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』は終了する。
人生にエンディングはない。彼らの人生は、明日も明後日も続いて行く──。
***
──ここから先は、後日談だ。
デスゲームの舞台となったドラコル王国の運命は、ゲーム版の展開から少しばかり変わった。
DLCのやり込み要素が無くなったことに起因するが、きっとゲーム版よりもいい方向に向いたと言えるだろう。
第一に、王国戦争終了後に『剣聖』と『鋼鉄の魔女』の2人が王城に戻りプラム姫の訃報を伝えた。
『古龍の王』にプラム姫死亡の責任を擦り付けた2人はお咎めなかった。
そして、王国戦争の顛末が世間に発表されて早くも数年が経つ。
『死に損ないの6人』は『剣聖』以外死亡したことで用いられることは減っていた。
唯一の生き残りである『剣聖』は今も、猛者を求めて世界中を旅していることだろう。
一方で『鋼鉄の魔女』は、唯一の先々代『魔帝』の弟子の生き残りということで『魔帝』の地位に君臨していた。本人としては不服そうな感じをしていたのだが、その二つ名を他の誰かに譲ることは認められないようだった。
全国各地から集められた弟子と共に、旧『神速』邸で修業に励んでいる。
王国戦争がドラコル王国に与えた衝撃は、何も『剣聖』を除く『死に損ないの6人』と龍種が全滅したことだけではない。
ドラコル教のトップである『総主教』が死亡したことは、ドラコル王国中を大きく揺るがした。
ニーブル帝国との関係に更なる摩擦が生じ、戦争の契機になる──かと思われたが、『魔帝』となったアイアン・メイデンとその兄であり捕吏のトップであった『虹』ローゼン・メイデンの2人によってなんとか抑え込むことに成功し、戦争は回避された。
──王国戦争など、歴史の出来事の一つに過ぎない。
これからも何百年も歴史が紡がれ、何万人もの冒険者が生まれる。
一つの神話の終わりを迎え、新たな神話が始まる。
ただ、それだけの話だった。





