王国戦争 その⑰
〈剣の王〉。
それは、『剣聖』という称号が初代に授けられた800年前から今に至るまで、34代に渡って受け継がれてきた原点にして頂点である必殺技の名だ。
〈剣の王〉以外にも、それぞれの時代の『剣聖』が十人十色の必殺技を生み出してきたが、今の時代まで継承されたのはこの一つだけであった。
初代『剣聖』にして、技名の由来になっているアイソールド・ガラニュートが考案したその剣技は、見様見真似でやってみても使えない──即ち、『剣聖』に師事して指南してもらわなければ扱えない。
『剣聖』からしてみれば「扱いやすい」必殺技なのだが、通常の冒険者には扱えない──という、矛盾を孕んだかのような不思議な技が〈剣の王〉なのだが、そんな『剣聖』専用の必殺技を、34代『剣聖』マルクス・シュライデンに続いて、一介の勇者である健吾が使用した。
それはどうしてか。
──その答えは、『剣聖』が計画して実行に移した作戦の中にある。
その作戦の渦中にある王国戦争の最終決戦で、勝利を掴むのは勇者一行か、それとも『羅刹女』か──。
女神は今も、『羅刹女』を溺愛し続ける──。
***
『剣聖』に続き、健吾も〈剣の王〉を放つのに成功する。
全員が吹き飛ばされて大怪我を負い、一度はどうなることかと思ったが稜達の必死の攻防でなんとか作戦実行まで漕ぎ付けた。次は──
「──私の番ッ!」
『羅刹女』の死角から迫る、『焦恋魔』──俺の最愛の彼女である智恵の一閃。
既に2発の〈剣の王〉を食らっており、防御も回避もできる様子ではない『羅刹女』の首に叩きこまれたのは──
「──〈剣の王〉っ!」
合計3発目の〈剣の王〉が、智恵の手によって放たれて『羅刹女』の首に更なる裂傷を生む。
『な、なにを──ッ!』
健吾に引き続き、智恵までもが〈剣の王〉の使用を成功させる。
2人共失神して、地面に落下して行くけれども稜が助けに動いてくれているから安心だ。
そして、俺の体にやってくるのは自らが『剣聖』になったという責任感と充足感。
──そう、俺は『剣聖』になったのだ。
ここで、『剣聖』が立てた今回の前代未聞の作戦を復習しておこう。
まず、〈剣の王〉の使用条件は大きく分けて2つあり「『剣聖』であること」と「『剣聖』から指導を受けること」だ。
そして、その指導も2つに分かれており、1つは「『剣聖』からやり方を教わること」で、もう1つは「最低2回は〈剣の王〉が使用されたことを見ること」である。
前者は、作戦が伝えられた時と同時にご指導ご鞭撻を受け、後者は鯀討伐の際に一度、そして先程の戦いで一度。
これにより、〈剣の王〉の使用条件の1つである『剣聖』から指導を受けることは達成した。そして、条件のもう片方である『剣聖』であることもたった今達成された。
何故なら──
「僕が〈剣の王〉を使用した後、すぐに健吾に『剣聖』の地位を譲る。そしたら、『羅刹女』に向けて〈剣の王〉を使って、すぐに他の誰かに『剣聖』の地位に譲渡してくれ」
そんな提案を、第34代『剣聖』マルクス・シュライデンはした。
そして、先程『羅刹女』に向かって〈剣の王〉を使った後は、即座に健吾に『剣聖』の地位を譲り健吾が第35代『剣聖』に、その後すぐに健吾も必殺技を放ち智恵に譲ったため、智恵が第36代『剣聖』になった。そのまま、智恵は『剣聖』の称号を俺に譲ったから、第37代『剣聖』の称号は今、俺の手元にある。
『どうして、どうしてッ!』
状況が飲み込めていない『羅刹女』は、文字通り首の皮一枚で何とか繋がっている状態だった。
こうして言葉を紡げているのは、彼女がテレパシーを使用しているからだろう。
「──これで、最後」
俺は、そう口にして稜から託された剣を握る。
純介と紬と梨央が回復魔法をかける時間を稜と美緒が稼ぎ、それによって俺と智恵と健吾、そして『剣聖』──マルクスが復活できた。
「俺達の勝利だ」
これが『剣聖』の権能かはわからないが、いつもより高く跳べるような気がする。
体が風船になったかのように、俺は高く跳んで『羅刹女』の首へと迫る。白金の鱗を持つ強力な龍だって、首が斬られては防戦に徹するしかないようだった。
一切、抵抗する素振りを見せない『羅刹女』に向けて、俺は必殺技を放つ。
──これは、俺達の物語。
──俺達37人が紡いできた、勝利を掴むための物語。
「──〈剣の王〉」
俺が放った一閃が、巨龍の胴と首を泣き別れにする。首が天高く跳びあがり、龍の胴体が失墜していく。
俺は俺で、剣を振るった衝撃が強烈で意識を失いそうになった。そのまま、俺は意識と身体を投げ出して──
「──あれ?」
床に待機していた稜に抱きかかえられても、俺の意識は失われない。
それだけではなく、川の字に寝かされていた智恵や健吾・『剣聖』までもが目を覚ましたのだった。
「──倒……した?」
智恵が頭を抑えながら、状況を飲み込もうと頑張っているのが見える。俺は稜にお礼を言った後に、すぐに智恵に駆け寄った。
「あぁ、『羅刹女』の首は俺が取った」
「そっか、やっぱり栄に最後を託してよかった。私だったら失敗してたかも」
だなんて、智恵は可愛く笑いながら俺に体を預けた。
と、俺達が2人だけの空間に入るよりも先に『羅刹女』の最期を見届けるべきだろう。
──白金に輝く鱗が、静かに霧消していく。
虚ろな色をした巨大な瞳が、ゆっくりとこちらを見ているようだった。
もう俺達にテレパシーは届かない。『羅刹女』は、野望に呑まれて死んでいく。
俺達は、間違いなくドラコル王国を救った。
──王国戦争、閉幕。





