王国戦争 その⑯
『勇者の大盾』山田稜と奥田美緒による必死の防戦は、『羅刹女』を焦らせるには充分な時間繰り広げられた。
──稜が盾で『羅刹女』の攻撃を必死に受け止め、美緒が弓矢で茶々を入れるに攻撃をする。
『こんなに耐えてくるとは思いもしませんでした……』
誰に向けた言葉でもない独り言を、『羅刹女』はテレパシーによって垂れ流す。
きっと、彼女の中で第二形態──龍状態になりさえすれば、簡単に勇者一行を蹴散らすことができると踏んでいたのだろう。
実際、最初の一撃で勇者一行の約半分を跳ね飛ばして、致命傷を負わせていた。
「──俺達は何度だって立ち上がってやる。お前が負けを認めるまでな」
『そうですか。では、アナタ達が立ち上がれなくなるまで蹂躙するまでです』
そんなテレパシーを稜と美緒の2人が受信すると同時、『羅刹女』の動きが止まる。
「──また、風だ」
『羅刹女』が龍状態になり最初に使用した羽ばたき攻撃。空中にいれば否応なしに動きを封じられ、地上にいても体が浮いてしまう。実際、応龍が使用した時は皇斗を除く全員が吹き飛ばされてしまったし、あの皇斗でさえ一歩も動けていなかった。
幸いなことに、『羅刹女』は応龍よりも一回り以上小さいので、彼女の翼が羽ばたいて体を持ち上げられることはない。稜でもギリギリ耐えられるほどだった。
「──耐えられるけど、こっちは動けないし弓矢は通じないしキツいんだよな……」
『羅刹女』の羽ばたきに堪えられているのは、大盾の底を地面につけて耐えているから──という理由もある。だから、羽ばたいている中で稜からのアクションをすることができない。
稜が嘆いていると、『羅刹女』は羽ばたくことを始める。バサバサと強烈な風を巻き起こしながら、城内都市パットゥの上空を飛んでいた。
そして、稜は気が付く。
『羅刹女』は、羽ばたくだけではなく稜の方へと迫っていることに。
『その大盾があって初めて羽ばたきを耐えれるのだとするのなら、その盾を破壊してしまえばいいだけの話』
『羅刹女』のテレパシーは、風の吹き荒れる轟音が稜の体を突き抜けていく中でも明確に聴こえてくる。
そして、稜が大盾越しに見たのは自分の方へと急降下してくる『羅刹女』の姿。
「動けないッ!このままじゃ──」
──死ぬ。
そう思った、その時だった。
「よく耐えた、リョウ!」
聴き慣れたそんな声が風の間を縫って聴こえて来て、稜のことを救出する。その直後、残された大盾と『羅刹女』が衝突して、大盾が粉砕される。
間一髪、稜を救出したのは『死に損ないの6人』に数えられるドラコル王国最強の一角──『剣聖』マルクス・シュライデン。
「やっぱ、龍の羽ばたきはスゴいね。かなり遠くまで吹き飛ばされちゃったよ」
勇者一行の剣士3人は致命傷を負う程のものだった攻撃を、『剣聖』は「スゴい」の一言でまとめている。
稜は、そのタフさが信じられなかった。
「──でもね、ここからは僕達の番だよ。『羅刹女』にも色々野望や野心があるのかもしれないけどね、僕は君を倒さなければならない」
『剣聖』は、鞘に納められた剣の柄を握りながら鋭い双眸で『羅刹女』を見る。
『残念ですが、アナタ達の番などと言うものは存在していません。ワタクシの望む世界を創る。アナタ達は、そのための最初の障壁に過ぎませんから楽に乗り越えさせていただきます』
王国戦争の首謀である3人の内、2人を失っている現状が「楽に乗り越える」の範囲に含まれるのかはわからない。だが、その口調から考えるにプラム姫はどこかで2人のことを見くびるつもりだったのかもしれない。
「そうかい。じゃあ、頑張ってくれよ。まだ僕達の作戦は何一つ潰えていないんだからね」
『剣聖』がそう口にすると同時、四方から立ち上がってくるのは先程『羅刹女』の羽ばたきで吹き飛ばされた勇者一行の3人──栄と智恵と健吾であった。
魔法使い3人組が回復魔法をかけたことで、致命傷を負った3人をなんとか救出することに成功する。
Sランクの回復魔法をふんだんに使ったため、もう3人にほとんど魔力は残っていないだろう。
だが、魔力に変えてでも守りたい命だった。後悔はない。
「──同じ轍は踏まない。オレだって馬鹿じゃないからな」
健吾はそう口にして剣を引き抜く。それに乗じて、智恵と栄の2人も剣を引き抜いた。
美緒の弓矢より、『剣聖』達の持つ剣の方が直接的に攻撃を加えやすいのは事実だ。だから『剣聖』は剣を中心に作戦を練ったし、『羅刹女』も剣士を吹き飛ばして勝ちを確信した。
だが、状況は戦闘開始時と大差ないところに戻ってしまった。稜と美緒の必死の時間稼ぎは功を奏したのだ。
『面倒なのは『剣聖』くらいでしょうか……。ならば、『剣聖』を真っ先に倒すべきですね』
『羅刹女』が冷静にそう分析する中で、『剣聖』は動き出す。彼は、鞘に納められた剣を抜き『羅刹女』の方へと駆け抜ける。
そして、大きく地面を踏み込んで『羅刹女』の首へと迫り──
「──〈剣の王〉」
『剣聖』に代々伝わる最強の必殺技──〈剣の王〉を『羅刹女』の首目掛けて放つ。
『──ッ!』
使用者が失神する程強力なその技は、『羅刹女』の首に裂傷を入れる。が──
『──残念でした。ワタクシの首は完全に切断されなければ、死ぬようなことはございません』
『羅刹女』の首には『剣聖』の付けた傷跡が残る。しかし、それで『羅刹女』が死ぬようなことはなかった。
『剣聖』は失神して地面の方へと墜ちていく。しばらくは『剣聖』が動くことはないだろう。
これで、後は蹴散らすのが比較的楽な勇者一行だけが残って──。
「──〈剣の王〉」
刹那、『羅刹女』の首を襲ったのは『剣聖』しか使えないはずの必殺技の2発目。
『羅刹女』は首に激痛が走る中で、2発目の〈剣の王〉が放たれた方向を横目で見る。
──そこにいたのは、本来〈剣の王〉を放つ権利を持っていない少年、安倍健吾の姿であった。





