王国戦争 その⑬
最初に神が愛したものは、大地そのものだった。
神が愛し、神に愛された大地には、虚から形が生まれて命が芽吹き、深淵という残滓を施した。
最初に神が哀したものは、深淵そのものだった。
神が哀し、神に哀された深淵には、その涙が溢れて、大海となった。
大地の深淵を創った神は、その疲れか睡りこけた。
眠るために、暗黒を膿んだ。それは、夜と呼ばれることになった。
夜が終わりを告げて、昼になると神は目を覚ましになった。
その際に、神がお伸びになったためにそびえ立った昼を割って、頂天を掻き出した。
それによって、大地と深淵と頂天の3つに世界は別れた。
神は、大地を見てこう言いなさった、「満目荒涼なり」と。
大地は、その宣託を耳にすると大地という命の上に、更なる命を芽吹かせて、生を授けたので、大地には多くの草や木、果樹が植生するようになった。
次に神は、深淵を見てこう言いなさった、「深山幽谷なり」と。
深淵は、その宣託を耳にすると大海という涙の上に、多くの命を芽吹かせて、生を授けたので、大地には多くの未発達の生物が生息するようになった。
続いて神は、頂天を見てこう言いなさった、「暗澹冥濛なり」と。
頂天は、その宣託を耳にすると漆黒が広がっていた膿んだ絶望の夜に、瞬く希望を散りばめて、神の睡りを邪魔しないように光らせた。
神は満足すると、その日も睡りについて、昼になって目を覚ましになった。
神は、大地に更なる生を授けた。
それにより、森羅万象が跳梁跋扈し、ある物は大海へ、ある物は頂天へと移動して、多くの生物が神の住む世界を生きることになった。
神は自らの眷属である龍種を生み出した。
多種多様な姿をしている8柱の龍種を眷属として、森羅万象が跳梁跋扈する世界の再統一を行った。
そして、森羅万象が落ち着いたその日に神と同じ姿をしている人間を創造した。
創り出された人間は、神を祝福して崇拝して愛したので、神も人間のことを祝福して崇拝して愛した。
神は、愛した人間への祝福として「魔法」という権能を与えて、人間の頂点に登りつめた人物にのみ、龍種の管理を任せた。
神は、大地と大海、頂天の管理を人間に任せると、そのまま自身は睡りについた。
これが神の天地創造の由来である。
──これは、いつかの『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンスの口から勇者一行に語られたドラコル神話の創世記──1章全25節だ。
ドラコル教に伝わるこの神話に間違いはなく、聖書の冒頭には必ずこの物語が載っている。
ここに書かれている内容は、半分以上が正解であるがある一点だけ不正確である。
それは、『羅刹女』と呼ばれる龍が出てこないことだ。神自身が『羅刹女』の正体を隠匿し、正体を知ったものは死ぬ──そんな運命を約束したのから神話には『羅刹女』の二つ名を冠する龍は出てこない。
では、どうして神は『羅刹女』という存在を隠そうとしたのか。
それは、『羅刹女』は、人間よりも早くこの世に存在して龍種とは違った神にとっても都合の悪い立ち位置であったからだ。
そう、『羅刹女』に与えられた役割は「神の子供」である。
出産──人間が新たな生命を生み出すときの行為はそう呼ばれているが、神は「出産」はしない。
その代替する行為として「創造」をしていた。聖書からも読み取れるように「深淵」や「大海」などを「創造」した神は、実の子供が欲しくなった。
だから、神は直接的に自分の息子となる存在を「創造」し、『羅刹女』という二つ名を共に与えたのだ。
先に龍種を作ったため、最初『羅刹女』は龍の姿であったが、人間を創ってからはそちらの姿を与えた。
そのため、『羅刹女』は人の姿を獲得し普段はその姿で生活していた。
──と、ここで『羅刹女』の話に戻ろう。
『羅刹女』──即ち、プラム姫は何千年も前からドラコル王国を生きていたのか。答えは、否だ。
厳密に答えるならば、『羅刹女』は生きているがプラム姫は生きていない。
先に原理を説明しておくと、現在プラム姫の肉体に入っているのはプラム姫の魂ではない。
現在、プラム姫の肉体には『羅刹女』の魂が入っている。
当代『総主教』が、次期『総主教』に自らの血を吞ませることで『総主教』の座を譲ったように、『羅刹女』は次の器に自らの血を呑ませることで肉体を乗っ取り乗り換えて、悠久の時を生きていた。
──そんな『羅刹女』は現在、プラム姫の肉体が崩壊して原初の龍の姿に戻されている。
そのため、『羅刹女』にとってももう後がない状況だった。
これから始まるのは、正真正銘の王国戦争最終決戦。
勇者一行と『剣聖』がタッグを組んで、『羅刹女』と勝負を行う。
──神の見た未来ではこの戦場に勇者一行の味方として『無敗列伝』がおり、僅差で勇者一行側が勝利したが、もう『無敗列伝』は死亡した。
『無敗列伝』の死が理由で、この戦闘の運命は変わってしまうのだろうか──。
9人と1頭の戦いは、佳境に突入する。
王国戦争の勝者になるのは、一体どちらだろうか──。





