王国戦争 その⑭
『羅刹女』第二形態。
白金の鱗をその体に纏わすおの巨龍こそが、『羅刹女』の真の姿であった。
「応龍と言い、『古龍の王』と言い、結構龍は多いな……」
俺と一緒に『剣聖』に救われた健吾が、目を細めてそんなことを口にする。
今、下層で暴れている『古龍の王』も咆哮から龍であることは間違いなさそうだ。全部のボスを1人で倒すとするのであれば、これで龍との戦いは3回目。
「──俺達にできるのか?」
俺は、自信の無さを理由にそう自問する。
異世界に来て経験を積んでいたならもう少し自信があったかもしれないが、俺は全ての時間を檻の中でプラム姫と一緒に過ごした。
プラム姫──『羅刹女』と一緒にいたのだから、彼女の弱点を一つくらい見つけておくべきだったのかもしれないが、まさかプラム姫が敵になるなんて思っていなかったのでそんな粗探しはしていない。
「『羅刹女』の正体も龍だったか。成程、成程ねぇ……」
緊張が走る戦場で、一人楽しそうにその瞳を輝かせているのは『剣聖』。
猛者と戦うことを生きがいにしている彼は、目の前の龍を討伐する方法を考えているのだろう。
「『剣聖』、『羅刹女』を倒す方法はあるの?」
梨央にそう問われ、『剣聖』は自分の顎を撫でながらこう答える。
「うーん、あるかないかで言われたらありはする──が答え方」
「ありはするって……」
「自爆だよ、自爆。ここにいる全員が死ぬのを覚悟で、『羅刹女』を殺す。それが一番簡単だ」
平然とそう口にする『剣聖』に、俺達は言葉を失う。『羅刹女』は、まだ龍の体が完全に順応しているわけではないのか動き出す様子はない。作戦会議は今のうちにしておきたいが、自爆は嫌だ。
俺──俺達には、ドラコル王国を守るために死ねるほどの忠誠心はない。
そんなことを考えていると──
「でも、君達は自爆なんか選ばないだろう?そんな選択肢を取るような集団だったら、龍種なんか討伐できてないと思うからね」
「じゃあ……」
「でも、自爆以外にも勝つ方法──正確には、勝てるかもしれない方法が一つだけある。でも、それは成功する確率が低いし、そもそも実行できるかすらわからない。しかも、失敗したら倒すことができずに全滅だ」
『剣聖』は秘策があることを教えてくれる。
「では、それで行きましょう。成功すれば、誰も欠けずに勝てるんでしょう?」
俺が『剣聖』にそう告げると、『剣聖』はニッと強い笑みを浮かべる。そして、「そうだね。君達ならそう言うと思ったよ」などと口にして俺達8人に作戦を教えてくれた。
「──そんなことできるんですか?」
「できる──と、思う。僕もやったことがないからわかるけどね」
『剣聖』が提案してくれたのは、『剣聖』である彼だからこそ思いつき彼であるからこそ実行できそうな内容だった。正直言ってクレイジーだし、このゲームの二つ名制度を濫用しているような気もする。
「僕はね、君達勇者の持つ可能性と異常性に賭けているんだよ」
『剣聖』はそう口にするとストレッチのような動きをして『羅刹女』に対抗する準備を始めた。
この作戦の最初の一撃は『剣聖』でなければならない。お手本と船頭は、彼に任せる算段だった。
「──じゃあ、行こう」
「「あぁ!」」
「うん!」
そう口にすると同時、『羅刹女』の方へと動き出すのは俺と『剣聖』と智恵、そして健吾。
剣を握る俺達4人が、今回の主力だった。
「とりあえず小手調べだ。道を頼む!」
「──〈万国全土遠望橋〉!」
『剣聖』の指示と同時に、純介が魔法を使用して土の道ができる。
「──美沙と同じだ」
健吾のそんな独り言を耳にする。特に返事をすることもなかったので、俺はその独り言を聞き流した。
「ありがとう、純介!」
宙を翔ぶ『羅刹女』に続く道を創った純介に感謝の意を示すのは『剣聖』だ。
道ができると、魔法使い班が魔法を使って攻撃することは厳しくなるけれども、その代わり剣を持つ俺達の攻撃が格段にしやすくなる。すると──
『私に勝つための作戦を練っていたようですが、全ては無駄です』
脳内に直接プラム姫の声が響き渡る。龍の姿になった彼女が喋るには、こうしてテレパシーのようなことをするしかないのだろう。
「無駄?そんなことないね。勝利の女神は、いつだってオレ達に微笑んでる──」
健吾の言葉が紡ぎ終わるより先に、俺達の乗る純介が作ってくれた足場が壊される。その長い龍の尾が、全てを破壊した。
「──マジかっ!」
俺達が足場を失くした刹那、龍の強靭な翼と爪が俺達に迫り──
「──智恵!」
俺は、咄嗟に智恵の方へと手を伸ばす。だが、その手が智恵の元に届くより先に俺達は吹き飛ばされて──
「──がはっ」
俺は部屋の壁に背中を強打する。そして、そのまま床めがけて落下して行く。
背中の感覚がない。腕が動かない。着地できない──。
そのまま、俺は自分が床に落下するぐちゃりという音をいやに客観的な視点で耳にした。
そんなことより智恵は無事だろうか。強打した背中の感覚がない今、最愛の智恵のことを心配するけれども自分の視界はぼやける一方で──。





