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王国戦争 その⑪

 

 ──悔しい。

 体を襲う激痛よりも、はらわたの煮えくり返るような怒りの方が彼女の心を支配していた。


 ──悔しい。

 痛いのも寒いのもそう辛くはない。だが、胸をキュッと締め付けるような悔しさだけが今はただ煩わしい。


 ──悔しい。

 相手の飄々とした態度にも、自分の無力さにも、今は全てに腹が立つ。


「くたばれ、劣等人種が」

 戦闘も終わり誰もいなくなった部屋で一人、仰向けに倒れている彼女は苛立ちを口にして床をこぶしで叩く。


 ──また、生き延びてしまった。

 いつだって彼女は不幸だ。何度自暴自棄になって、何度死にたいと思ったかわからない。

 本当は死にたいわけではないのにも気付いていた。だが、自分に世界を壊すだけの実力がないから自分を殺すしかなかった。

 いや、世界を壊そうと画策したことがある。自分よりも優秀な弟弟子が入ってきて、世界を壊そうとした。

 魔法を使って虐殺をした。気持ちは晴れなかった。鬱憤は溜まる一方だった。


 どうして私は死ねないのだろう。

 こんなにも死にたいのに。もう生きていたくないのに。

 勇者に負けた。師匠の仇に負けた。負けたく無い人、全員に負けた。

 世界を壊したい。なのに、満足いくまで壊せないから自分を壊すしかない。

 自分を壊せない。だって自分は弱いから。


 ──考えれば考える程に、彼女の苛立ちは増幅していく。

 彼女にとっては、もう『王の古龍』が暴れる揺れも何もかも気にならなかった。

 ただ、自分の苛立ちを反芻し続ける。失血死を待って、彼女は恨みつらみを頭の中で詠唱し続ける──はずだった。それなのに。それなのに、だ。


「このまま死ぬのも、イライラするんだよなぁ……ッ!」

 何度も何度も彼女の拳が床に衝突するから、雨垂れ石を穿つかと言わんばかりにへこんでいた。

 この世の全てに苛む彼女は、世界を壊す力が無かろうと世界を壊すことを望む。


「王国戦争なんかクソ食らえだ。私以外の人間がこの世界を壊すなんて、許せないッ!」

 彼女はそう口にして、ガバリと頭を上げる。久々に上体を起こした気がする。

 ここで意識を失っていた時間も数えると、30分は倒れていたままだっただろうか。頭が鈍く痛む。


 理由などいらない。

 今はとにかく、何かを壊したかった。彼女が心安らかに死ねるように。


「──英雄になど、私はならない」

 彼女はそう口にして、自分の魔法杖を探す。だけど、見当たらない。


「──クソ。あの野郎、私の魔法杖を持って行きやがった……」

 全てを壊すつもりだった彼女の出鼻は、魔法杖が無いことで挫かれる。

 これでは、彼女の十八番である鋼鉄魔法を披露することなどできない。


「──いや、違う。私には相棒がいる」

 彼女は念じる。魔法杖が無くても、通じることのできるはずだった。


「──〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉。全部壊そう、私と一緒に」

 彼女はそう口にして、城内都市パットゥ第五層の部屋に開いた穴から第一層に身投げする。


 ──全て壊す。

 そう願った彼女の破壊衝動と破滅願望が、『王の古龍』と勇者一行の戦闘に殴りこんできたのだった。


 ***


 地面が大きく揺れると同時、巨大な影が勇者一行を覆う。


「──〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉の完全体、か……」

 自分達を覆う影の正体──〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉を見上げるのは皇斗。

 その巨人兵は、第五層から落下してくる人影の方へと手を伸ばしそれを優しくキャッチをする。


「『親の七陰り(ワーストヒストリー)』、どうしてここに……」

 真胡が疑問を口にすると、皇斗の代わりに美玲が口を開く。


「──色々あって『古龍の王』に味方する形で参戦してるのよ」

「じゃあ、敵か。面倒だな」

「待って!ワタシ、エレーヌに託されたの!他の『親の七陰り(ワーストヒストリー)』を守るように」

「守るって言ったって、敵対してる相手をどう説得させるつもりだ?」

「それは……」

 美玲は口ごもってしまう。だけど、その悩みは杞憂だった。だって──


「〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉。『古龍の王』の動きを封じて」

 勇者一行にとって、その命令は意味の分からないものだっただろう。

 だってメイは王国戦争の首謀者側で、『古龍の王』に味方しているはずだった。


 それだというのに、〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉に『古龍の王』に動きを封じるように命じている。

 勇者一行に、メイの心境などわからない。わかっていいはずがない。


 凡人であるメイの心境を天才である勇者一行が理解していいわけがないのだ。

 彼女のどうしようもない破壊衝動と破滅願望は、誰にも理解されずに『王の古龍』に牙をむく。


 羽を捥がれた『王の古龍』は、碌な抵抗もできずに〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉に捕まれる。腹を見せて足をばたつかせながら、体に雷を纏わせてみるけれども、鋼鉄の巨兵である〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉に効果はない。


「──ざまぁ見ろ、『古龍の王』。このまま勇者に殺されろ」

『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデンは、〈鋼鉄の巨人(ギガント・インパクト)〉の肩に乗りながらそう口にする。


『古龍の王』を殺す──その、師匠にも支障の仇にも成せなかった偉業に協力できることが彼女の苛立ちの解消になるのかはわからない。

 だが、劣等人種である自分の足掻きで優生人種の『古龍の王』が死ぬのは気味がいい気がした。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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