王国戦争 その⑩
『古龍の王』──龍種が全滅し統べる者がいなくなった今は『王の古龍』と呼ぶに相応しい、その巨龍との最前線には、多くの勇者が集ってきている。
細田歌穂との一騎討ちとして始まろうとしたその戦闘は、森愛香と森宮皇斗・成瀬蓮也の介入で本格的に開始し、その戦闘の途中で西村誠・竹原美玲・結城奏汰・東堂真胡・橘川陽斗も参戦した。
『神速』討伐を果たした誠とエレーヌの想いを継承した美玲が合流し互いに助け合いながら最上層へと向かう中で、鳳凰の相手をしていた3人と合流したのでそこで回復魔法をかけてもらった。
そんなこんなで、前任が万全を期して戦えることになった時、大きく建物が揺れると同時に第一層に巨龍が姿を現したからそちらに向かったという形だ。
5人の活躍がなければ、愛香も歌穂も生きてはいない。そして、『王の古龍』の両翼を欠損させることも難しかっただろう。
勇者が揃いつつある戦闘で、瓦礫の上に立ちながら『王の古龍』と睨みを利かす皇斗がゆっくりと口を開く。
「智恵や純介など、栄と特別親しいチームCとFの7人はいないようだな。見た者はいるか?」
皇斗の言うチームCとFというのは、寮の番号だ。
「俺は奥田と一緒に『神速』を討伐した。竹原と合流した後、奥田には池本救出を急がせた」
7人の目撃情報は、それ以上出てこない。この乱戦の中で他の6人は戦死している可能性もあるが、皇斗はあえてその最悪な状況を脳内から削除する。
「きっと、7人は栄救出のために戦っているだろう。他にいないのは、康太か」
「妾が『総主教』を黙らせる時には『無敗列伝』と一緒にいた。奴も栄救出にでも動いているのではないか?」
「梨花と美沙もいないわ」
「蒼もだ」
「一応『剣聖』も」
行方不明者の名前が、『剣聖』を最後に収まる。各々がどこにいるのかは不明だが、皇斗は生きていることを信じることにした。
「──了解した。『古龍の王』を討伐するのに追加参戦できそうな人材はあまり期待でき無さそうだな。余達だけで倒すことを前提に作戦を考えよう」
皇斗はそう口にする。翼を失った『王の古龍』は、まだ皇斗の目下で痛みに耐えるように体をよじっていた。きっと、翼を捥がれるのは初めてだろう。想像を絶する痛みに襲われているはずだ。
「──え、『古龍の王』って百鬼夜行なんじゃないの?」
皇斗の視界の横で、美玲が疑問を持つ。皇斗は平然と、目の前の古傷だらけの巨龍が『古龍の王』だと断定していたが他の皆にはぽっと出の龍に映ったかもしれない。
「現在の『古龍の王』は確かに百鬼夜行だ。だが、先代──百鬼夜行がゲームの世界に来る前の『古龍の王』はきっとこの龍だったはずだ。応龍は余が討伐したし、城内都市パットゥに龍がそう何匹もいるとは考えられないからな」
『羅刹女』が龍の形態になった現在、応龍と『王の古龍』の3匹がいたことになるので皇斗の発言が危ぶまれるかもしれないが、考察自体は正解しているため気にする必要はない。
「──閑話休題、話を戻す。翼を失った今の『王の古龍』にできることは、ブレス攻撃か魔法攻撃。もしくは突進に限られてくるだろう」
「それを上手く躱して首を落とせってことだね」
翼を捥いだ際に腕を壊した奏汰は、蓮也に回復魔法をかけてもらいながらそんなことを口にする。
「そういうことだ」
「作戦じゃなくて根性論じゃない」
「じゃあ、余と同じ動きをしてくれ」
「──なんだか、根性論の方が生易しい気がしてきたなぁ」
皇斗の超人的な動きを模倣するのは、何者にもできない。
──と、そんな与太話をしていると翼を捥がれて藻掻いていた『王の古龍』が体を小さく震わせながらも動き出す。
「来るぞ、突進だ」
『王の古龍』の茶色い鱗で敷き詰められた体表に電気が纏われて行くのを見ながら、皇斗はそう口にする。彼自身は、弓矢を構えてギリギリまで引き寄せようとしているようだった。
「「──〈龍をも殺す光輝〉」」
同様のことを考えていたのか、皇斗だけでなく誠までもが弓矢を引いて同様の技を放つ。
皇斗は『王の古龍』の左目を、誠は右目を狙って矢を放つ。光速で進んでいくその弓矢であったが、眼球に当たっても弾かれてしまう。
「弾くか」
皇斗は大きく後方に飛びながら、眼球の硬さに感心する。
魔法で高圧の電流が流れているであろう現在、『王の古龍』への近接攻撃は難しい。剣でも槍でも、触れてしまえば感電死してしまうだろう。その点、茉裕の放った魔法である〈邪竜天睛〉に似ている。
魔法のモチーフは『古龍の王』だったのかもしれない。
「──仕方ない。魔法を当てて動きを止めてくれ!」
「わ、わかった!〈世界氷結の理〉!」
皇斗の指示で蓮也が氷魔法を使用して、突進する『王の古龍』の動きを止めようとする。この技は、三苗の動きを止めたことだってある蓮也の十八番だ。だから、『王の古龍』の突進も止めることができ──
「──引き剥がした、だと?」
『王の古龍』は、〈世界氷結の理〉を以てしても止まらない。このままでは、全員電車に轢かれたかのような肉片になってしまう──。
そう思ったその時、もう何度目かわからない巨大な揺れが城内都市パットゥを襲う。
そして、巨大な黒影が皇斗達に被さると同時に一人の少女が上空からゆっくりと降下してくるのだった。
その少女の名は──、





