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王国戦争 その⑨

 

「───〈森梟の(ペンタプリズム・)慧眼(プロヴィデンス)〉」

「〈破魔矢〉」

「〈意志揺るがぬ魂の鼓動(アトミックハート)〉ッ!」

 愛香・皇斗・歌穂の攻撃が『王の古龍』の巨体に次々とヒットする。

 応龍のような羽ばたく攻撃をしてこない傷だらけの巨龍は、確実に応龍よりも攻撃を当てやすかった。


 ──そもそも、『王の古龍』の体は満身創痍だった。

 きっと、『古龍の王』を欲した百鬼夜行との戦いに敗北した後に、碌な治療を受けずに地下に幽閉されたのだろう。

 痛々しい古傷となって、鱗に覆われた体に刻まれている。


「このままサンドバッグとなって倒れてくれればいいのだが……」

 皇斗は次なる矢を放つ準備をしながら、そんなことをぼやく。いつの間にか隣に現れていた蓮也が「手伝えそうなことはある?」と震える声で伝えた。


「『古龍の王』がどんな攻撃をしてくるのかわからない。だから、当意即妙に対応してくれ──と言っても、無理だな」

「よくわかってるじゃん。僕は指示待ち人間なんだから」

「余はそうは思わないがな」

「──」

「余も、蓮也が自発的に動くことを期待していない。だから、指示を出す。それに従ってくれ」

「勿論」

 皇斗は、弓矢を構えたままその場から動き出す。龍の速報に移動したのだ。


「愛香!まずは龍の翼を狙え!空へ飛ばせるな!」

「誰が妾に指示していいと言った!今から妾が翼を攻撃するのは、妾も貴様よりも速く貴様と同じことを思いついていたからだ!決して、貴様の命令に従ったわけではない!」

 愛香が本当に皇斗と同じことを考えていたかはわからない。たった一つ確かなことがあるならば、愛香が皇斗とは反対方向の翼を斬り落とすために動いたことだった。


 先の茉裕との戦いで、皇斗は空中にいる茉裕に苦戦した。

 どれだけ超人で、どれだけ偉業を成し遂げていても森宮皇斗は人間だ。

 流石の彼でも、飛ぶ鳥を落とす勢いで跳ぶことはできても、飛ぶことはできない。

 ──いや、第8ゲームに関しては茉裕と同じ原理で飛ぶことができる。ただ、それを使用しないのは飛ぶよりも飛ばない方が動きやすいから。


 付け焼き刃の一対の翼より、約18年を共に歩んだ二本の脚を彼は信じている。

「その翼を頂こう。〈龍をも殺す光輝(ドラゴン・グロウ)〉」


 翼の下に入り込んだ皇斗が『王の古龍』に向けた矢の先が煌めき、光よりも速いスピードで傷付いた翼を穿つ。

 弓の通り道となった一点に穴が開き、翼で影となった皇斗の視線に光が入ってくる。龍の咆哮が響き渡り耳が劈かれそうになる中で、皇斗は武器を弓矢から剣に変える。


「──硬さはわかった。この程度、余が簡単に切り取ってやろう」

 もう一方の翼は、愛香と歌穂の2人に任せれば問題なさそうだ。愛香は下から、歌穂は上から攻めようとしているのを皇斗は見逃していない。


「行くぞ、〈絶──ッ!」

「グルラァァァァァ」

 皇斗が強力な一閃を放とうとしたその時、『王の古龍』の巨体が地面から浮き空に逃げようとする。

 飛ばれる──いや、違う。これは──


「蓮也!2人を風魔法で翼の近くから弾き出せッ!」

 皇斗が声を荒げてそう口にする。『王の古龍』の咆哮が響き渡っている今、その声が蓮也に聴こえたかわからない。


 ──『王の古龍』も応龍も同じ龍だとするのであれば、皇斗には『王の古龍』が何をしようとしているのかの考察ができた。

 そう、羽ばたきだ。羽ばたかせ、空中に投げ出してしまえば人間は何もできない。

 そのくせ、龍側は落下死でも、魔法による攻撃でも、体当たりでも、殺し方は無限大だ。

 皇斗は、応龍を単騎で討伐する際に空中に誘われて両腕を失う程の苦戦を強いられた。もし、愛香と歌穂が空中に投げ出されたならきっと対処できずに殺されてしまうはず。


「──頼む、蓮也」

 即座に翼の陰から抜け出し、勇者一行を巻き込んで羽ばたいていこうとする『王の古龍』の範囲から抜け出し、壊れた家々の瓦礫の上に登って戦闘の様子を確認する。が──


「──マズい」

 そう判断して、皇斗は空中に飛んで風に乗じる。先程の指示は蓮也に届かなかったようだ。

 脳を突き破りそうになる声があったのだから仕方ない。皇斗は、最も信頼できる自分自身の力で空中に弾かれた2人を助けることに決めた。


 皇斗は、風に乗るまでの一瞬にも満たない時間でどちらを先に助けるかの選択をする。

 先に助けるのは愛香だ。愛香と歌穂の価値を比較して、どちらがより重要かを見極める。残酷だが必要な決断だった。だって──


「この状況、助けられるのは1人だけだ」

 同時には助けられない距離に位置している2人。『王の古龍』も、どちらか一方を確実に殺せるように考えたのだろう。流石は龍種を統べていただけの実力者だ。悔しいが、皇斗は心の中で『王の古龍』を称賛する。


 皇斗は、風魔法と土魔法を行使して羽ばたきの風に乗って空中に投げ出された愛香の方へと近付く。

 2人の真下からは、『王の古龍』が迫ってきている。皇斗は愛香に接近して、愛香の手を取り──


「──助けて」

 歌穂のか細い声が皇斗の耳に届く。

 どれだけ超人で、どれだけ偉業を成し遂げていても森宮皇斗は人間だ。

 だから、皇斗は歌穂を見捨てて──


「──その願い、引き受けたっ!」

 そう口にして、折角手に取った皇斗の身体を蹴飛ばして歌穂の方へと迫るのは愛香。


「──馬鹿野郎ッ!」

 間違いなく、愛香の行動は無茶だ。このままでは、皇斗の努力も虚しく2人共失ってしまう。

 大きく口を開けた『王の古龍』が愛香と歌穂の下から迫り、迫り、迫り──、


「──何諦めてんのよッ!〈超新星爆発(スーパーノヴァ)〉ッ!」

「そうだよ、皇斗らしくない。〈叢時雨〉」

「──ッ!」

 愛香と歌穂の2人が丸のみになるよりも先に、空中から超スピードで降ってきて『王の古龍』の両翼を吹き飛ばしたのは2人の勇者──美玲と奏汰。


 2人の登場と同時に放たれた強力な一撃と同時に『王の古龍』の両翼が消失したけれども、まだ歌穂と愛香の方へ向けて進む推進力は残っている。その時──


「──〈穿ちの矢〉」

 遥か彼方の第五層へと続く螺旋階段から、誠の放った弓矢が飛んでくる。それにより、『王の古龍』の口の位置がずれて2人は軌道から外れた。


 そのまま歌穂の手を掴んだ愛香は落下して行く。そして、駆けつけた真胡が構えた盾に衝撃が吸収されて2人は助かった。


 どれだけ超人で、どれだけ偉業を成し遂げていても森宮皇斗は人間だ。

 ──だが、皇斗は一人ではない。


「──すまなかった、皆」

 クラスメイトは守るべき存在だ。

 そんな驕った考えを、皇斗は捨てる。


 ──この時初めて、皇斗は皆と対等な仲間となったのだった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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