王国戦争 その⑧
新生活が始まり、昨日の更新は難しかったです。すみません。
昨日のような日が増えると思いますが、ご容赦ください。
呆気なく終わった弔い合戦の最前線で、死したドグマの亡骸を見下ろすのは一人の勇者──『勇剣』中村康太。
『総主教』の操るゴーレムが愛香に一瞬で破壊されたように、『総主教』に付き従っていたドグマもすぐに返り討ちにできてしまった。
『総主教』の下で働いているのは思いの外弱い人ばかりなのかもしれない──そんなことを考えるけれど、すぐに思考は『無敗列伝』の方に移る。
『無敗列伝』にこだわっているべきではないのは、康太が一番わかっていた。早く他の皆と合流しなければいけない。少しでも貢献しないといけない。そう思ってはいるけれど、康太の体は動かない。
「『無敗列伝』……」
康太の目の前で人が殺されたのは、これで2度目だ。
一度目は第四ゲームの時に死亡した睦月奈緒で、今でも忘れることはない。
奈緒が蓮也と同時に自分自身を呪っていたとしても康太は仕方ないと思っているくらいだ。
「──あの時は死を悼む時間もなかったから、今日くらいは悼ませてくれ」
そう口にして、顔から色を失った『無敗列伝』を前に座り込む康太。
──王国を救った勇者はまだ、18歳にも満たぬ子どもだった。
***
城内都市パットゥの地下牢から這い上がってくる先代『古龍の王』──龍種が全滅した今は『王の古龍』と呼ぶにふさわしいその巨龍に立ち向かうのは、勇者一行であった。
城内都市パットゥの第五層から、『高慢姫』森愛香と『森羅最強』森宮皇斗、そして『補助輪』成瀬蓮也の3人が床を突き破り空を落下しながら巨龍の方へと向かうのに対し、同じく龍討伐の動きを見せたのは『無事故無違反サイコパス』の二つ名で親しまれるノーキル伝説──細田歌穂であった。
『親の七陰り』の常識人である『失敗作』パーノルド・ステューシーと、サイコパス対決を行い毒に冒され絶体絶命の危機に立たされた彼女であったが、機転を利かせて一発逆転の勝利を掴んだ。一気に毒を注入されたことで体に毒耐性が付き、体にできた裂傷は回復用ポーションで治癒したから問題はない。
そんな一戦を終えた彼女の身を襲ったのは、メイと純介との戦闘の弊害による城内都市パットゥの第二層から第四層までの崩壊。
それに巻き込まれる形で第一層に落下した歌穂は、突如として現れた鋼鉄の巨人兵の討伐に向かうけれども、彼女が辿り着く前に一方は動かなくなり、もう一方は霧消していった。
「一体なんなのよ……」
崩壊した城内都市パットゥを見回しながらそう口にする彼女が、再度第五層に向けて歩みだそうとした時、地面が大きく揺れた。
そして、彼女は刮目する。
地面が割れて、その下に存在した巨大な空間から現れたのは茶色い鱗を持つ巨龍。
恐怖で足が竦む。
こんな巨大な龍に勝てる未来など見えてこない。
何もできずに死んでしまうかもしれない。応龍の時のように手も足も出ないかもしれない。
頭を過るのはそんな最悪の未来ばかり──
「──でも、逃げる理由にはならない!」
歌穂は背中に背負う斧を手に取り、両手で構える。
敵が強かったら逃げるのか。敵が大きかったら逃げるのか。答えは否。
「相手を選んで戦うなんて、サイコパスの名が廃るってもの!」
熱血系サイコパスである細田歌穂は、自分よりも強大な敵に立ち向かう。
──その時だった。
「空中だったから溜め技を放つだけの猶予があったな。一発で仕留めてやろうではないか」
上空から、聴き慣れた我儘姫の声が聴こえて来て、水を差された彼女は少し顔を歪める。
彼女が覚悟を決めた矢先、空から降り注ぐのは槍の猛攻──。
「〈神をも殺す橘色の真槍〉」
愛香の放つ先制攻撃が、鱗で覆われた龍の体を抉る。数々の決戦の終止符となったその大技を食らい、『王の古龍』は咆哮を上げる。
「うるさ……ッ!」
歌穂は両耳を塞ぎながら、動きを止めてそんなことを口にする。
「皇斗、黙らせろ!」
「それができるならやっている。〈空を泳ぐ鯨の啼く季節〉」
ブラック皇斗を討伐したことにより、レベルが70まで上がった皇斗はレベル70以上の人が使用可能な剣技を使用する。溜めが必要なためレベル80を超える冒険者は〈絡繰仕掛けの白銀世界〉と〈機械仕掛けの暗黒世界〉の方を使用する様になるが、皇斗はそれらを使えないから〈空を泳ぐ鯨の啼く季節〉を使用する。
〈神をも殺す橘色の真槍〉で付いた傷を拡げるように、〈空を泳ぐ鯨の啼く季節〉が繰り出されて『王の古龍』は藻掻くように苦しんだ。
そんな2人の後ろで、なんとか魔法を使って地面に着地したのは蓮也だ。きっと、龍退治のために第五層から飛び降りてきたのだろう。正直言って、一周回って馬鹿だ。
「──歌穂ではないか。この龍はお前が呼び出したのか?」
「できないわよ、そんなこと。一緒に倒すのに協力して」
「いいだろう。妾が龍を倒すことの協力を貴様にさせてやる」
「──」
『高慢姫』の我儘には敵わないな、と思いつつ歌穂は再度斧を構え直す。
愛香と皇斗の全身全霊の攻撃を食らいながらも、『王の古龍』は平然とその巨体を動かした。まだまだ、『王の古龍』を倒すにはダメージが足りない。
──『王の古龍』討伐戦線は、激動を始めたばかりであった。





