王国戦争 その⑦
『羅刹女』と『剣聖』率いる勇者一行の乱闘が更なるステージに歩みを進めるのと同刻。
同じ城内都市パットゥの第五層の中で、睨み合っているのは2人の剣士。
それぞれが胸に哀しみを宿し、各々が信じる者の遺志を継ぐために剣を握る。
──その部屋は、『無敗列伝』と『総主教』による激戦が繰り広げられた部屋だった。
神をその身に憑依させた『総主教』に対し、『無敗列伝』は互角以上の戦いをしてトドメを刺すことに成功したものの、最後の悪あがきで命を狙われた康太を庇うために死亡した。
一人取り残され、呆然と立ち尽くしていた康太のもとにやってきたのが、『総主教』に心酔して暗躍していた元勇者『双剣』のドグマであった。
『総主教』と『無敗列伝』の死体だけが残るその部屋で、『総主教』殺害の容疑を被せられた康太は、否応なしにドグマとの戦闘を強いられる。
──これは『総主教』と『無敗列伝』の弔い合戦だ。
『総主教』から『双剣』の異名を授かったドグマと、『無敗列伝』から『勇剣』の二つ名を受け取った康太。
死者が遺した名を背負った2人の戦いが、今始まる──。
「〈叕頭斬り〉ッ!」
「……クッ!」
康太の剣と、ドグマの剣が重なり金属同士が擦れる音が鳴り響く。
2本の剣と、1本の剣。当然、有利なのは前者だろう。
康太は、剣の物量に押されながらもなんとかドグマの攻撃を抑える。実力は拮抗している──そんな考えをするのは、おこがましいにも程がある。
ドグマよりも、康太の方が何倍も劣っていた。
考えてみれば当たり前だ。ドグマの方が先に召喚され、長く実力を積んできた。
『総主教』の元にいたということは、隣国ニーブル帝国との摩擦もあったことだろう。
ニーブル帝国は蛮族がや戦闘民族が蔓延っていると聞く。康太よりも多くの手練れと手合わせしたのは確実だろう。
それだけではない。
今、康太は『無敗列伝』を殺してしまったという罪悪感に打ちひしがれている。
きっと、他の所で誰かが助けていてもすぐには反応できず体を動かせない程には自我を喪失している。
『無敗列伝』など所詮はNPCだ。部外者がそう笑い飛ばすのは簡単だった。だけど、関わりを持ってしまった康太は違う。
短い時間であっても、『無敗列伝』を苦楽を共にした康太にとって『無敗列伝』は既に大切な存在に変わっていた。
だから、自分のせいで『無敗列伝』が死んでしまったという事実に耐えられないのだ。
「死ねッ!死ねッ!死ねッ!」
ドグマの怒りに任せた攻撃が、康太の方へと飛んでくる。単調なものであったから、気が乗らない康太にも回避やすいものだった。どうやら、回避を続けたことで更にドグマはイラついているようだ。然程、頭は良くないのかもしれない。
「ダァ、クソ!ちょこまかと逃げやがって!」
歯ぎしりをしながら地団駄を踏み、全身で苛立ちを表現するドグマ。取り乱しているその姿は暗殺者という彼本来の職業とは似ても似つかないものだった。それほどまでに、彼にとって『総主教』が大事な人であることが理解できる。
「逃げるに決まってるだろ。もう俺一人だけの命じゃないんだ。『無敗列伝』が救ってくれたこの命を、無駄にできるわけがない」
「だから殺してやるって言ってんだッ!理解能力のないガキがよォ!」
力いっぱいに大きく振るわれる2本の剣を、なんとか康太は回避する。
俄然体は重いけれど、彼が自分で言った通り『無敗列伝』が繋いでくれた命をみすみす投げ捨てるようなことはできないのだった。
「──〈叕頭斬り〉ッ!〈叕頭斬り〉ッ!」
康太の腕に、頬に、腿に、刃が届いて紅い傷を生む。そこからぷっくりと血が滲み、康太の気持ちを少しずつ蝕んでいく。
「『無敗列伝』と一緒にいたお前を絶対に殺すッ!お前と最初に出会った時から、俺はお前が嫌いだったッ!」
2本の剣が、康太の体に裂傷を増やしていく。致命傷になり得る攻撃は防いでいるけれど、かすり傷程度のものは次第に防ぐ余裕が無くなっている。
「無様にくたばれッ!『無敗列伝』のようになァッ!」
ドグマがそう口にしたと同時、康太の瞳が燃え盛る。『無敗列伝』の悲しみで塗れていた心が、ドグマの『無敗列伝』に対する暴言でドグマに対する殺意で塗り替えられた。
「〈叕頭──あ?」
「〈表裏一閃〉」
いつの間にか、ドグマの左の肘から先が無くなっている。ドグマは、即座に何が起こったのか理解できずに動きを止めてしまった。
──それが、敗因だ。
「『無敗列伝』は最後までカッコよかったよ。宗教に傾倒するのに口を挟もうとは思わないが、人の死にざまにケチ付けるな」
「何を!このガキ──ッ!」
「黙れ」
康太が剣を振るい、ドグマの下顎が吹き飛ぶ。ドグマの口からは、瞬く間に血があふれ出て来て、剣を構えることもできなくなる。
「あ、が……」
「俺の悲しみに水を差さないでくれ」
哀しい目をした男が、ドグマのことを見下ろす。
冷たい視線に晒されたドグマは、思わず身震いをする。彼が感じるのは、ドラコル王国に来て初めて感じる根源的な恐怖。
その目は、生き物を見る目ではない。やめろ、見るな。見るな。見るな見るな見るな見るな見るな見るな──。
「〈絶断〉」





