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王国戦争 その③

 

 ──龍の再臨。

 それは、目まぐるしく移り変わっていく城内都市パットゥの戦火を混濁させる。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」


 耳を劈く古龍の泣き声が聴こえて来て、真っ先に反応するのは城内都市パットゥの第五層でブラック皇斗を倒した後の『森羅最強』森宮皇斗だった。


「応龍──とは少し声が違うな。新たな龍が現れたのか?」

 皇斗はすぐに『古龍の王』──ただいまは、龍種が全滅した故に『王の古龍』と呼ぶのに相応しい巨竜の登場を理解する。


「貴様、応龍を倒したのではなかったのか?油断するとは、貴様も偽物だったりするのではないか?」

「だから先程の声は応龍とは違うものだと言っただろう。それに、余は霧消を見届けた。だからこれは2体目の龍の声だ」

 皇斗に回復魔法をかけてもらった愛香が叩く軽口に、皇斗は冷静に返す。


「2体目ってなると、茉裕が召喚した可能性は?」

 龍の咆哮の少し前から発生した強い揺れが収まり、蓮也も近くに駆け寄ってくる。そして、そんなことを口にした。


「茉裕が龍の召喚か……」

「貴様、いつもは呆けているくせに今日は鋭いことを言うではないか。お前も偽物か?」

「に、偽物じゃないよ!」

「たわけ、冗談に決まっている。茉裕も貴様の偽物なんて頼まれても作らないだろうよ」


 実際には、蓮也の考察は外れている。

 茉裕はもう既に死亡しているし、龍は『羅刹女』の声を聴いて地下から這い上がって来た。


「茉裕かどうかはまだ確定したわけではないが、そこに一縷の望みがあるのであれば行って見る価値はあるだろうな」

「それに関しては妾も賛成だ。さっきは龍の相手をできなかったからな。ゲームらしい相手は巨大な魚介くらいしか倒せていない。龍の一体くらい討伐して帰りたいところだ」

 愛香はそう口にして肩を回す。粉砕された腕に違和感はないようだ。


「下から声が聴こえたということは、下にいるということだろう?ならば、行こう。皇斗は来るだろう?蓮也は……来たいなら来い。失禁しないようにすることだな」

「しっ、したことないよ!」

 嘘である。


「僕も付いてくよ!」

 蓮也も付いて行く選択をしたが、これは決して龍を倒したいという高尚な考えがあるわけではない。

 ただ、皇斗と愛香のツートップと一緒に行動すべきだと考えたからだ。消極的な理由ではあるが、彼なりの援護はするつもりだろう。


「では、行くぞ」

 愛香がそう口にするのを聴いて、蓮也は出口の方へ歩いて行こうとするが──


「おい、貴様。どこに行くつもりだ?」

「どこにって……龍を倒しに行くんじゃないの?」

「よくわかっているじゃないか。では何故、どうして関係のない方向に行こうとする?」

「え、だってこの部屋はあの扉一つだけで……」

「はぁ……。呆れたないいからこっちに来い」

 愛香が呆れたような顔をしながら手をクイクイとしながら蓮也を呼び寄せる。そこは部屋のほぼ中心、移動するのに最適なドアや窓はどこにもないのだが──


「──〈夜を泳ぐ(エレクトロニ)回転木馬(カ・パレード)〉」

 蓮也が愛香と皇斗に近付いて来ると同時、愛香は地面に円を描くようにして斬る。


「ま、まさか……」


 そのまさかだ。蓮也の嫌な想像が当たる。第五層の床が切れ、半壊した城内都市パットゥの第一層へ向けて3人は落下する。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 蓮也の叫び声が城内都市パットゥ中に響き渡るが、2人をそれを無視する。

 その広大な空間に見えたのは、第一層の地面を突き破って這い上がって来た巨龍の姿だった。

 先人による古傷が残っているその巨龍だが、龍としての威厳は失っていない。体を覆う茶色の鱗がキラキラと輝いており、緋色の瞳は落下する3人のことをしっかりと捉えていた。


「茉裕の姿はないな。先程のように逃げ延びたか」

「まぁ、いい。妾があの龍を倒してやろうではないか!」

 愛香は手に持った槍を使用して、高らかに笑みを浮かべる。そして、愛香はこう宣言する。


「歴史は紡がれたッ!」


 ──これが、『羅刹女』と戦う勇者を除いた勇者11人と先代『古龍の王』の戦闘の幕開けであった。


 ***


 崩壊する城内都市パットゥの第五層の中、一つの影が動く。

 その男の目的地はただ一つ、自分の主人を守ること。


 智恵達と同じ、地球からやってきた昔の勇者──という設定である彼は、異世界に来て「ドグマ」と名乗った後に、『総主教』の軍門に降り彼女の元で働いてきた。


 異世界に来て孤独だった彼の心の拠り所となってくれたのは、間違いなくドラコル教だ。

 日本にいた頃は宗教など信じていなかったし、どちらかと言えば冷笑していた立場なのだけれど、ドラコル王国に来てドラコル教と出会ってからは立場が変わった。だから、だから──


『総主教』がいるはずの巨大な扉を開く。

 煌びやかな灯に包まれるこの部屋に転がっているのは、2つの死体。

『無敗列伝』のものと──


「──『総主教』……様ッ!」

 美しい表情で事切れている『総主教』が、そこには倒れていた。ドグマには、その部屋にいる一人の勇者のことなど目に入らない。『総主教』に駆け寄り、その死を嘆く。


「──お前は」

 一方で、その部屋にいた勇者はドグマに声をかける。だから、ドグマは問う。


「お前が殺したのかッ!」

「──は」

「お前が『総主教』様を殺したのかッ!」

 その勇者は、困ったように目を泳がせている。そして──


「──殺すッ!殺す殺す殺すッ!敵も味方も関係ねェ、全員ぶち殺してやるッ!冒涜者には制裁を!冒涜者には、制裁をッ!」


 元勇者にして、今はドラコル教の暗殺者(ヒットマン)。『双剣』の二つ名で知られるドグマは、腰の鞘から双剣を取り出した。



 ──王国戦争最後のタイマンは、『総主教』と『無敗列伝』の弔い合戦に選ばれる。

 ──ドグマvs中村康太。その一戦が、他2つの戦闘とほぼ同刻に始まろうとしていた。

ドグマ、覚えている人0人説。

633話の「Dracol Genesis その⑤」が初登場の哀しき男です。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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