王国戦争 その②
一対の扇を振るい、俺達が逃げ道を消すと同時に敵意を露にするのは、プラム姫。
『羅刹女』の二つ名は、俺も皆の動向を追っていたから知っていた。
「『羅刹女』って、『剣聖』が言ってた……」
俺だけではなく、梨央も『羅刹女』のことを知っていた。周囲の反応を見れば、皆も知っていることが察せられる。
「『死に損ないの6人』の最後の一人、か……」
「まさかプラム姫がその正体だったなんて」
「オレ達は栄目的でここまで来たからそこまでダメージはないけど、プラム姫を助けようとここまで来た人は絶望だろうな」
各々が思い思いのことを口にする。勿論、疲労に塗れながらも武器を握る手を緩めることはしない。
「──私は、助けを乞った覚えは一度もありません。もし仮に私を助けることが目的でここに来たとしても、おせっかいなだけです」
片方の扇で口を隠しながらそんなことを語るプラム姫は傲慢のように思える。
だが、そう言い切ってでも成し遂げたいことがあるのだろう。『古龍の王』と『神速』を率いて王国戦争を行ったことはドラコル王国に対する反逆だが、人生を棒に振るってでも何かを変えたかったのだろう。
そうでなければ、百鬼夜行が死んでも尚敵対する理由がない。
目の前にいるのは『古龍の王』を殺した勇者だ。疲労しているとはいえ、人数を考えても不利なのは間違いないだろう。もしかしたら、ここまで勇者が多いことはゲーム版とは違って、本来であればゲームのPCとタイマンになっているのかもしれない。
──いや、プラム姫の行動の理由を深く考察している時間はない。
プラム姫を倒すに集中しなければいけないだろう。
「──でも、どうしよう。プラム姫と戦うにしても、今の俺は足手まといだ」
今の状態で戦場を逃げ回るくらいなら、檻の中にいた方が迷惑をかけなかったのではないだろうか。
「栄。これ使えよ」
横から光る刃が俺の前に伸びて来て、武器が手渡される。稜が、剣を渡してくれた。
「でも、これ……」
「大丈夫、俺の本職は盾なんだ。少しでも攻撃できるように剣を買ってみたけど、盾の方が俺の性にあってる。だから、使ってくれ」
「──わかった。上手く使えるかどうかはわからないけど、頑張ってみるよ」
俺はまだレベル1だ。だから、稜が使えるような技さえ俺には使えない。
それどころか、ちゃんと剣が増えるかさえわからない。
──だけど、やるしかない。
プラム姫を倒さないと第8ゲームが終わらないと言うのなら、俺達でプラム姫が倒すしかない。
俺は稜から剣を受け取り、それをプラム姫の方に握る。そして──
「プラム姫、アナタが王国戦争の首謀者だなんて気付きもしませんでした。随分と嘘が上手なようですね。牢屋の中で捕まっていた時に良くしてもらったのは感謝します。ですが、俺に──俺の友達に敵対するというのなら、俺はアナタと敵対します」
「サカエさん、アナタが無垢なだけですよ。そして、敵対していただいて構いません。私は最初からそのつもりでしたから。それに、アナタといういつ裏切るかもわからない爆弾を抱えて王国戦争を続けたいとは思えないので」
俺とプラム姫は、相互に突き放した。これで、俺達が和解できる道は無くなった。
だから、俺にも心残りはない。目標は、皆とあの学校に帰ること。だから、プラム姫には死んでもらう。
「──それでは早速、遊戯を開始しましょう。と言いたいところですが、私にはまだやるべきことがあるのです」
口を右の扇で隠したままそう口にするプラム姫は、左の扇を天高く掲げてそれを大きく下に振るう。そして──
「いつまで寝ているつもりですか?アナタの野心はその程度だったのですか?心底失望しました」
プラム姫が何かにそう語りかけると、大きく俺達のいる城内都市パットゥが揺れる。既に半壊した城内都市パットゥが倒壊すると錯覚してしまう。
「何を──ッ!」
稜が揺れに耐えながらプラム姫の策謀を明かそうとするのとほぼ同時、下層から聴こえてくるのは動物の巨大な鳴き声。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
その鳴き声は、王国戦争が開幕した時に聴こえた応龍の鳴き声と同様のものだった。
「まさか、応龍が来る!?」
「応龍ではございません。ヤコウになる前の『古龍の王』──先代の『古龍の王』です。龍種が絶滅している現在『古龍の王』はおかしいですから、『王の古龍』と呼んでもいいかもしれませんね」
下層の様子は確認できていないが、地下牢に封印されていたとされる『古龍の王』──百鬼夜行がいなかった場合のラスボスが復活してしまったらしい。
「とりあえず、目の前のプラム姫を倒すことに注力しよう。先代の『古龍の王』のことは、皇斗や愛香に任せれば大丈夫だ」
俺はそう言い切る。あの2人なら、きっと龍をも討ってくれるはずだ。
「──サカエさんはやはり、お仲間を信頼されているようですね」
「当たり前だ。アナタごときに俺達の信頼関係を壊すことはできない」
「──そうですか。サカエさん、私はアナタを最初に殺すことにします」
そう口にすると同時、プラム姫が動き出す。
プラム姫の軽い体は、一瞬にして俺との距離を詰め、俺の首に扇が迫り──
「──させないっ!」
間に入った智恵が、プラム姫の扇を剣で止める。
「智恵!」
「栄、勝とう!」
智恵のその言葉に、俺は大きく頷く。
そう、俺は勝たなければならない。俺を救ってくれた皆のためにも、生きて帰らなければならない。
智恵と幸せな毎日を過ごす。そのためなら俺は、なんだってできる気がした。





