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RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜 その⑧

 

 その場の誰もが限界だった。

 ある者は魔力不足が理由の頭痛で体の芯が揺れていたし、ある者は治ったとはいえど攻撃された傷の痛みが今も尚叫び続けていた。ある者は震える手の中で弓を放つし、ある者は限界を超えて最前線に駆けつけて剣を振るった。そして、ある者は自分を蝕み続ける炎に身を焦がされながら、7人の勇者一行を相手にし続けた。


 最初に限界を迎えたのが、『古龍の王』──鼬ヶ丘(いたちがおか)百鬼夜行(ひゃっきやこう)だった。ただ、それだけのことだ。もし何か一つが違えば勇者一行の誰かが先に倒れていたかもしれないし、百鬼夜行が限界に達することもなかったかもしれない。


 ──そんなギリギリの戦場について、後のドラコル王国の歴史学者は様々な理由を付けて『古龍の王』の敗北を語ろうとする。

 ある学者は「『古龍の王』と『魔帝』の配置を間違えた」と主張し、また、ある知識人は「勇者一行の力が魔獣の森を通ったことで底上げされているのに気付かず、『古龍の王』は慢心していた」と批判するのだ。

 百鬼夜行の名誉のために実態を話しておくなら、前者は半分不正解で後者は完全に不正解である。


 百鬼夜行の敗因は、小さな軋轢が大量に積もったために起こった事故のようなものだ。

 そのため微小だが無数にあるのだけれど、その最も大きな敗因の一つを紹介するなら「第8ゲームが百鬼夜行にとって利益が薄かった」ことだろう。


 そもそも第8ゲームは、現実世界で戦闘力を持たない茉裕が勝ちやすくなるために作られたゲームだった。その一方で、元から強い百鬼夜行は強化されたとはいえその効能は薄い。魔法と上限のある再生能力を付与されただけで、その他は現実世界でも実行できそうなことばかりだった。

 だって、百鬼夜行は小枝一本で人を殺すことが可能だ。小枝が剣に強化されようと、小枝の時点で最強であればほとんど意味はない。


 百鬼夜行の強化が薄かった一方で、勇者一行こと第5回デスゲーム参加者の多くは大幅に強化された。

 戦い方を知らなかったものは剣の振り方を覚え、運動神経に自信が無くても魔法を使えば強力な協力者となれる。皇斗のような最強は、手数を増やした。

 もちろん、理由はこれだけではない。前述したように、小さな小さな欠点が一つずつ少しずつ溜まり続けて百鬼夜行は敗北の方に舵を切った。


 だが、それは決して百鬼夜行が弱かったことの証明にはならない。

 百鬼夜行は強かったが、勇者一行はそれ以上に強かった。ただ、それだけのことだ。


 ***


 檻の上から見る戦闘は、心臓に悪い以外の何物でもなかった。

 途中で智恵が串刺しにされた時には俺が死んででも百鬼夜行を殺すこと心に決めたが、紬による献身的な回復魔法と皆の奮戦によって誰一人欠けることなく百鬼夜行の討伐に成功した。


 メラメラと燃える炎に巻き込まれ、消滅する様に彼は死亡する。

 彼は現実を生きる人間だから霧消しないはずなのだけど、『古龍の王』という設定が優先されたのかもしれない。

 それはわからないけど、彼の死が確認できた途端俺とプラム姫の入っている檻の底面がガバリと開いて落下していく。


「うわああああああ!!」

 まさか、こんな暴力的な解決方法だとは思いもしなかったので俺は手足をバタバタと藻搔くようにしながら落下して行く。


 ──このままでは、皆が命を賭けて俺を救おうとしてくれたのに、俺が落下死してしまう。

 そんなのは絶対に嫌だ。どうにかして受け身を取らないと──


「栄!」

 俺が落下死を免れたのは、百鬼夜行を討伐した後の智恵が剣を投げ出して即座に駆けつけてくれたからだった。

 俺は、智恵にお姫様抱っこされるような形で受け止められる。そのまま、智恵は俺を力強く抱きしめた。


「智恵、ごめん──いや、ありがとう。心配かけたな」

「栄、ありがとう──いや、ごめんね。遅れちゃった」

 智恵の体温が全身から伝わってくる。智恵の心音が全身から伝わってくる。俺はあの冷たい檻から抜け出すことができたんだ。


「ありがとう。本当にありがとう」

 俺は智恵のことを抱きしめながらついそんなことを口にしてしまう。心の底から出てきた、感謝の言葉だ。

 王国戦争での戦いは見れていないけれど、この城に辿り着くまでに智恵は壮絶な冒険をしてきた。

 いや、智恵だけじゃない。クラスメイト全員が、だ。俺を助けるために、ここまでやってきてくれたのだ。


「栄。私ね、たくさん冒険したんだ。私、茉裕に勝ったんだよ」

「──本当!?」

 生徒会メンバーの茉裕に勝った──智恵がそう口にしたから、俺は思わず驚いてしまう。


 抱きしめていた智恵から自分の体を少し遠ざけて智恵の顔を見ると、彼女は自信ありげな満面の笑みを見せてくれる。智恵は嘘をつかない。ついに、俺達は茉裕を倒すことができたんだ。


「よくやった、智恵。最高だ、最高だよ」

 俺は智恵の頭を撫でて、もう一度強く抱きしめる。智恵の体は温かい。


 百鬼夜行と茉裕を倒した。判明している生徒会の脅威は全て過ぎ去った。

 まだ、生徒会は最低2人存在しているけれど今日くらいは茉裕を倒した余韻に浸っていいはずだ。



 ──第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』 クリア。

栄が百鬼夜行に誘拐されたのが2024年11月8日投稿の586話。

そして、2人が再会できたのが2026年の3月24日投稿の813話。

1年半弱、227話ぶりに会えてよかったね。


ここからはゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』の『古龍の王』討伐後のお話を少しだけさせてもらいます。遠足は帰るまでが遠足ですから、ご容赦ください。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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