斧×斧 その②
城内都市パットゥの一室にて、睨み合いを続けているのは2人の斧使い。
煽り合いでも化かし合いでも勝ち目が無いと判断している『暴若武人』タビオスは、『十戒破り』蒼を前に、ただ無言で斧を構える。
蒼が言葉を放てばタビオスの冷静さを的確に欠き、蒼が不審な動きを取ればタビオスの怒りが増幅する。
挑発の天才である蒼に対して慢性的な苛立ちと潜在的な苦手意識を持つタビオスは、本能的に斧と斧で語り合うことを選択していた。
──最良は、喋る暇も与えない程の猛攻と連撃。
本来、斧では難しいとされているそれらを蒼相手に行う。
「──やってやるよ、〈大切断〉!」
先程と同じ技を蒼に対して使用するタビオス。
蒼はそれを見て、ウサギのようなジャンプ力で軽々と後ろへ飛んでタビオスの振り降ろし攻撃を回避する。
そして、すぐにタビオスの方へと戻ってきて一撃を与えんと斧を横に振るう。
「〈上草薙ぎ〉!」
蒼が振るう斧は、タビオスの木の幹のように太い首の方へと吸い込まれるように地面と水平に移動していく。
「させっか、〈登竜斧〉」
「──ッ!」
床に突き刺さった斧が、無理矢理引っこ抜かれて蒼の斧の側面に衝突する。
そのまま、タビオスの振り上げに巻き込まれるように蒼の斧は攻撃の焦点をずらして空中で止まる。
「──流石だピョン、僕と同じ技が使えるなんて」
「あぁ?たかがレベル53くらいで調子に乗ってんじゃねぇよ。俺様はお前よりレベルが高い56だ」
「3しか違わないピョン」
「馬鹿め。その3の差が、お前と俺様を分けるんだよ。〈天地鳴動〉!」
それと同時に、タビオスは斧の柄を地面に断続的に叩きつけて振動を生む。
その振動によって足元がもつれ、蒼はその場から動けなくなる。
「──レベルが上がってすることが足止めだピョンか?体の割にやってることが小さいピョン。あ、脳みそがちっちゃいから仕方ないかぁ」
身動きが取れなくなっても、お得意の口はよく回る。銭ゴマが裸足で逃げるようなその舌捌きに、タビオスはそれほどの不快感を見せることもなく再度斧を振るう。
「〈大切断〉ッ!」
その場から進むことも退くこともできない蒼に対して、容赦のない一閃。
上から降り注ぐ回避不能の一撃だったが、蒼も何もしないで死ぬほどの馬鹿ではない。だって彼はウサギ。脱兎のごとく逃げるのが得意分野だ。
「──〈震撼核〉ッ!」
そう口にして、蒼は地面に斧を叩きつけるようにして振るう。
──そう、蒼は自分の使える地面に振動を起こす技で、〈天地鳴動〉の振動を相殺しようとしたのだ。
〈天地鳴動〉の効果さえ切れてしまえば、蒼はその逃げ足でタビオスの〈大切断〉から逃げることができる。
〈震撼核〉が見事放たれ、〈天地鳴動〉の振動と相殺──いや、それどころか〈天地鳴動〉以上の振動を発する。
──が、その時だった。
「──ピョン!?」
蒼の視界が傾くと同時、彼の立っている地面が崩れる。
「馬鹿め。〈天地鳴動〉と〈震撼核〉の違いも知らねぇとはよ」
第三層へと落ちていく蒼の首を狙って、タビオスも蒼を追って穴に落ちていく。
──ここで、〈震撼核〉と〈天地鳴動〉の違いを少し話すことにしよう。
〈震撼核〉は、地面に斧を力強く叩きつけて振動を起こし、相手の動きを止める技だ。
そして、〈天地鳴動〉は地面に斧の柄を断続的に叩きつけて振動を起こし、相手の動きを止める技だ。
振動を起こし、相手の動きを止めるという点では一緒だが、前者は斧の刃を後者は斧の柄を叩きつけるという点が違いを生んでいる。
その叩きつける場所の違いが、どんな差異を生んでいるのか──その答えとしては、〈震撼核〉はどんな場所でも同じ力で振動を生みだすので振動の進み具合などに差がでるが、〈天地鳴動〉は小刻みかつ断続的に叩きつけることで、自分の望む通りの振動を生みだすことができる点だ。
だから、〈天地鳴動〉を使ったタビオスは城内都市パットゥの床を壊すことなく蒼の動きを止めたし、逆に〈震撼核〉を使った蒼は勢い余って床に穴を開けて落下してしまった。
その職人技とも言えるような精巧さが理由で、〈天地鳴動〉を使えるのはレベル55からになっている。
蒼のレベルは53で、タビオスのレベルは56。たった3の差が、〈天地鳴動〉の使用の可否を分けて、それにより大きな差が生まれてしまう。
「──面倒なことになったピョン!」
蒼は、地面に着地すると同時に横に飛び上から降り注ぐタビオスの〈大切断〉を避ける算段を画策する。
第三層の床であれば、先程のように〈天地鳴動〉による行動の妨害がなされていないから回避も可能だろう。
──と、そんなことを考えるのはタビオスにとってもお見通しだった。
だからこそ、タビオスは蒼を確実に殺すために、本来であれば室内戦で使われることのない技を放つ。
──それは、奇しくも蒼が霊亀の首を斬る際に放った大技。
体を回転させながら、重力に従い落下して斧を振るい落とす大技。
大病を患った斧使いが、想い人を守るために悪党に向けて放ったのが起源とされるその技を、人々は尊敬の意を込めてこう呼ぶ──。
「──〈意志揺るがぬ魂の鼓動〉!」
蒼は、その大技を自分の斧でガードするけれども完全に受け止めることはできない。
タビオスの体重だけでなく、重力までもが加わったその打撃は、蒼を第三層の床に叩きつけるには充分すぎるものだった。
床と自らの斧に挟まれながら、蒼は自分の体中の骨が折れる音を聴く。
蒼の上に乗っているその大男は、間違いなく斧の達人だった。





