斧×斧 その①
各々の戦闘が各地で勃発し、満足いく形で、または不本意な形で終了して行っている最中。
アイアン・メイデンの〈鋼鉄の巨人〉の半壊から免れた城内都市パットゥ第四層の一室にある布団の中に潜っていたのは1人の男子。
「はー、こんなにいい布団で寝たのは久しぶりだピョン。幸せだピョ~ン」
栄救出の使命を忘れて、城内都市パットゥに用意されていた最高級の布団の中で半目を閉じて眠りにつこうとしていたのは『十戒破り』宇佐見蒼。
「もし皇斗きゅんとか康太きゅんがいたら煩かったけど、散り散りになったのが功を奏したピョン。栄きゅんを助け出すのは、僕が動かなくても智恵ちゃんとかが勝手にやるピョン。僕はここで寝させてもらうピョ~ン」
生粋の自由人である蒼が、そう口にしてベッドに飛び込んでから早くも10分。
最後にちゃんとしたベッドで寝たのは、3日前だ。
魔獣の森を縦断している時は眠る暇なんかなかったし、魔獣の森を超えて城内都市パットゥの近くに潜伏した時は、雪の残る洞穴の中で肩を震わせながら寝た。
そんな蒼にとって、パットゥの布団は極上のものだった。
「皆、寝ずに栄きゅんを助けるなんてどうかしてるピョン。僕はお肌なのために寝かせてもらうピョン」
蒼は完全に目を閉じて、そんなことを口にする。
寝て起きたら全部終わっている──そんなことを願って蒼は眠る。寝ている間にゲームがクリアしたって、戦闘の最中で失神してしまったと嘘をつけば問題ない。
そのまま、蒼は深い眠りについて──
「おらッ!」
「ピョーン!?」
頭を砕かんと言わんばかりに──実際に、頭を砕くことを狙って降り注いだ斧を、蒼は布団の中に潜ることで回避する。
「──ッチ、奇襲は失敗か」
そんなことを口にした巨漢が振った斧は、ベッドの半分を粉砕していた。
「布団から出て来いよ、クソガキ」
「後50分……」
「たっぷり寝ようとすんじゃねぇ、起きろ!」
そう口にして、蒼の入っていた布団を引き剥がすのは一人の巨漢。布団を取られると、パッと目を覚まし取り返そうと手を伸ばす。
「返してピョン!僕の恋人!」
「どう見たってワンナイトだっただろうが。って、そんなことはどうでもいいんだよッ!」
蒼の目に映るのは布団──そして、その布団を盗った張本人である筋骨隆々とした大男。
その男を、宇佐見蒼は知っている。
「確か──、キャミソール・スウェットパンツ?」
「タビオス・グレゴランス!」
「あぁ!そういえばそうだったような気もするピョン」
蒼の命を狙っていたのは、『親の七陰り』のメンバーである『暴若武人』タビオス・グレゴランスであった。
2人が出会ったのは麒麟討伐戦の時の一度切りだけど、斧使いとしてお互いに意識していたこともあるだろう。
少なくとも、タビオスはその道中で勇者一行の短期間で大躍進を聞いて色々と思うところはあったはずだ。
「──お前、霊亀の首を斬ったみてぇだな」
「お、僕の偉業は耳に入ってるピョン?ちゃんと歴史を勉強してるみたいで偉いピョン。褒めてあげるピョン。すごぉく褒めてあげるピョン」
「舐めてんのか?それともすごく舐めてんのか?」
「で、霊亀を倒した僕になんのようだピョン?あ、サイン?仕方ないピョン、麒麟を一緒に倒した友達料金で、10万ベルグで許してやるピョン」
軽口をやめない蒼に苛立ちを隠しきれず、手に持っていた斧を床に叩きつけるタビオス。
大きな音が鳴り、一瞬の静寂の後で「武器取れや、ぶっ殺してやる」とタビオスは口にした。
「あ~あ、おこちゃまが怒っちゃった。しょうがないピョンね、僕が相手をしてやるピョン。地獄で誇ればいいピョン」
「あぁ?先に地獄に行くのはお前だ。調子に乗りやがってよ、この野郎」
「やれやれ、話通じないタイプだピョン」
蒼はそう口にして、首を横に振る。そして、インベントリから斧を取り出す。
「──で、やるからには本気でやっていいピョンね?」
「当たり前だ。お前を殺してやる」
タビオスはそう口にして、蒼と睨みあう。
5秒。
10秒。
15秒。
睨みあうだけの時間が続き、お互いがお互いを牽制するように過ごす。そして──
「──〈大切断〉!」
「〈登竜斧〉!」
2人の振るう斧がぶつかり、周囲に火花が飛び散る。
「──重ッ!」
蒼はそう口にして、後ろに退いて斧同士の押し合いを中断した。
先程はタビオスが振り降ろし、蒼が振り上げるような攻撃を行い各々の斧をぶつけた。
そして、蒼はタビオスの斧から異常なまでの重さを感じたのだった。
「流石じゃねぇか。この重さに気付けるとはよ。口だけ達者の野郎じゃなくて安心したぜ」
タビオスはそう口にして、蒼の方へ斧を向ける。そして、自慢げに斧のことについて語った。
「この斧は『神速』が俺様に譲ってくれた一品碁閃斧だ。斧の内部と外部を構成している金属が違うから、一瞬遅れて追加の衝撃が届くんだよ。お前は斧で1撃目を防げても、2撃目は防げない。少しずつ弱っていて、斧も持てなくなって死んで行け」
「誰も聴いてないのに馬鹿みたいにペチャクチャ話してくれてありがとうピョン。そんなんだから誰にもモテないで死んでいくだピョン」
鼻高々に話すタビオスを前に、蒼の軽口は留まるところを知らない。
斧使い同士の戦いは、こうして幕を開けた。





