捕食者と被食者
俺とプラム姫を中に封じ込め、マスコット大先生がこびりついている小さな檻が、城内都市パットゥの中を突っ切っていく。
断続的に大きな衝撃と轟音が響き渡るこの城の中で、安全な場所は無いと思うから俺達はヒヤヒヤしながら檻ごとの移動に備えていた。
「あ、そろそろゴールが見えてきましたよ」
一体のどのくらいの時間移動を強いられていたのかわからないけれど、5分も無かったように思える。
鎖が引っ張られるような甲高い音の中でマスコット大先生のそんな声が聴こえてくる。確かに遠くには眩い光が見えている。
「あの光の先に『古龍の王』はいるのでしょうか」
プラム姫はそんな疑問を口にする。
「そうだと思います」
と俺は彼女に返答をする。マスコット大先生を言っていることを信じるのならば俺の返答は間違ってないが、そのソースのマスコット大先生はインターネットくらい信憑性は薄い。
「──不安ですか?」
俺はプラム姫にそう問いかける。姫様は、曖昧な表情を浮かべながら小さく首を傾けて「不安かどうかもわからないです」とまず先に口にして、こう続ける。
「勇者の皆さんが強いことは重々承知です。ですが、先代『古龍の王』をたった一人で討伐した現『古龍の王』の強さの方が私には目が行ってしまいます。そんな『古龍の王』に立ち向かうのは無謀ではないか──そう思ってしまいます」
彼女はそう口にする。
確かに、鼬ヶ丘百鬼夜行は強い。
第5ゲームの後に行われたラストバトルにて、百鬼夜行と対面したがその強者感は凄かった。まぁ、変態っぽさも凄かったけど。
でも、俺達があれだけ苦労してやっと倒した鈴華を一人で倒してしまうくらいには強い。まぁ、その後で鈴華を操っていた茉裕に操られて素直に帰っていったが。
もし、あの時茉裕が百鬼夜行を四次元に帰さず暴れさせていたらラストバトルの勝敗はまた変わっていただろう。
俺が敗けて、マスコット先生が勝っていた。ボタンの掛け違えが1つでもあれば、そんな未来もあったはずだ。
──が、それは昔の話。
皆、このゲームを通じてかなり強くなった。きっと今、智恵とケンカをして殴り合いに発展しても俺は勝てないかもしれない。もしこの第8ゲームがクリアされた報酬で、皆がこのゲームを通じて手に入れた魔法や能力を使えるようになったら、俺はクラス最弱になる自信があった。
俺は、クラスの皆を信じている。茉裕以外にも生徒会メンバーが潜んでいることはほぼ確定しているけれども、それでもだ。
「安心してください、プラム姫。何度も言うけど、俺の仲間は強い。『古龍の王』なんかには負けません。だから、安心してください」
「──」
彼女は俺の言葉に神妙な顔をする。そして、弱弱しい笑顔を作って「では、信じたいと思います。勇者の皆様を」と口にした。すると、マスコット大先生が口を挟んでくる。
「池本栄君、プラム姫に気を使わせましたね」
「──マスコット大先生、余計なことは言わないでいいです」
「余計なことを言わない私は、本当に私ですか?」
「マスコット大先生のアイデンティティは余計なことを言う事だった?」
「モラトリアム、解決!」
「親世代の発達課題は世代性と停滞では?」
「もうそれは池本栄君、君が居る時点で解決してるんですよ」
「デスゲームの主催者って言うデカすぎるアイデンティティがあると思うんですけどね……」
「私も池本栄君くらいの年齢の時は色々悩みました。良心と倫理観と常識とリテラシーの四面楚歌になる中で、科学技術の革新に青春をつぎ込んだあの頃が懐かしい」
「すごく気になるけど、良心と倫理観と常識とリテラシーに裏切られてる辺り碌でもなさそうだから聞かないでおこう」
「あれは高校に入って初めての夏の事──」
「いいです!今大事な局面なんでマスコット大先生の過去回想とか要らないです!」
──と、親子で馬鹿な会話をしていると、俺達を閉じた牢屋は光の方へと到達する。
四方を石で覆われていた道中と違って、ひどく開けた空間に飛び出る。
「高……」
牢屋は鎖に繋がれて宙吊りになっており、ユラユラと揺れている。
落ちたら骨折では済まない高さをしており、これまで刃物に刺されたり背中を引っかかれたりして、全身殴打されたりしている俺でも恐怖を覚えた。
──と、俺が恐る恐る床の方を見ていると、広大な部屋の最奥に置かれた大きな玉座に座っている1人の男。
パン一ペストマスクという奇抜な格好をしている男──噂の『古龍の王』鼬ヶ丘百鬼夜行がそこには座っていた。
「プラム姫、『古龍の王』です。『古龍の王』がいます」
「──そのようですね。私達に最終決戦を見せようとしているのか、それとも勇者の皆様に私達を見せようとしているのか……」
彼女は、思いの外冷静に状況を分析していた。もう少し焦ったり取り乱すと思っていたが、案外肝が据わっているようだった。
「──と、マスカット大臣に似たサカエさんのお付きのものは何処に?」
「マスコット大先生のことですか?」
俺は、檻の表面に貼り付いてたマスコット大先生の姿を探すためにグルリと見渡すけれどもどこにも見当たらない。
そして、先程まで貼り付いていた場所の真下を覗いてみるが、そこにも姿は無かった。
きっと、いつものように忽然と姿を消したのだろう。マスコット大先生が神出鬼没なのは今に始まったことではない。
「心配する必要はありません。マスコット大先生のことは気にしなくて大丈夫です」
「そうですか……」
プラム姫は俺の言葉に小首を傾げながら、納得していなさそうな納得の言葉を口にする。
マスコット大先生のことを説明していたらキリがない。それに、プラム姫を無理に納得させる必要も無いだろう。
俺は、この広い部屋の出入り口に視線を向けて、皆の登場を今か今かと待ち続けるのだった。





