Genius Jealous その⑥
城内都市パットゥが半壊し、第一層に落下した純介と紬の2人が遠くに見たのは、メイの創り上げた〈鋼鉄の巨人〉。
50mを楽々と超えるようなその体躯に対して驚きが隠せなかったが、純介は目には目を歯には歯をのハンブラビ的なタリオで、自分の全魔力と紬の魔力の半分以上を組み合わせて〈鋼鉄の巨人〉を作ることに成功した。
そして、純介は魔力の枯渇により意識を投げ出す。
紬は最初こそ焦ったが、〈鋼鉄の巨人〉から純介の思念が届いた。
それは「メイは直接殺しに来るはずだから、僕にポーションを飲ませる前に囮を作ってその場から少し離れて」という内容だ。
それを受けた紬は、純介の言葉に従って残り少ない魔力で自分でも見間違えるような囮を作り、近くにあった建物に入って純介の回復魔法と並行してMP回復用ポーションを飲ませた。
意識を取り戻した純介は、紬の頭を撫でながら「ありがとう」と言う。紬はそれに満面の笑みで答えながら、頭の中ではメイと彼女が作った〈鋼鉄の巨人〉のことを考えていた。
「じゅんじゅん、どうするの?メイちゃんとあの巨人、どっちを先に相手にするの?」
「メイは囮の方に奇襲で魔法を放ってくるはず。でも、囮のことに気付いていて直接僕達の方に来るかもしれないから、油断はできない。巨人──〈鋼鉄の巨人〉の方は、メイを引き付けてカウンターを食らわせてからじゃないと駄目。先に〈鋼鉄の巨人〉の方を倒しちゃうと、僕達が完全復活したことがバレちゃうからさ」
「わかった」
紬だって、決して馬鹿ではない。
純介が1を説明すれば10知ることができるし、純介が意地悪に難解な言葉で説明しようともその意図の半分は汲み取れるだけの頭脳はあるだろう。
──と、そんなことを話していると外に変化がある。
1つの人影が囮の上に被さるようにして現れて、何か狼狽えたような動きを見せる。
「じゅんじゅん」
「──雷炎の楔」
そう口にして、純介は回復した魔力を使ってAランクの魔法を放つ。
麒麟討伐戦の時に「非効率」と称された〈紅焔神の涙〉を、当てつけのように使ってもいいのだけれど、この一撃で討伐できないことも考えると、やはり「非効率」は忌避するべきだったからしなかった。
魔法で作られた雷と炎の球体がメイに直撃し、そのまま彼女は一回転くらいして地面にドサリとこぼれる。
栄養の無さそうな灰色の土の上に倒れた彼女の姿を確認し、純介と紬の2人は顔を見合わせる。
そして、メイの〈鋼鉄の巨人〉に足をかけて転ばせることで対処したのだった。
きっとメイは、これまでの人生で〈鋼鉄の巨人〉同士の戦闘をしたことがなかったのだろう。だから、足をかけると言う簡単な小技でその巨体を転ばせることができた。
まぁ、通常の人間と完全体の〈鋼鉄の巨人〉が戦う時など、足をかけるどころか足に触れることさえできないだろう。
「──って、『剣聖』はパットゥに住んでいる人は『古龍の王』の悪政に苦しめられている一般人って言ってなかった?〈鋼鉄の巨人〉が転んだってことは……」
紬の頭にそんな疑問が浮かび上がると、彼女の顔がみるみるうちに青ざめていく。
純介は、どんな言葉で紬を慰め騙せばいのか考えるけれども、何も思いつかない。
きっと「ゲームだから」とメタ的な説明をしようと、「転んだのはメイの巨人だよ」と責任を転嫁しようと、紬の心の傷は癒えないだろう。
そして「戦闘が長引いていたらもっと多くの人が死んでいた」と有り得た未来の話をしても、気休めにしかならないことは目に見えていた。だから──
「──つむ。僕達は、多くの人を犠牲にしてしまったことを忘れちゃならない。その人たちの分まで戦わないと」
純介は、犠牲を必要なものだっと割り切り自分と紬に罪の意識を植え付ける。責任転嫁できない罪だと言うのなら、2人で受け止めた方が軽くなるはずだ。
そう口にして、純介は立ち上がり紬の手を引いてメイのところへ行こうとする。紬は、それに引っ張られるようにして立ち上がるけれども、彼の手を引き「じゅんじゅん」と真面目な声で呼んで、彼と目を見つめ合わせてこう続ける。
「──これ以上、死んじゃう人を増やしたくない」
そんな優しくて甘くて都合のいい願い。
だが、純介はそれを叶える義務がある。恋人である紬を加担させてしまった以上、その言葉に従う必要がある。
純介は優しく微笑み「わかった」と口にする。そして、2人は地面に転げて涙しているメイの前に立つ。
「──とっとと殺せ、優生人種」
メイは涙声を隠すようにしながらそう口にする。
「ううん、殺さない。つむがこれ以上被害者を増やしたくないって言うからね」
「……情けをかけたつもり?命を助けることが救いじゃないのよ」
「じゃあ、自殺すればいいよ。僕達は君を殺さない。死にたいなら、僕達の知らないところで誰にも知られず死んでくれ」
純介のそんな言葉を受け、メイは目を覆っていた腕をずらし純介の方を睨む。
「──命を賭けた殺し合いをしたのに、結局命を奪わない。これだから偽善的な強者は、優生人種は嫌いなのよ」
彼女はそう言い放つ。そして、上体を起こしたメイはゆっくりと息を吐いて、敗者としての言葉を投げかける。
「とっとと失せな、優生人種。私の視界から消えてくれ」
メイの死に場所はここでもなかった。まだ天は生きろと言うのか。まだ神は私を殺してくれないのか。
一番凡人の癖に一番最後まで生き残ってしまうメイは、死ねる場所を選べない。
──悲しみとも哀れみとも呼べない感情に浸っていた時だった。
城内都市パットゥの第五層から、死んでも殺してやりたい輩が死に場所として降って来たのは。
純介・紬vsアイアン・メイデンの魔法大戦はこれにて終了。
このままメイの顛末を追ってもいいけど、色々とピースが足りてないので後回し。





