Genius Jealous その⑤
城内都市パットゥの第一層から第四層を半壊させながら召喚された二体の鋼鉄の巨人──〈鋼鉄の巨人〉。
あまりに巨大すぎるその体は、頭のてっぺんを見ようとするだけでも首を痛めてしまう。
隅々まで装飾が施され、節々からプライドが滲み出ているのがメイの召喚した〈鋼鉄の巨人〉で、人型をした素朴な鋼鉄人形が純介の召喚した〈鋼鉄の巨人〉だ。
その差異には、メイが長くにわたって考え続けた〈鋼鉄の巨人〉への理想と、これまで培ってきた自信、そして純介よりも魔力を効率的に使われていることの証明が込められている。
もしこの勝負が、「より美しい〈鋼鉄の巨人〉を作る」であれば、勝者はメイだっただろう。
純介は、全ての魔力をつぎ込み〈鋼鉄の巨人〉を作り上げて尚、装飾を付けることは無かったし、魔力不足で失神をしており魔法だけでなく本人も無様だった。
──が、これは美しさの勝負ではない。
どれだけ無様でも、どれだけ惨たらしくても、最後まで生きていた方が勝者だ。
そうなるとこの勝負は、どっちの〈鋼鉄の巨人〉が勝つかが勝敗に直結する。
「──あぁ、クソ。最悪だ。本当に最悪」
そう口にしながら1人、メイはMP回復用ポーションで喉を潤す。
麒麟討伐戦を行う際に買い占めた各種ポーションは、『神速』との修業で1/3を、城内都市パットゥへの弾丸旅行で1/3を使ってしまった。
そして、残った1/3を山分けにしたわけだが、メイの手元に残ったのは10本程度だった。
その全てを胃の中に流し込むメイの姿は、ヤケ酒ならぬヤケポーションだろう。
「私だけしか使えないはずなのに。なんであの劣等人種共にも……あぁ!」
ポーションの空瓶を地面に叩きつけるメイ。悲鳴のような音と共に粉々になった空瓶は、まるで彼女のようだった。
「虫唾が走る、反吐が出る。こんな現実、耐えられないッ!」
そう口にして、彼女は自分の〈鋼鉄の巨人〉を動かす。一歩進むごとに、地面が揺れる。
「絶対に負けない。劣等人種だか優生人種だか知らねぇが、私は勝つッ!」
──だって、特異な鋼鉄の魔法でさえ負けたら、もう彼女の手元には何も残らなくなってしまうから。
メイの〈鋼鉄の巨人〉が動き出したのを見て、純介の〈鋼鉄の巨人〉も動き出す。
腕だけの召喚では、どこにどうこんな感じをするのか指示をする必要があったが、全身が召喚された場合──正確には、頭が召喚された場合は、単純ではあるが〈鋼鉄の巨人〉自身で思考することができる。
召喚者の指示──今回の場合であれば、メイと純介の指示があればそれに従うが、無い場合は召喚者が召喚する時に考えていたことを行動原理に動き出す。
そして現在、紬の腕の中で介抱されている純介は〈鋼鉄の巨人〉に指示を飛ばすことができないから、純介の〈鋼鉄の巨人〉は純介が召喚した時に考えていたことに則って動き出す。それは──
「──私に勝つ」
純介の定めた行動原理を、魔法使いの本能で理解するメイ。
きっと、純介の〈鋼鉄の巨人〉はメイに勝利するために動くはずだ。
そうなると始まるのは、〈鋼鉄の巨人〉同士の肉弾戦。
巨大な衝突音が半壊したパットゥに響き渡る。メイの〈鋼鉄の巨人〉の拳が、純介の〈鋼鉄の巨人〉の胴に激突したのだ。
あれほどの巨体であれば、まず攻撃を放てばお互いに回避できない。
メイがアレンと出会う前に行った実験では、〈鋼鉄の巨人〉は歩くことはできてもジャンプすることはできなかった。あの時は近くの村を全壊する規模の被害を出したが、今回はどうだろうか。
──純介の〈鋼鉄の巨人〉は、その拳を食らってよろけるものの転ぶようなことはしない。拳の爆心地から砂埃が待っているのを見ると、的確にダメージがあったことがわかる。
「このまま攻めれば……」
勝てる──そう考えるのは早計だろう。
今は純介が意識を取り戻していないから一方的にやれてるが、純介が目を覚まして指示を出せるようになったらどんな奇策を打ってくるかわからない。
メイはもう既に純介のことを、「劣等人種」として同族嫌悪する存在ではなく、「優生人種」として忌み嫌う存在として見ていた。
天才は恐ろしい。どれだけ勝ちが薄い状況だろうと、凡人には思いつかないような方法で勝利へと漕ぎつけてくる。それこそ、姉弟子の『簒奪する高潔な魂』ことクルセイド・ブルゴーニュは、「勝利」を掴む天才だった。
そして、これまでの戦闘を通じて、純介もそれと似たようなタイプであることは大体察しが付く。
だから、メイは純介本体を潰しに動き出した。
横というにはあまりに遠くで戦っている2体の巨人を横目に、メイは純介と紬の2人が落下した地点を探す。
「どこに……どこに行った、あのバカップルは」
回復した魔力を使って、空に浮いて純介と紬の2人の姿を確認する。どこに、どこに、どこに、どこに──。
「──いた」
メイの目に見えたのは、城内都市パットゥの街中にしゃがみ込む1つの人影と、それに抱きかかえられる一つの影。
この状況で、そんなことをしているのは純介と紬の2人しかいないだろう。
「──くだらない。2人でいるからって都合のいい」
今回の2人の敗因は、数の利を活かせ切れなかったことだ。片方が魔力切れで失神したら、もう片方がするのは介抱じゃない、片方を担ぎながらの戦闘継続だ。
メイは、見つけた2人の方へと接近しながら魔法の詠唱を開始する。
「さよなら。〈鋼鉄──ッ!?」
メイの目に映したのは、2人の人影だ。遠くから見て、純介と紬だと断定し攻撃を放とうと接近した。
相手に隙を与えないように速く移動したから、対策されていない──メイはそう勘違いしていた。
──そこに置いてあるのが、魔法で作られた人型の人形であることも気付かずに。
「小賢しいッ!本物は──」
「──雷炎の楔」
メイが、本体を探そうとその体を動かした瞬間、目の前から迫ってくるのは炎と雷でできた球体。
それが、純介の放った魔法であると気付くのと同時に、彼女の体にそれは衝突した。
──全て、純介の想定通りだった。
彼女は、そのまま地面に倒れる。灰色の土で背中が汚れるのを感じ、不快に思う。
「──あぁ、クソ。これだから嫌いなんだ、優生人種は」
彼女はそう口にする。目には涙が浮かんでいる。その心境に無闇に踏み込むのは、きっと褒められた行為ではないだろう。
──遠くで、超巨大な何かが倒れるような大きな音がして、それに追従する様に大きく地面が揺れる。
負けたのはきっと、自分のゴーレムだ。メイは直感でそう理解して、魔法杖を持たぬ方の腕で目を覆った。
「本当に、嫌だ。私ってなんでこんななんだろう」
──凡人以上天才未満の彼女は、凡人未満天才以上の彼に敗北した。
それは、彼女にとって何よりも色の濃い事実なのであった。





