プロ野球選手との淡い恋90
「美味しいよ」
その言葉が、下手なりにも作ったかいがあったと嬉しくなる。
今度、手料理を振る舞おうと本屋で料理本を買った。
家で試しに作ったが、味はとにかく、同じ材料を使っているのらに、美しく盛り付けられない。
この手のセンスが絶望的にない事を改めて知った。
それでも、先日のケイタリングのお礼もしたかったし、食べさせたいと思ったから今回、無謀なチャレンジしてみた。
だから、「美味しいよ」の一言は、そよにとって宝物だった。
着替えに行ったはずの光田が、帰って来た時の服のまま部屋から飛び出して来た。
「すっかり忘れてた」
何をですか?と、そよがたずねる前に、光田はそよのくちびるにそっと口づけた。
真顔で見つめたまま「ただいまのキス」と言った。
そして、何だかやり場のない恥ずかしさに慌てだす。
「着替えてきます」
耳まで赤くした光田は、何でもない風を装って部屋に戻った。
うわぁ。
思わず叫びそうになるのを、そよはぐっと堪えた。
家だったら興奮して、そこら中走り回ってしまうかもしれない。
光田が腰を曲げてそよに口づけた。
照れて逸らした表情が目に焼きつく。
そよは緩む頬を隠そうと、必死に下唇を噛み締めた。
光田は慌てて部屋の扉を閉めると、戸によりかかり両手でどうしようもなく火照る顔を抑えた。
ただいまのキス。
なんだそれ?
今までお付き合いした中でも、こんなことはしたことない。
せがまれたことはあっても、自分からするなんて。
何をやってるんだ、俺は。
自分でしておきながら、あまりの恥ずかしさに自分でツッコミを入れながら、叫び出しそうなのを堪えた。
暫く落ち着くまで立ち尽くしたが、そよの料理が冷めてしまうと慌てて着替える。
ジャージじゃ気を抜きすぎてるかな?
とも思ったが、かなりあるジャージの中でも一番お気に入りの、黒の落ち着いたラインの入った物を選んだ。
部屋を出る時、またそよに口づけたことを思い出してニヤけそうになった顔を、咳払いをしておさめる。
自分はこんなに顔や態度に出るタイプだっただろうか?
新たな自分の発見に、光田自身が驚いた。




