プロ野球選手との淡い恋89
何だか恥ずかしくて、二人は黙ってリビングに向かう。
「あ、これ」
思い出したように、照れないで、出来るだけ表情を変えずに、小さな花束を差し出した。
赤いバラのの小さな花束。
「たまたま、花屋さんにあったから」
そよは目を輝かせて受け取った。
「ありがとうございます」
本当はたまたまじゃない。
ちゃんと赤いバラを選んだ。
もちろん、花言葉を意識して。
それをさりげなく渡せるように、小さく、可愛らしく花屋さんに作ってもらった。
受け取った花束から、高貴で可憐な香りがする。
花束なんて買うことも受け取ることもないから、そよはそれだけで別世界へ迷い込む。
「素敵な花。いい香りがします」
深い深呼吸をするそよとバラの香りに、見慣れたはずの窓越しの夜景の美しさも合間って、心地よい酔いが光田の心に広がった。
リビングのテーブルには、そよが作った料理が並んでいる。
料理上手とは言い難い見た目、洒落っ気のない盛り付け。
けれど、そのどれもが光田には良かった。
「勝手に台所を使ってしまいました」
「どうぞ、いくらでも使ってください。色々揃えてはありますが、いつも、コーヒーを沸かすくらいしか使わないので」
テーブルに並んだ茶色い料理をチラリと見ると、そよは申し訳なく呟く。
「あの、茶色ばっかりになってしまいました」
「美味しそう」
そよはブルブルと首をふる。
「味にも自信がなくて。エプロンつけてる割には、大したことなくて」
恥ずかしそうに呟くそよに、光田が微笑む。
「そよちゃんが作ってくれたのが嬉しい」
まだ帰ってきたまま、ジャンパーを羽織った光田は肉じゃがに手を伸ばして一口食べた。
そよはもぐもぐ食べた光田の口元を祈るように見つめる。
自信が無いにしても、美味しくないと言わないにせよ、そんな様子が見れたらやはり怖い。
「あの、無理しなくて大丈夫ですよ」
「え?」
「べーって、出しても大丈夫ですよ」
あまりの心配ぶりに、光田は笑い出す。
「美味しいよ」
そよは思わず叫んだ。
「本当ですか?」
うん、と大きく頷いてくれたから、ようやく胸を撫で下ろした。
「あ、お行儀悪かったね。待ってて。着替えて、すぐ戻るから」
光田はジャンパーを脱ぐと、着替えに部屋へ行った。




