プロ野球選手との淡い恋83
「なんで、こんなことになるんだ」
執務室で、大好きなオカキとお茶を啜りながら喚いているのは稲村会長である。
出版社から送られてきた書類を見ながら、稲村はむくれたままだ。
手に握られていたのは、週刊誌に掲載予定の原稿内容確認依頼の文章だった。
ご丁寧に内田菜々と稲村一希が老舗の日本料理屋から出てきた写真まである。
一希は鼻息荒い会長に笑いながら告げた。
「会長の指示通りですよ。報博堂の打ち合わせの後に、菜々と食事をして、張らせていた週刊誌に撮らせました。予定通りです」
「確かに言ったが、菜々の相手は博報堂の人間にさせるよう言っただろう」
「会長、僕はもう一つ策を準備しました」
意味ありげに笑う一希に、会長は眉をひそめた。
「策だと?お前のような、いい子ちゃんに何が出来る?菜々が可愛くて、一緒に飯に行きたくなっただけだろう」
「もし、私と写真を撮られたら、今回のプロモーションの契約違反で、菜々を降ろすことが出来ます。しかも、スポンサー相手とはお互い印象が悪いから降板以外ありえません。写真が載れば、菜々に光田ではない恋人がいることを証明できる。そうすれば、愛でてやまない佐野そよに対するバッシングも収まるでしょう」
稲村会長は鼻をならした。
「ツラツラと御託を並べおって。お前も叩かれるぞ」
「会長、週刊誌の記事はすでに潰してあります。ですが、スタープロダクションにはこの旨を報告して下さい。そして、こちらが潰す手配をしたことも」
会長はニンマリ笑う。
「菜々はどうじゃった?」
「食事をしただけです。でも、野心家で闘争心もあり面白い女性でした」
「それで?」
一希はまじまじと会長を見る。
「それだけです」
「それだけか」
「ビジネスパートナーとしては素晴らしいですが、側に置くのは向いてないタイプでしょう」
「ま、そうじゃろな」
会長は一人納得すると、手にしていた書類をゴミ箱に捨てた。
「それにしても、会長はどうしてそこまで佐野そよに肩入れするんですか?」
一希の質問に、会長はお茶をすすりなが呟く。
「地位も金もない老人になれば、見えない世界が見えるんじゃ」
「見えない世界、ですか」
「さよう」
会長は頷いた。




