プロ野球選手との淡い恋76
いつもに増して、球団職員は走り回り、選手は浮き足だっている。
今日は年に一回開催されるファン感謝デーの日だ。
一年間、チームを応援してくれたファンと一緒に楽しむイベントが色々と組まれる。
午後2時からはチーム全員がグランドに集まり、新入団選手の紹介、今季限りで引退する選手のセレモニーなど公式行事が行われる。
最後は監督、キャプテンが来季への意気込みを伝え、ファンの皆さんに今季の感謝と来年の応援もお願いして閉会する。
感謝祭はファンはいつもと違う選手たちに近くで会えるとあって、チケットはすぐに完売する。
恒例のスケジュールではあるが、光田の日程は例年に増して分刻みのスケジュールだ。
故障して戦線離脱をした時に、たくさんのファンが応援してくれた。
復帰時には暖かく迎えてくれて、こんなに感謝したことはない。
プロ野球選手は打てなければ話にならないが、ファンに応援してもらえなくては、それ以前の話だ。
復帰戦のチケット完売、ホームランに沸いた会場。
あんなに感謝したことは今までなかった。
球団の西村から「光田の参加選手するイベントの事前予約がすぐに受付終了して、問合せがすごいんだよ」
と頭を抱えて相談された。
「顔出せるのには出ますよ」
光田の言葉に西村の目が輝く。
「言ったね。前言撤回は無しだぜ。調整して、またスケジュール出すよ」
その日の夕方に出されたのが、分刻みのスケジュールだった。
西村が持ってきた用紙に目を通す。
「トークショー、俺の料理選手権に特別審査で味見、飛び入りでキッズブースで子どもたちとジャンケン大会、カレンダー販売ブースで予約客に手渡し。さらに時間があったら、どこにでも立ち寄って。警備は五人つけます」
眺めた光田は、自分が言ったこととは言え、いつもの倍組まれた容赦ない予定に少しためらったが、すぐに頷いた。
「分かった。今年は特に応援して頂いたから、これくらいはやる」
断られるかなと思っていた西村が胸を撫でおろした。
「頼んだよ」
光田は頷いた。
感謝祭がスタートし、事前予約のトークショーが開催された。話が上手くない光田に、司会者が質問したり話を広げたりする手法だ。
来客は近くで見る光田に感動し、言葉に詰まったり、困ったり、回答に悩む姿見も優しく見守ってくれて無事に終了した。
終了するとそのまま、外部芝生席の関係者席に通された。
俺の料理選手権が開かれていて、あと10分で終わったら登場して味見をして順位を決める。
3年所属した選手が参加するのが慣例で、その中から球団が指名した者が問答無用で参加させられるのだ。
光田も以前参加し、しばらく話のタネにされたことを思い出した。
現場のモニターを見ていたもう一人の審査員役の田中が楽しそうに画面を指差した。
「谷岡、料理出来んだな」
光田もモニターを覗いてみる。
谷岡の包丁捌きより、その隣にいる女性の姿が目に止まった。
「そよちゃん?」
思わず口から出かかった言葉を飲み込んだ。




