プロ野球選手との淡い恋75
「今回のお題はオムライスです。ここにある地元の食材をフルに使って、自慢の腕を披露して下さい。さて、料理を始める前に」
アナウンサーが話している途中で、みんなが手を挙げる。
そよは何事かと周りを見回した。
「さすが皆さん、よくご存知ですね!では、毎年恒例!お手伝いをして下さる方を各選手、選んで下さい!」
河原は小学生の男の子と、その母。
井出は料理が得意と立候補した男性を指名した。
谷岡は会場をくるりと見回した。
指名されるように手を挙げつつける観客の中に、周りをキョロキョロ見回し、勢いに飲まれ、手をあげていない女性を見つけた。
なかなか好みのタイプでもある。
谷岡はニヤリと笑うと、手を挙げていないそよを指差した。
「手を挙げてない彼女にします」
「え?手を挙げてない彼女ですか?」
アナウンサーが谷岡に尋ねると「逆に面白いかな?と思いまして」と笑いながら答えた。
「それでは、そのジーンズの、そう、あなたです。こちらへ」
そよは必死に首を横へ振ったが、周りの圧と職員に手を引かれる。
それからずっと手をあげていた小学生の女の子を指名し「やる気のある彼女もお願いします」と、また笑った。
猛烈な周りの視線を浴びながらそよと少女は警備に連れられ、谷岡のキッチンブースに向かった。
小学生の女の子と一緒にブースに立ったそよは、周りの視線に圧倒されて前を向くことが出来なかった。
そんなことを思っているうちに、アナウンサーの声が響く。
「制限時間は30分!それではスタートです!」
谷岡とそよが立ち尽くす間に、女の子は「まずは食材を選びましょう!」と声をかける。
他のチームも食材選びを始めた。
女の子は渡されたカゴに卵、玉ねぎ、ベーコン、グリンピース、マッシュルーム、ホールトマトと次々と入れていく。
「俺、料理は出来ないんすよね」
谷岡が笑う。
アナウンサーはすかさず谷岡の言葉を拾った。
「おっと、谷岡選手、すでにギブアップ宣言か!でも、小さな彼女はすごく手際がいい!あなたのお名前は?」
「美奈です」
「美奈ちゃん!頑張って下さい!あなたにかかってますよ」
美奈は親指を立て答える。
会場からは割れんばかりの拍手が起きた。
美奈が「谷岡選手は卵割れますか?」と訊ねると、
「はい!」兵隊のように答えた谷岡に笑いがおきる。
「お姉さんは玉ねぎ切って炒めて下さいね!」
「はい!」
そう答えているうちにも、河原のチームは炊き立てご飯でチキンライスを炒め始める。
やはり、母の料理の技はスピード感が違う。
井出のチームも巧みな包丁捌きで拍手が起きた。
そよの玉ねぎを切る姿を見ながら、谷岡は笑い出した。
「美奈ちゃんに習った方がええよ」
そよには返す言葉もない。
「おっしゃる通りです」
玉ねぎでグチャグチャになった目元を拭いながら答える姿に、谷岡と美奈が吹き出した。
小学生とは思えない美奈の手際の良さは、心地よくて周りも魅了されていく。
さらに、競って料理を作ることがスポーツ感覚になってくる。
周りの視線が気にならなくなり、とにかく、三人で料理を仕上げようと言う連帯感が湧いてきた。




