プロ野球選手との淡い恋74
開門され、ようやく球場の中に入ることが出来た。
すでに場所取りをされた席には荷物が置かれ、誰もが足早にイベントが行われる場所に向かっていく。
そよは、空いていた席に腰を下ろした。
目の前には美しく手入れされた芝生が広がる。
球場にはまだ小学生だった頃、父と弟と一緒に一度だけ来たことがあった。
地元の球場で、スタンドは剥き出しのコンクリート。所々にベンチが置いてあり、ほとんどは芝生席。
こんなに整備された球場では無かったが、高揚感は同じだった。
吹き抜ける風が気持ちいい。
光田の仕事場なんだと思うと、周りの興奮した空気とはまた違うものを感じた。
せっかくだから満喫しようと、お弁当屋の列に並ぶ。
光田がプロデュースした海鮮弁当を買おうとしたが、売り切れていた。
特製ワッペンが同封されていたらしく、それを目当てに光田の弁当が早々と売り切れたことを知った。
他の選手がプロデュースした焼肉弁当を買いながら、
そよは自分の気合いが全く足りていないことを知らされた。
この調子では、申し込んだイベントさえ参加出来ないかもしれない。
よく分からない焦りに支配されたそよは、光田が参加するわけでもないイベントに向かって走り出した。
球場の外野芝生席にカラフルなテントが建てられている。
三カ所の簡易キッチンが用意され、「俺の料理選手権」の看板が飾られていた。
すでに入場を待つ列が出来ていて、そよも並ぶ。
参加選手は井出選手、谷岡選手、河原選手とアナウンスされている。
河原選手は、入場した時に並んでいた女の子たちが目当てにしていた選手だ。
列には若い女の子や、小学生などの野球少年を連れた家族連れ、年季の入ったチームのファンなど様々で賑やかだ。
5分前に入場が開始され、キッチンブースの近くに進んでいく。
そよも流されるまま、会場へと足を踏み入れた。
暫くすると、奥から警備に囲まれた選手が現れ、会場の客が色めき立ち声援が飛ぶ。
そよが座っていた一番近いキッチンには、谷岡選手が現れた。
ブースの脇に地元の情報番組で見たことのあるアナウンサーが現れ、拍手が起こる。
アナウンサーは一礼すると、青空に響き渡る朗々とした声で叫んだ。
「そろそろお時間になりました。毎年恒例になりました、俺の料理選手権を開催します!」
会場が、わっと沸いた。
周りがなぜか浮き足っている理由を、まだそよは知らなかった。




