プロ野球選手との淡い恋72
12月、風がさらに冷たくなり、枯れた落ち葉が煽られて空に舞う。
そよは普段はあまり履くことのないジーンズにスニーカー、ブルゾンを羽織る。
小さなリュックに入れたチケットを確認する。
「よし!」
寒さ避けに巻いたマフラーを巻き直して、目深に被った帽子のツバを直して歩き出した。
稲村の創業パーティーで先週会ったきり、光田とは毎日連絡をしているが、なかなか会えずにいた。
光田は契約更改でさらに注目を浴びたし、様々な取材や調整で忙しい。
そよは相変わらず稲村会長に連れ回されて時間が合わないのだ。
それでも、来週の週末は絶対に二人で会うと決めていた。
「そよちゃんが足らない」
電話越しに光田は拗ねる。
私だって、足らないです。
そよは思わず出かかった言葉を飲み込む。
「来週になったら、会えますよ」
「長い」
「あっという間ですよ」
慰めの言葉に、光田はつまらなそうに頷く。
そよは、そんな光田が愛らしいと思う。
けれど、そよも光田に会いたい。
来週まで一週間も長い。
そんなそよが、こっそり計画していたことがあった。
そよは光田が病院を退院した頃、光田の所属したチームのファンクラブに加入した。
今でも光田には秘密にしている。
結局、球場に行くこともなくシーズンは終わってしまったが、忘れた頃にファンクラブから封書が届いた。
ファン感謝祭の開催案内で、ファンクラブ会員先行で行われるチケット販売されると言う。
サイトを確認すると、色んなイベントやトークショーが行われ、選手がプロデュースした食べ物も販売される。
自分の知らない光田を少し覗いて見たかった。
アイドルやバンドのコンサートに行くなどという活動的な生活とは無縁だったが、初めてチケットを取って参加してみようと思った。
そよはチケットを入手した。
もちろん、光田は行くことも知らないし、行ったから何をするつもりもない。
プロ野球選手としての光田をこっそり覗き、ついでに美味しい出店で何か食べたいな。
それだけだった。
もしも光田に会えたらなんて想像したが、それはありえない事だったとすぐに知った。
ソーシャルディスタンスをとって球場を囲むように並ぶ人たちの長い列。
開始時間30分前に来たが、もはや、入場口も最後尾も、人の多さに何も分からない。
いったい何時から並んでいるのだろうか。
「こんなにいるんだ」
そよはただ驚き、最後尾を探す旅に出た。




