プロ野球選手との淡い恋56
いつになっても連絡が来なくて、光田は電話をかけた。
けれど、そよは出ない。
メールで「今どこにいますか?心配してる」と送ったが、既読はつかなかった。
心配になったが、またかけ直そうと軽くシャワーを浴びていた。
電話が鳴った気がして慌てて出てみると、ちょうどそよの留守電が終わるところで、すぐに出たが切れてしまった。
かけ直したが繋がらない。
そよの留守電は謎に満ちていた。
ただ、週刊誌のことを説明出来なかったことより、稲村の爺さんがそよを連れ出したことに心がざわめく。
あの爺さん、そよに何をする気だ。
光田は会食の時に交換していた稲村に電話をかけた。
電話をかけると、まるで待っていましたとばかりに稲村が出た。
「お?どうした?」
「そよさんはご一緒ですか?」
「そりゃ、一緒だ。楽しいぞ。今からアメリカ出張じゃ」
「アメリカ?」
「わしは世界で活躍する。そこらへんは庭みたいなもんだ。ま、一般人は驚くがな」
稲村はガハガハ笑う。
「稲村さん、そよさんは無事ですか?」
笑っていた稲村が、今度は激昂した。
「何を言っとる。お前がつまらん女に振り回されて、無事どころか、そよちゃんのアパートまで週刊誌が追ってたんだぞ」
「本当ですか?」
「しかもその女、そよちゃんの会社まで来たらしいじゃないか」
光田は思わず息を呑んだ。その短い間で、稲村は状況を察した。
「なんだ、知らんかったのか。お前が役に立たないから、そよちゃんはこちらで預からせて頂く」
「預かる?」
嫌な予感しかわかない。
「そよちゃんには、アメリカから日本に電話するには海外専用の契約が必要で、ネットに繋ぐと高額な接続料がかかるとテキトーに話したら、すっかり信じ携帯の電源を切っとった。本当にいい子じゃ」
「なんでそんな話を」
「分からんか。そよちゃんと小僧を別れさせるためじゃ。
今回、出張にはうちの優秀で容姿がまあまあなのを何人か連れている。そのうちの誰かと、そよちゃんの縁結びをしようかと思ってるから、小僧は女優とよりを戻して仲良くせい。じゃ、互いの健闘を祈ろう」
「ちょ、稲村さん!」
電話は一方的に切れた。
光田は電話を持ったまま立ち尽くした。
慌ててそよに電話をしたが、「おかけになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が入っておりません」と、静かに告げた。
そよが誰かに奪われる。
看護助手として薬缶でお茶を注いでいる姿。
夜の埠頭に風を受けながら立つ姿。
ネックレスを受け取った時の驚いた顔。
どれも、手放したく無いと思った。
「誰にもやらない」
光田は吐き捨てるように呟いた。




