プロ野球選手との淡い恋57
稲村は電話を切るとクツクツと笑った。
執務室から出ると、幹部やそよがいる座席につながる。
あんなに緊張していたそよは、疲れのせいか眠りこんでいた。
アメリカ出張は10日の予定だ。
イナケンの創立50周年記念パーティーが行われるから、それに合わせて帰国する予定が組まれていた。
もちろん、短期だと信じているそよは2〜3日だと思っているから、10日とは思いもしないだろう。
光田は寂しかろうなと、稲村はほくそ笑む。
稲村は、国見に言った。
「そよちゃんには海外では携帯電話を使えないと信じさせなさい。いい加減、あやつも踏ん切りがつくだろう。それから、ちょっと頼みがある」
「なんでしょうか?」
かしこまった国見に、稲村が耳元で囁いた。
話を聞いていた国見は「相変わらず、会長はお人がよろしい」とほくそ笑んだ。
ジェットが着陸態勢に入り、そよは目を覚ました。
窓の外にはどこまでも色とりどりに輝く夜景が広がっていた。
「もう、到着しますよ。携帯の電源は切りましたか?」
そよの隣に座っていたのは、出発した時とは異なる30代前半の男性だった。
「いえ、まだです」
「電磁波で計器が乱れますから、切って下さい。それから、海外で日本の携帯の電源を入れておくと、高額の接続料がかかりますよ。ご存知でしたか?ここはアメリカですから」
そよは慌てて鞄から携帯を取り出すと、自分の携帯と光田が送ってくれた携帯の電源を切った。
送られた携帯電話は光田が支払いをしてくれている。
とんでもない迷惑をかけてしまうところだった。
男性は、穏やかに見守っていた。
激しい揺れとともに、ジェット機は着陸した。
驚きのあまり、座席にしがみついていたそよに、男性は「大丈夫ですよ」と笑った。
秘書課の国見室長が、そよの隣に座っていた男性に声をかけた。
「稲村部長、参りましょう」
そよの頭の中に、たくさんの謎が渦巻く。
いなむら部長?
聞き間違いだろうか?
しかし、急いでジェットを降りなければならない。
そよはたくさんの疑問を抱えたまま、身の回りのもを抱えてジェット機を降りた。




