プロ野球選手との淡い恋⑤
入院から1週間が経ち、休憩室でお茶を買おうとと立ち寄った光田は、窓際に車椅子で外を眺めていた老人に気づいた。
「こんにちわ」
光田の声に気づいた老人はぼんやり顔を上げた。
車椅子の老人、稲村は急に瞳に力が込めて光田をじっとみると、車椅子で近づいてきた。
おそらく自分のファンでサインでもねだられるのかと思ったが、口から出てきた言葉は全く違った。
「お前さんのお陰で、そよちゃんに会える機会がめっきり減った」
「え?」
言いがかりも甚だしい。
何を言い出してるのだ、この爺さんは。
光田はその爺さんをじっと見つめ返した。
「お前さんが来て、女どもが色めきたって、そよちゃんの配膳の仕事を代わりだしただろ。そよちゃんの笑顔は俺にとって、この病院のオアシスなんだよ。だから、何とかしろ」
光田は松葉杖を脇に置き、椅子に座った。
「何とかしろっ言っても。だいたい、そよちゃんて...」
その時、入院した日に会った看護助手を思い出した。
「あ、もしかして、ちょっと田舎っぽい感じの、えっと、看護助手の」
「田舎っぽい?素朴でいいこだ。それに、なんでそんなに知ってる?まさか」
勝手に何を妄想したのか、稲村はワナワナと震えながら光田ににじり寄ってきた。
「お爺さん。何にもないですよ」
「爺さんじゃない。稲村だ」
「稲村さん、何にもありませんよ。それどころか、一度見ただけです」
稲村は胸を撫で下ろし、それはよかったと言った。
「俺は階段から落ちて3ヶ月になる。その間、あの子はいつも笑顔で仕事にをする。他のは気分が分かりやすいのがたくさんいるのに、あの子はいつも笑顔」
「プロなんですね」
「ここにいるのは全員プロだろ。だけど、彼女は一流だよ。お前さんの仕事だって、そうだろ。プロの中にも三流、二流、一流がいるだろ」
「稲村さん、俺のこと知ってるんですか?」
「知ってるよ。プロ野球選手でそよちゃんの仕事を奪って、俺から楽しみを奪った男だ」
光田は思わず笑った。稲村は続けた。
「だから、早く治して球場に帰れ。それで、そよちゃんの笑顔を俺に返せ」
そう言って、稲村は出ていった。




