プロ野球選手との淡い恋⑥
2週間が過ぎた日の昼、配膳にそよが現れた。
「こんにちは。お昼の時間です」
来るわけが無いと思いつつも、稲村の話から彼女のことが何となく気になっていた光田は、自分でも驚くほど動揺した。
「こんにちは」
光田の返事にそよは笑顔で返す。
稲村のおじさんから奪ったと言われた笑顔かと、ついじっと眺めると、そよと思わず目が合った。
いきなり逸らすのも変だと思われるかもしれない。
でも、じっと見ているのも変だろう。
そう思っているうちに、そよは机に膳を置き、湯呑みに麦茶を注いだ。
「失礼しました」
そよは大きな薬缶を片手に一礼すると部屋を出て行った。
光田は昼食の中華サラダと八宝菜を食べながら、我ながら自分の動揺ぶりを振り返った。
なんであんなに彼女を見てしまったのだろう。
きっと、稲村が言っていた一流を見ようと思っただけに違いない。
光田がそよと会うのは、シフト制なのか朝夕のまたは夕晩の食事の配膳、または患者の世話などをしている時に見かける程度だった。
タレントやモデルだのは山ほど見てきた光田にとって、そよは可愛い部類かもしれないが、美人ではない。
「普通の子だよ」
光田は呟いたが、薬缶で麦茶を注いでいる姿がぼんやりと脳裏を掠めた。
それから、光田はあぁ!とよく分からない声をあげて八宝菜をかき込んだ。
今はそんな事に気持ちを砕いている場合じゃない。
ちょうど見舞いに来た後輩に下膳を頼むと、チューブで上半身の筋力トレーニングを始めた。




